◇STORYTELLER◇



耳に届くは濡れた音のみで、ほんのりと色付く熱に苦しくなる。
視線は彷徨うことも許されずに息苦しさに細めていた瞳を強く瞼を閉じることで隠した。

「ッ・・・」

何なんだこの状況は!?
そう思っても声は出ない。

出す術であるはずの口は元凶に塞がれているのだから仕方ない。
だが、妥協できるはずも無いルルーシュは自分の口を塞ぐ者の肩を両手で押し返す。

だが、昔から力では勝てないと分かり切っている相手だ。
抵抗も虚しく、更に相手は強くのし掛かろうとしてくる。

自室の中央付近からベットに近付いていた。
相手の唇から一度解放されたかと思えば、今度は突き飛ばされてベットに尻餅をつくという失態を強要される。
相手を睨もうと顔を上げたが、鼻と鼻が触れそうなほど近い顔にまたやられると顎を引く。

その態度が気に入らなかったのだろう、肩を強く掴まれた。

「痛っ・・・スザク、痛い」

そう訴えれば、意外にも肩を強く掴んでいたスザクの手は離されて。
だけれど、解放されたわけではなかった。

「ルルーシュ」

二人きりだからだろうか。
皆が居るときとは違う声色で呼ばれて、心臓が煩い。

嬉しいという感情ではなく、戸惑いと恐怖の早鐘が鳴り響く。
怖くてルルーシュは後ろへ、ベットの上に乗ったまま壁に背を預ける形になった。
スザクは静かに追ってきて、ルルーシュは声無くそれを見つめたまま。

ルルーシュは理解出来ないでいた。
スザクが近付いてくる間もよく廻転する頭を働かせる。それでも理解出来ない。

ルルーシュの行動はずっと監視されている。
自室にもカメラが設置してある。その位置から此処は死角ではなく、カメラのレンズ真正面から少し右。

アッシュフォード学園の地下に創られたブリタニア軍の餌管理室。
そこに今の映像は流れているはずだ。
この状況になる前に先に手を打っておくべきだったと自分の行動の遅さを呪いたいところだが、今はそれを考えている場合ではない。

「・・・ルルーシュ」

むしろ熱のこもった声で名を呼んでくる目の前の元凶を呪いたいところだ。
だが、今更それも遅いか・・・。

ルルーシュの監視をしているのはスザクよりも階級は下の軍人であるという事実だけが救いかもしれない。
万が一の確率でこの映像が誰の目にも触れていないことを願うばかり。

ひとまず、一つの悩みは自己完結しよう。

次はもう一つの疑問。
スザクが口付けしてくる意味が分からないのだ。

スザクの記憶が書き換えられているわけが無い。
それならナイトオブラウンズに所属しているわけが無いからだ。

憎いはずだろう。
ユーフェミアを殺したゼロが何よりも憎いはずなのに。
求めてくるなと口に出来ずに、目頭が熱くなる感覚にルルーシュは舌打ちをしたくなるのを抑えて唇を噛む。

しかし、噛んでいた唇に自分より少し硬いスザクの指が触れてきたことにルルーシュは目を見開く。
驚いてスザクと視線を合わせるが、彼は無感動な瞳で自分を映していた。
それが酷く悲しい。

「どうして逃げるんだ?」

どうして?
それはこっちの台詞だとルルーシュは余計に理解出来なくなった。
これは復活したゼロである可能性を試しているのではないのか。

ルルーシュを否定したはずのスザクが何を思って近付いてくるのか、触れてくるのか全く分からないまま。

監視カメラから逃げることも出来ない。
一方的にスザクを拒否することも出来ない。
感づかれるような言葉を口にしてはいけない。

「別に逃げているわけじゃない」

視線を顔ごと逸らせば、唇に触れていたはずのスザクの手がルルーシュの顎を捕らえた。
必然的に再びスザクと顔を合わせることになったルルーシュはせめてもの抗いと、視線だけでも逃れ、視界からスザクを排除する。

そんなルルーシュの態度にスザクは小さな溜息を漏らした。
静かな無音の部屋では、それもルルーシュの耳に届く。けれど、気にはしない。

ルルーシュの顎を捕らえる手とは逆の手でスザクはルルーシュの右手を取り、指と指を絡み合わせるようにして壁に押し付けた。
不思議そうにそれを視線で追っていたルルーシュからの抵抗は何もなくてスザクは安堵する。
おそらく、嫌がられてはいない。

感情よりも身体は正直だ。
生まれてから、確かにスザクは言葉よりも先に手が出てしまうタイプであり、今も・・・。

悲しみよりも憎悪が勝っている。
愛しさよりも憎悪が強い。
切なさよりも憎悪が膨らむ。

憎い。

ただ、それだけのはず。
しかし、本当にそれだけならば、何事もなかったかのようにまた友人として振るまえなかったことをとても理解しているのもまた事実。

『愛』と『憎』は紙一重。

今。この瞬間。この刹那。
痛いほど実感している。

スザクを伺うようにゆっくりと紫電の瞳が此方を見つめてくる。
視線が合わさった瞬間に眉尻を下げたルルーシュの表情に何だろうと彼の瞳に映る自分の顔を見てスザクは他人事のように納得する。

嗚呼、泣きそうな顔をしている。

ルルーシュが記憶を無くしたことに異論は無かった。箱庭で無関係に過ごしていてくれれば。
否、C.C.の餌としているのだから永遠の安らぎなど約束されていない。
それでも、ゼロでなければ、ずっと自分の腕の中に閉じ込めておける。
そんな優越感に満足し、満たされていなかったのだ。

自分はいつも矛盾していた。今更だけれど。

いつだったか、自分は自分の矛盾に殺されるのだと言われた。
そうかもしれない。
現に、『僕』は『俺』の感情を殺さなくてはならない。

「ルルー、シュ」

ルルーシュも泣きそうな顔をしている。
スザクは己の唇でルルーシュの唇を再び塞いだ。
長い絡み合いから離れた二人の赤い唇を繋ぐ透明な糸にスザクは指を伸ばし、自ら断ち切った。

ベットのシーツは皺を刻んで。
いつの間にか、お互いの両手は絡み合っていて解けなくなっていた。
雁字搦めの熱が嘘のように温度を上げていくばかり。

誰が誰を愛していたかなんて必要ないんだよ。
































◆あとがき◆

storyteller (主に子供の)うそつき。
R2では初書き小説になります。

ちなみに、監視カメラにはモロに二人のキスシーンが映っているはずです。
スーさんは口より先に手が出てしまうので、後先考えませんからw

ヴィレッタの誕生日プレゼント渡したあの後、きっと何か言われたに違いないです・・・ご愁傷様です(´∀`*)アヒャー
むしろスーさんも部下から白い目で見られたり?


更新日:2008/05/12



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