◆Nieselregen◆









戦艦ディーヴァがビッグリング基地に収容され、青い地球が窓の向こうに見える通路をミレースが先頭に立ってクルーを引き連れて闊歩している。
向かい側の通路から金髪の青年を引き連れて歩いてくる女性にアセムは嬉しそうに彼女のもとに駆け寄っていった。

「母さん!」

呼ばれ、表情を引き締めた彼女は少年を諭す。

「私はこの基地の司令官、フリット・アスノ中将だ。アセム・アスノ伍長」
「ぁ…すみません」

笑顔を消して肩を落とす我が子にフリットは久々の再会にしては厳しく言い過ぎたかなと吐息し、表情を崩して微笑む。

「此処までよく来たね、アセム」
「…母さん」

アセムの頭を撫でるフリットの顔は母親のそれだった。

「お久し振りです。アスノ司令」
「ご無沙汰しています」

ミレースを始め、クルーらの敬礼を受けてフリットも彼らを見渡し敬礼する。数歩遅れてクルーらの中に混じったウルフは片目を瞑ってフリットにコンタクトする。
敬礼をしない彼にウルフらしいとフリットは苦笑を混ぜた表情を一瞬作った。

「戦艦ディーヴァ、ビッグリングに到着しました。詳細は後ほど報告させて頂きます」

ミレースの言にフリットは頷く。
ディーヴァは地球に降りるはずだったが、ミレース達にヴェイガンがビックリングを襲撃する情報を伝えてディーヴァにも防衛戦の戦力に加わるよう指示を出す。
ミレースは了解し、他のクルーも敬礼で参戦の意志を告げた。







隊長を除くウルフ隊の面々は通路の一角にあるディスプレイの前で立ち止まっていた。
次世代型パイロット育成プログラムについてオブライトの説明が終わったところでウルフ隊の紅一点であるアリーサはアセムの背中をつつく。

「なぁなぁ、アセムの母ちゃんって本当に四十?」
「そうだけど」
「あたしの親父と同い年とかあり得ないわ。あれは三十路前って言われても違和感ないもんな」
「そうかなぁ?」

アセムは首を傾げた。
“トルディア”に妹と一緒に過ごしているだろう育ての親であるエミリーの顔を思い出してみる。授業参観で誰かの母親とエミリーを比べたことはないが、友人からお前の母ちゃん美人だよなとかは何度も聞いたことはある。
フリットとエミリーは同い年で、二人とも外見だけ見れば年の差があるように感じたことはない。AGE-2のエンジニアであるディケも彼女らと同い年だが男と女では比べようがない気もした。
アセムの微妙な反応に不満を得てアリーサはマックスに話を向ける。

「マックス少尉もそう思いません?」
「アリーサ君、アセム君のお母様は此処の最高責任者なんだよ。そんな人についておいそれと語れないよ」

マックスは眼鏡を上げ直しながら言う。アリーサはつまらないとばかりに唇を尖らせて今度はオブライトに標的を定める。

「オブライト中尉はどう思います?」
「え?あー、綺麗系というよりは可愛い系だと思う」
「いや、そういう事を聞きたいんじゃなくて」

少し論点がずれているオブライトにアリーサは頭を掻く。まあ、可愛い系だと言うのには同意だが。

「ま、いいや。そういやさ、アセムの親父ってどんな人?」

彼もアスノなのだから父親とは死別かもしれないが、あのアスノ司令の旦那像が気になって訊ねる。アセムが言いづらそうなことなら直ぐに会話を断ち切るつもりだ。

「妹が産まれるまでは一緒に住んでたらしいんだけど、あんまり記憶が無いんだ」

アセムの話しぶりに死別じゃないのかとアリーサは驚く。まあ、勝手な想像をしていた自分がいけないのだけれど。

「アセムの親父って生きてんの?お前のファミリーネーム、アスノじゃん」
「正直に言えば生きてるのかさえ知らない。母さんも育ての母さんも忙しい人だからって言うだけだし」

自分だったらもっと食い下がって訊くけどなとアリーサは思う。
だが、そんなお人好しなアセムがアセムらしいと納得して苦笑した。







参謀であるフレデリックを横に置き、フリットはスクリーンに映し出されるミッションプランについて意見を交わし終えようとしていた。後は実戦でリアルタイムに諸処の変更をしていくことになるだろう。

「新造戦艦のアマデウスも前方の配置は避けたいところだ」
「なら、全ての艦艇を後方に置いて各戦艦のレーダーの情報を指揮所で処理し対処していくことになりそうですね」
「モビルスーツそのものを弾頭扱いすることになるが、仕方ない」

慈悲が垣間見える台詞だったが、フレデリックが見るフリットの横顔は淡々としていてその奥の感情は窺い知れなかった。
スライスレインズ士官学校を首席で卒業し、その才能を認められてフリットの右腕となったフレデリック・アルグレアスは二十四とこのような役職に就くにはまだ年若い。

自分がまだ若造である自覚のあるフレデリックはフリットに貴女の片腕になるにはまだ早いのではないかと漏らしたこともある。けれど、年齢と能力が必ずしも比例するものでないと考えるフリットはフレデリックの能力を評価した上で君を選んだのだと言った。
技術士として、パイロットとして、指揮者としての才があるフリットにそう言われて舞い上がらないわけがなかった。
彼女に子供がいなければ高望みしていただろうとも、フレデリックは思う。

「通信機はオンにしておく。何かあったら連絡してくれ」
「旦那さんのところですか?」
「…分かってるなら、言わないで」

素に戻って言うフリットの頬が赤らんでいることに気付かないフレデリックではない。その背中をドアが隠すと、指揮所のオペレーター達が数人振り返る。

「やっぱり敵いませんね、白い狼には」

フリットとウルフはいわゆる内縁という関係で婚姻はしていない。その理由を周囲は詳しく知らないが、二人がどういう経緯でパートナー同士になったかはコロニー国家戦争で活躍したガンダム並みに伝説として耳に入れている軍人は多い。特にこのビッグリングにいる軍人は必ずと言っていいほど誰かから聞かされる話だ。人間とは何時の時代も噂を欲するものである。

「敵わないも何も、勝負するつもりもないさ」

相思相愛を邪魔をしたところで馬に蹴られるのがオチだとフレデリックはよく分かっていた。
オペレーター達の揶揄にももう慣れてしまい、肩をすくめて直ぐに自分の作業に戻ってパネルのキーを叩く。







ビッグリングに収容されたディーヴァの格納庫にフリットが足を踏み入れたのをディケはAGEビルダー制御室から視界の隅に捉える。

Gエグゼスの面影を残す白いモビルスーツ、Gバウンサーはウルフの新たな愛機である。ヴェイガンの襲撃に備えてエンジニアと意見を交わしていたウルフはキリの良いところで会話を切り上げると、フリットに歩み寄る。

「よっ、どうした?」
「AGEシステムの調整って名目で来たんですけどね」

後でちゃんとAGE-2のシステム面を見るつもりだが、フリットはそう言ってウルフを見上げて言葉を言い終えると視線を逸らした。
それだけで自分に会いに来たと自負するウルフはそれが間違っていないことも分かりきっていた。
だったら、と。ウルフはフリットを抱き寄せてその腕に彼女を捕らえる。

今の時間、格納庫内の人はまばらだが、視線は確実にあった。けれど、その視線を気にするよりも今はこの人の腕の中にいたいとフリットは大人しくウルフにされるがままだ。

「抱きしめ返してくれないのか?」
「ん」

請われ、フリットはウルフの背中に自分の腕をまわす。すれば、頬と頬をくっつけられてスンスンと匂いを嗅がれる。
変わらぬ匂いに満足したのか、ウルフは更にぎゅっとフリットを抱きしめた。

それを工具棚の隙間から見てしまったアリーサとオブライトはギギギッと壊れかけたブリキの玩具のように顔をゆっくりと見合わせる。

「あのー…何か見えてはいけないものが見えてる気がします、中尉」
「君にも見えているのか。実は俺もだ」

これは所謂アレですか?不倫ですか?そうなんですか?と疑問ばかりが飛び交いつつも、アセムが次世代型パイロット育成プログラムの適性検査を受けに行っていて今この場にいないのが救いだとアリーサは思う。
しかし、驚愕が抜けきらないまま何か知っていそうな身近な人物、即ち自分の父親であるディケに訊くのが一番だと、アリーサはオブライトと共にAGEビルダー制御室に向かった。

「ああ?あれか。何を言い出すかと思えば」
「親父!何でそんな冷静なんだよ!?」
「オヤジじゃないパ…いや、まぁいい。何でってそりゃ、あの二人が夫婦だからだろ」
「どういうことですか?」

オブライトも親子の会話に割って入ってしまうくらい、信じられない事柄だった。

「ウルフの方に事情があるらしいが、書類上にもデータ上にも婚姻の事実はない。けど、内縁っていう体(てい)で二人の間では話がついてる」
「じゃあ、不倫じゃないんだ」

娘の素っ頓狂な結論にディケは呆れる。

「アセムも二人の子だ。ん?まさかお前らもそれを知らなかったってことはウルフはまだ自分が父親だって言ってないのか?」

アリーサに対してよりも更に呆れたディケは頭を抱えたくなってきた。
アセムが三歳になるまでは一緒に暮らしていた彼らだが、そんな小さいときのことをアセム自身が覚えてはいないだろう。

結婚した後にシングルマザーになることは許されているが、結婚もせずに子を作ることはA.G.という西暦になってからは法律上認められていない。増大し続ける人工をコロニーで支えられるようにするためにはそういった確約が求められた。
それでもフリットが二児をもうけられたのは彼女にコスモノーブルのアスノの血が流れていることとXラウンダーに覚醒していたからだ。

これはディケの憶測でしかないが、連邦はXラウンダーの子がXラウンダーなり得る存在なのか試したのではないかとも考えていた。
真実は定かではないが、アセムがウルフとフリットの息子であることは間違いない。

「アセムは父親が誰か知らないって、さっき本人の口から聞いたばかりだよ」
「認知はしてるんだから、言えばいいものを」

ディケがそんなことを口から漏らすと同時にAGEビルダー制御室の入り口にフリットが顔を出す。

「ディケ、久し振り」
「おう」

ビッグリングの司令官であるフリットにディケは旧友として返事をするが、アリーサとオブライトは違う。二人はさっきウルフとフリットのソフトであったとしてもラブシーンを垣間見てしまったことに顔を僅かに赤らめたまま背筋を伸ばして敬礼する。

「いいよ、今は司令としてじゃなくてエンジニアとしてAGE-2の様子を見に来てるだけだから」

そんな風に言われてはアリーサもオブライトもずっと敬礼をしているわけにはいかない。フリットの役職と立場を考えれば硬い人であっても可笑しくないのだが、彼女は部下であるはずのディケに友人としてシステムの調子を訊ね、意見を交わし始めた。

「…そっか、AGEシステムは火力特化型の設計図を作り出してるんだね」
「ああ。それでな、アセムはどうも二刀と二丁で戦うことが多い。一つ提案としてバレットを二丁にしても良いんじゃないか?」
「成る程。少し軽量化して小回りがきくようにすると良いかもね」

そう呟くとフリットはディケの傍らにいたハロを持ち上げる。

『フリット!フリット!』
「久し振り、ハロ」

懐かしそうにそう言ってフリットはAGEビルダーの一角にPCモードに切り替えたハロを接続する。
キーを弾くその指に迷いはなく、集中し始めたフリットにディケは苦笑する。一からプログラムをくみ上げるわけではないのでそんなに時間は掛からないだろうが、暫くは周りの声も耳に入らないほど作業にのめり込んでしまうだろう。

「終わったら声掛けてくれよ」
「………」

返事はなかった。いつものことなのでディケは気にせず自分の作業に戻る。

「お前らも自分の持ち場に戻るなり、整備なりしろよ」

ディケが手元から目を離さずにアリーサとオブライトに命じれば、二人はぎこちない返事を返す。どうしたとディケが二人を振り返り、彼女らの視線を追いかけた先にウルフが立っていた。

「何だ?幽霊でも見たような顔して」

腕を組んだまま首を傾げたウルフにアリーサとオブライトは明後日の方向に視線を逸らす。

「そんな顔もしたくなるさ。ウルフ、お前さんアセムにまだ自分が父親だって言ってないそうだな」
「おいおい、こんなヴェイガンがもうすぐ襲撃してくるって時に言えないだろ」

アリーサとオブライトには知られてしまったかと、ウルフは二人の肩に手を置いてディケに振り返った。

「今じゃなくても告げる機会は今までにもあったんじゃないか?」
「まぁ、そう言われると何も言えんけどな。俺にも事情がある」
「堂々とフリットと抱き合ってた奴の台詞とは思えないな」

大体、フリットとアセムが可哀相だとは思わないのだろうか。結婚せずに子供を産んだフリットを良く思っていない者も多く、アセムも父親がいないことで同年代の子と上手く馴染めていなかったのではないかと想像に難くない。

「フリットから言わせるつもりか?」
「そんな馬鹿なことはしない。時期が来たら言う」
「本当だろうな?」
「ああ」

嘘を言っているようには思えなかったので、ディケは溜息だけ吐いてそれ以上は掘り返さなかった。
ウルフは今日はもう見逃してくれるらしいと分かって苦笑する。

言わなければならないことだとは十分承知していた。
けれど、いざアセムを目の前にすると怖くなるのだ。自分の性格が原因で赴任地を転々としていたなんて言い訳は通じないだろう。ほったらかしにしていたのは事実なのだから。

フリットと結婚しなかったのも人の父親になってはいけないと自分のエゴを優先してしまったからだった。
ならば、今更父親面するのも可笑しいではないか。

結婚は出来ないとフリットに告げたとき、彼女は激高することもなくただ、ウルフの両手を取り、真っ直ぐに見つめ返してきた。

「誰かを撃ってきたのは僕も一緒です」

その一言でウルフの胸の内をしっかりと読み取っていることに気付いた。全てを理解しているわけではないにしろ、そうやって気付いてくれるのだ。
フリットもまた、人の親になってはいけないのではないかと考えていたのだろう。けれど、この時既にフリットはアセムを妊(みごも)っていた。
男と女では決意の仕方がこんなにも違うのだと、この瞬間思い知った。

「でも、この子を産んでもいいですか?」

おろせ。なんて言えるはずがなかった。

自分に出来るのは彼女を抱きしめて
「産んでくれ」

「すまない」
と言うことだけだった。

それでも、フリットはウルフにもお腹の中の子は産まれてくることを望まれていると確信出来たことが何よりもの安堵だった。

ウルフは夫にならなくとも、フリットを支えようと一緒に過ごしてはいた。だが、成長していくアセムを見ていて、やはり自分が父親になるに値する人間ではないのだと自覚せざるを得なくなった。

ユノアという娘も産まれ、アセムの時と同じように抱き上げたとき、その重みが体重というものを超えてずっしりと両手から腹の奥底まで伝わってきた。
普通の父親なら喜び、歓喜すべき瞬間のはずだった。だからこそ、そう感じた刹那。親になることは自分に許されていないと判決を下されたような気分を味わったのだ。
そんな最中、転属先を言い渡されて逃げるようにあの家を出て行った。

親になるつもりも結婚するつもりもないなら誰かを好きになる資格もなかったのだろう。けれど、フリットを好きになった衝動はどうしようもなかった。
結果的に嫌われても仕方ないと覚悟もしていたが、彼女は赤子のユノアをその手に抱き、ずっと待っていると言ってくれた。まだ言葉が舌っ足らずなアセムはフリットの足下に抱きつきながら「パパ、いってらっしゃい」と無垢な瞳を向けていた。

フリットは会う度にアセムとユノアの写真を見せてくれて二人の成長はそこから知っていた。
連邦からの指示でアセムは軍隊入りしなければならず、いずれ会うことになるだろうとは予想していたが、思っていたよりも早い再会に内心戸惑った。
それを悟られないよう交わしてきたが、そろそろ潮時なのだろう。

「ディケ、少し見てくれるかい?」
「終わったか?どれどれ」

フリットが作業の手を止め、ディケに設計図の変更点を見せる。

「流石だな。これならバランスも良いし火力も下げなくていい。次の戦闘でデータを取って索敵システムを向上させればイケるぞ」
「後は任せても良いかな」
「おう」

フリットはAGEビルダーをディケに委ねて一息吐くと、背後に立つ気配に振り返る。

「ウルフさん、どうかしましたか?」
「要件は済んだんだろ」
「ええ、まぁ」

少し嫌な予感がするなぁとフリットは思い、指揮所に戻らなければいけない時間を聞いたウルフは一つ頷く。

「三ラウンドはいけるな」
「は、え?」

フリットを抱き留め、引き摺っていくウルフの足取りに迷いはない。AGEビルダー制御室の出入り口まで引き摺られたところで三ラウンドが何を意味するのか理解したフリットは頬を赤くしてドア枠の縁に両手の指を引っかける。

「ちょっと、待って下さい。そんな時間は」

ビッグリング攻防戦に備えて皆が真剣に取り組んでいる最中に夫婦の営みをするなど以ての外だとフリットは考える。けれど、ウルフは聞く耳を持たずにフリットの手を縁から引き剥がした。

持ち帰られていくフリットをディケは手を振って見送り、心の中でご愁傷様と呟いておく。
アリーサとオブライトは何かどっと肩の荷が落ちた気分を抱き、その場に尻餅をついた。







ディーヴァ内のウルフの佐官用の部屋。ベッドの上だが、服を着たまま横になった背中に抱きついて離れないウルフにフリットは首を傾げる。

「何か、ありました?」
「アセムに、父親だと言えてない」

作業に集中しすぎていたフリットには先程のディケとウルフの会話が耳に入っていなかっただろう。改めてそう言えばフリットは一度沈黙し、自分を抱きしめている腕にそっと手を重ねる。

「…アセムは優しい子に育ちましたよ。ユノアは貴方に似て快活な子です」
「……」
「僕は、父親がウルフさんで良かったと思ってます。誇らしく思うくらいに」
「すまない…」
「良いんですよ、ウルフさんが決意を固めようとしていることが分かっただけで十分です。今すぐアセムに言えることじゃないのも分かってます」
「フリット」

ウルフが動いた気配にフリットが仰向けになれば、ウルフが覆い被さってお互いに向き合う形になる。

昔はこの人の背中を追いかけて甘えてばかりだったように思う。けれど、彼を抱き留められるようになったことを嬉しく思うのは不謹慎だろうか。
羽根のように舞い降りる口付けをフリットは受け入れた。







「ン」
「気持ちいいか?」
「ゃ…もう、ウルフ」

ベッドシーツの上で絡み合う吐息が激しさを増そうとした瞬間、ベッドの脇に落とされたフリットの軍服から高音が鳴った。
通信機が鳴っているとフリットがウルフの腕を叩けば仕方ないと解放される。
フリットは軍服から通信機を取り出して音声のみで通信を開く。


SOUND ONLYと表示されるスクリーンにフレデリックは何かモヤモヤとしたものを抱くが表に出さないように平静を装う。

『アスノ司令、お戻りの時間を五分過ぎておりますが、AGEシステムに何か問題でもありましたか?』
『いや、大丈夫だ。すぐ戻、ひっ…何す、うわあああ』

ブツッとインカムが通信を切られた音を伝え、スクリーン横のスピーカーも同じ音をさせた。向こうで何が行われているのか想像してしまいそうになるのをフレデリックは首を横に振って払いのける。
再びスクリーンに通信が開かれたことを示すウィンドウが出ると、フリットの装ったような咳払いが入る。

『すまない。少し邪魔が入った…何ですか、その目は』
『司令?』
『ああ、気にしなくていい。こっちの話だ。すぐ戻る』
『了解しました』

通信を終えたフレデリックにオペレーター達が気遣う視線を向けるが、それに応えらないほどにフレデリックの神経は削られていた。





























◆後書き◆

ウルフとフリットの間にナチュラルにアセムとユノアが産まれちゃっているのは寛大なお心で受け止めていただけると大変有り難いです。
49歳×40歳とか書いたことなかったうえに子供を持つ親はどういった心境なんだろうと考えながらの執筆に。
小説版の二巻にあったウルフさんの内情一文から掻き立てられてしまいました。

Nieselregen=霧雨

pixiv掲載日:2012/04/10
更新日:2012/04/21








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