18歳未満の方は目が潰れます。






























◆Vertrauen-zwei-◆









一番乗りをしてしまったブリーフィングルーム。入り口から最奥の壁へと向かうが、背を預けずにフリットは腕を組んで待機していた。

ウルフから自分と行動を共にするよう言い含められていたが、フリットは頷き返していない。そのため、独自の判断で自由に行動していた。子供ではないのだ、もう。
そんな理由からウルフが同道を提示したわけでないことは充分に判っていながらも、心配無用と意地を張った。

ウルフは時間前に行動したり時間通りに行動したりと、その日その時でまちまちだ。遅れることはフリットが知っている範囲では一度もない。
出入り口の開く音にフリットは顔をあげる。ウルフだと助かるのだが。

しかし、彼ではなかった。同僚達の姿にフリットは表に出さない程度に身構える。
談笑しながら室内に入ってきた彼らはフリットの姿に一瞬口を噤むが、すぐに会話を続けた。
続いて入室してきたのも同僚だ。ウルフを除いた隊のメンバーが全員集結したことになる。

今日に限って遅いとフリットは眉目を少しばかり歪めた。自分と僅かに距離を取る間隔で、同僚達が小声で話し合っている。ちらちらと此方を見てくる視線がたまにあり、余計に肩身が狭くなる。

別段仲良くしていたわけではないが、人間関係は良好だった。と、フリットは認識している。彼らのノリの高さからすれば付き合いが悪いと思われているかもしれないが、日常会話ぐらいは交わしていた。
けれど、今日は誰とも挨拶さえ交わしていない。

ギクシャクした空気にフリットは顔を横にして時間が過ぎるのを待ち耐えていた。
早く来てくれないだろうか。そればかり考えていれば、不意に圧迫感を感じた。
面をあげたフリットの視線の先には副隊長。その横に二人ずつ。五人全員の目が自分に集中している。目前という距離ではない。腕を真っ直ぐに伸ばさなければ届かない間がある。

しかし、じっと見られていれば居心地は悪い。フリットは顎を引いた。思わず後ろに退避しようと足が後ろに動いたが、壁に背中が当たってどうしようもなくなった。
そんなフリットの様子は気にも止めず、同隊員らはそれぞれ首を傾ける。
本当に女?胸とかこれどうなってるんだ?
そんな疑問を浮かべながら、副隊長が片手を持ち上げる。

「なあ、アスノ」
「!?」

身体を縮めて全身で身構えたフリットはぎゅっと目を瞑る。

「お前ら、俺のもんに何してる」

副隊長を筆頭にギョッとする彼らの背後に立っているのはウルフだ。

目を開けたフリットと目が合うと、ウルフは部下二人の肩を掴んで左右に押しのける。その隙間から手を伸ばしてフリットの腕を掴むと、部下達から引き剥がすように自分に引き寄せた。
当然のように肩を抱いてきたウルフに対し、フリットは目元に陰を持って距離を取った。

「私は隊長のものになった覚えはありません」

事務的な口調と態度にウルフは眉を不機嫌に歪める。
俺の女だと部下達の目の前で宣言したのは先日のことだった。その時には拒絶などしなかったくせに。
それに、今日遅れてしまったのはフリットを探していたためだ。俺と同道するよう言ったはずだと眇めに込めれば、フリットは貴方の勝手を押し付けるなと睨み返してくる始末。
だが……顔が合ったほんの一瞬、ほっとした表情を見せたのを忘れる気はない。

今のフリットと話を付けるのは時間が掛かるとして、ウルフは再び部下五人へと剣幕を向ける。彼らは一斉に両手を顔前にあげて掌を見せると首を揃えて横に振った。

「いや!何もしてませんよ、俺たち!」
「何かしようとしてただろ」
「それは……」

副隊長は左右に視線を振って、誰も口を割らないのを目にして肝を据えた。

「その、胸どうしてるのか訊いてみたかっただけで」

一斉にフリットの胸に視線が集中する。
平らになっている胸をガードするように腕を持ち上げたフリットは思わずウルフの後ろに隠れる。

「セクハラだぞ、それ」
「や、触ろうとはしてませんよ。セクハラだったら隊長のほうが酷いはずですよ」

手をあげたのは触ろうとしたわけでなく、指をさして尋ねようとしただけだった。
慌てて捲し立てたため、余計なことまで言ってしまった。ウルフからの睨みが更に険しくなる。

「あの」

後ろのフリットから声を掛けられ、ウルフは振り返る。

「もういいんで、先にブリーフィングをしてください」

どうやら勘違いしていたらしい。自意識過剰が過ぎたと、副隊長達に対して怯えてしまった自分が滑稽だったことをフリットは反省する。

この件を長引かせる必要はない。ウルフはそう判断して、いつものようにブリーフィング内容が記された画面を開いた端末をフリットに手渡した。
受け取ってしまったフリットだが、この状況で自分が説明することを持て余した。

喉を詰まらせたフリットを見かねて、副隊長が彼女から端末を取る。

「俺がやる。今まで任せっきりだったしな。お前みたいに完璧にはやれないだろうから、訂正は頼む」

思案を置いてから「はい」と頷いたフリットは恐る恐るウルフを見上げた。思っていたより機嫌を害した様子は見受けられず、胸を撫で下ろす。

基本的には哨戒任務の確認と手順のお浚いだ。しかし、抜かれば危険を伴うと理解しているからこそ、一様に真剣な面持ちである。今回はデブリが多い宙域となれば、機体が傷付かないように細心の注意をはらう必要があった。

ブリーフィングが終わると、ウルフはフリットを見遣る。その視線にフリットは足を後ろに引いた。すれば、副隊長らがフリットに声を掛ける。

「今からみんなで食堂に行くけど、アスノも行くか?」
「えっと……」

言いあぐねる様子に、副隊長は次にウルフに尋ねた。

「隊長はどうします?」
「俺はパスだ」
「アスノは?」

再度、副隊長らから尋ねられたフリットは背中に突き刺さる視線に気付きながらも頷いた。

「……行きます」

室内を出て行くまでずっと視線を感じていたフリットは通路に出てから一息つく。
同僚達の一番後ろを歩いているのだが、彼らは避けるでもなく、休憩室より食堂のコーヒーの方が美味いよなと他愛なく普通に会話の中に入れてくれる。

そういえば、あれ以来まともに彼らと話していなかった。自分から避けていたのだから当たり前か。
狡いことをしているのではないか。フリットは自問に表情を落とす。

「ところでさ」

隊の中で唯一、フリットと同い年の彼が振り返りざま。

「ウルフ隊長と付き合わないのか?」
「え」

思わずフリットは足を止めてしまった。けれど取り繕うように歩き出す。

「別に」
「物件としては悪いことないじゃん」
「顔もイケメン、頼り甲斐もある、破産の心配無し。何か不満でもあるのか?」

気の無い返事をすれば、仲間内から次々と言葉が挙がってきた。

「不満とかじゃなくて」

どう説明すればいいだろうか。
言葉を詰まらせるフリットを目の前に、彼らは互いに顔を見合わせる。

「もしかして、下手なのか?」

副隊長が声を潜めて尋ねてきた。フリットは何がだと、首をことりと傾げた。

「セックス」

立て続けられた事象にフリットはぞわりと髪と肩を逆立てる。
顔が赤くなるが、青くなってもいる。

「っ……、ッ……」

声も出ず、フリットは首を横に振るのが精一杯だ。

「やっぱなー。下手なわけないぜ、あの隊長が」
「イメージ崩れなくて良かったぁ」
「実はそっちは不発ですとか、流石に引くもんな」

各々のマイペースさに、フリットは一人でギクシャクしている自分がおかしいのだろうかと感覚が掴めずに動きを止めていた。
彼らはいつも通りだ。今までと変わらない態度に何でだと疑問しかない。

「どうして、いつも通りなんだ」

聞き取った同い年の彼が面をあげた。

「あったりまえだろ。って、言いたいところなんだけどさ」
「正直、俺達だっていきなり女扱い出来るほど女と喋ってないっていうか」
「下ネタに付き合わそうとした時あったよな、ごめんな」

謝られたが心がこもっていなかった。つい先ほども直接的な言葉を使われたばかりだ。
どうやら、異性として見られないからだったという単純な理由にフリットはむしろ安堵する。

「気にしてない」

苦笑混じりに返せば、彼らも一様に安堵を見せる。ただ、二人ばかりフリットの綻んだ顔を見られずにそっぽを向いていた。
食堂の手前まで来たところで、先ほどそっぽを向いていた片方がフリットの異変に気付く。

「アスノ、大丈夫か?顔色悪いぞ」

彼の声に他の者もフリットを振り返り見た。指摘されるほど彼女の顔色は青白い。皆の気遣いにフリットは隠し通せないと腕を胸に押し当てる。

「ごめん、苦しい。先に行っててくれ」

そう言うとフリットは彼らの顔も碌に見ずに来た道を戻った。

「腹でも壊したんかな?」
「違うだろ」

勘違い発言に対して副隊長が手刀をそいつの頭に喰らわせる。

「いてっ。何するんすか」
「胸押さえてたの見てなかったのか?」
「あ。あー、なるほど」

不可抗力で見てしまったフリットの裸体を思い出してしまった彼は頬を掻く。

「やっぱ苦しいもんなんかな」
「なあ、もしかしてさ。ブリーフィングの後とかで隊長がフリットだけ居残りさせてたのって」
「だろうな。隊長は知ってたわけだし」

ウルフと付き合いが一番長いのはフリットである。隊長の動きに合わせる僚機を務められるのは、この隊の中ではフリットだけだ。だから、今までウルフが特にフリットを構うこと自体を気に留めていなかった。

「それなら、益々おかしいよな。二人が付き合わないの」
「隊長は付き合ってる気でいるし」
「今日だってなぁ。マジ失禁するかと思った」

後ろから威圧された時もだが、フリットを食堂に誘うところから連れ出すまでの間もピリピリと睨みを利かせていた。
後者は殆どフリット個人に向けられていたものであったが。けれど、それを考えると連れ出すべきではなかったかもしれないと思い始める。そうすれば、フリットは胸が苦しいことを自分達に言わなくて済んだし、本人もウルフ相手が一番気を許せたはずだ。







男性用トイレの個室に入り、ドアを閉めようとした。しかし、ドアを押さえる男の手があり、閉まらない。

「ッ……なに、してるんですか」
「用をたしにきたに決まってんだろ」

個室に押し入ってきたウルフは後手にドアの鍵をかけた。

「それなら、別のを使ってください」
「お前以外の女とヤる気は今んとこねーけど」

肩を押し下げられて、蓋のない便座に座らされたフリットは眉を歪める。ウルフとの会話が噛み合わない。
上着の首元に手を掛けられ、フリットはウルフの腕を押さえた。

「苦しいんだろ」

顔を覗き込んできたウルフの声色にフリットは腕の力を緩める。
手を下ろしたフリットが顔を横にして目を閉じたのを見送ると、ウルフは手を掛けていた上着の前を開けた。

上着の裏地にプロテクターが仕込まれている。無理な押さえ付けから解放されたフリットがほっと吐息を零す。
その下の下着はチューブトップだが、サイズが小さいため、膨らみは未だ窮屈そうに映る。

トップの内側に指を引っ掛けたウルフはおもむろに下にさげた。
ぷるんと外気に晒された自らの乳房にフリットは目を見開いて口元を戦慄かせる。

咄嗟に隠そうとする腕を掴み上げ。ウルフはフリットの膨らみに顔を寄せると、先端の色付きを唇で咥える。
吸われれば唾液混じりの音が耳につく。

「ッ―――」

声を出すまいと全身に力を入れるフリットの胸を吸い続け、先端を舌で転がした。そして歯で甘噛みする。

「ひっ……ゃ」

一際強く吸ってから、ウルフは一旦距離を取る。フリットの顔を覗き込めば熱に浮かされていた。
視線を横に流したフリットは唇を噛む。

声を出してしまったことか、それ以前のこの状況に対してか。理由は定かでなかったが、ウルフは構わずにフリットに再び近付く。

抱き締められるようにされてフリットは困惑に固まっていた。しかし、ウルフの手が此方のベルトにカチャリと手を掛ける様子に肝を冷やす。

「此処では……っ、やめてください」
「他の場所ならいいのか?」
「いいも何も、常識的に」

間違っていると、フリットは瞳に込める。
目力は一人前だなとウルフは眇めを返す。すれば、肩を押し返そうとしていたフリットの力が緩んだ。その隙に彼女のベルトを外し、ズボンをショーツごと足首まで下げる。

股の間に差し込まれたウルフの手がそれ以上動かないようにフリットは腿を閉じる。

「待って、ください」

眉を下げ、困り果てている様子のフリットを前にウルフは口をへの字に曲げる。
不機嫌を感じ取ったフリットは益々困り果てる。

「あの」
「おい」

同時に声を掛けてしまい、戸惑ったフリットにお前が先に言えとウルフが顎で促した。

「あの……僕、何か気に障ること、してしまいましたか?」

それに対しての返事は沈黙だった。無言のウルフに怯んでいると、股のところで男の手がもぞもぞと動き始める。
頑なに足を閉じ続けようとしたフリットであるが、もう片方の手も使ってウルフが膝をこじ開けてきた。

ズボンとショーツが足元に絡まったまま、股を開かされる羞恥的な恰好にフリットは目尻に滴を溜める。
足を閉じたくても、ウルフが覆いかぶさってくるように乗っかってきていてはどうしようもない。引き剥がそうと男の肩を押し返すが、濡れた場所に進入する無骨な指を内側に感じて力が入らなかった。

入り口のところをぐるりとなぞられて、フリットの背筋がひくりと跳ね上がる。

「ここ弄られるの好きだよな、お前」

耳元近くで狼に囁かれ、フリットは熱い息を手で塞ぐ。
眉を捩る様子を横目に、ウルフは耳元にもう一言続ける。

「舐められるのはもっと好きだろ」

同時にぬちゅりと音がするほど膣口を指で舐められ、フリットはウルフに舌で舐められる感触を思わず想像してしまう。

「ゃ、ぁぁ……っ」

手の隙間から喘ぎが溢れていることに気付いたフリットは自分の手を噛んだ。
自分の手に歯を立て、自傷する様子にウルフは眉を顰める。けれど、何も言わずに女の股をまさぐり続けた。

「……ん、ん……ひぁ、んぅ」

噛み殺しきれていない甘い声に気を良くして、ウルフは指の本数を三本に増やして奥を突く。
涙目になっているフリットから絶頂のきらいを見て、空いている親指で粒を押す。

「だ……めっ、そっちも触ったら……ッ、ア、ぃく」

膣の奥を掻き回されながら、恥丘を捲ったところにある性感帯を同時に攻められたフリットは呼吸が荒くなっていく。

鎖骨から上に、首筋を狼舌に舐めとられた瞬間、女の身体が緊張する。ひくひくと痺れがおさまっていないフリットの中から、ウルフが指を引き抜く。
その感触にも腰を跳ねさせてしまい、身体の方が止められない。先ほど、隣の個室から音がした気がしたが、意識の外に追い出されている。

顎を掴まれ、ウルフが顔色を窺ってくるのにフリットは熱い吐息を溢す。

「出来るか?」

こくりと頷いたフリットは薄く唇を開く。

身体の関係を持ち始めた矢先は、本番無しの触り合いだけを何度か繰り返していた。だからフリットの抵抗も薄くなっている。こんな場所で最後までやることはないと信じきっている様子だ。
本番までするようになってからは、触り合いだけで済ますことはなくなったと言うのに。

ベルトを緩め、ウルフが下着から取り出したものにフリットは前屈みになって顔を近付ける。
頭をもたげているウルフそのものを躊躇なく、形の良い口で咥える。しゃぶりついて、裏筋を刺激する舌使いは最初の頃に比べれば上達していた。

「上手くなったじゃねーか」

歯を立てなくなったのは偉いと褒めて、若草色を撫でる。
こういう時だけは、頭を撫でられることをフリットは甘受する。いつもは退けられるが、本当は嫌がっていないのだ。

ウルフを根元まで口に含んだフリットは上目に彼を見つめる。
この間は絶頂直前の状態からだったから出来たが、ここから射精までさせるのはまだ難しいらしい。

ウルフはフリットの後頭部を両手で掴み、これをやると途中で止めることが出来ないのだがと頭の中で前置きしてから。

「苦しかったら言えよ」

この状態では言う言わないの問題以前であるにも拘らず、喋られないフリットは目で平気だと頷き返してきた。
こっちも限界だと、ウルフはフリットの口に勃起しているものを突っ込んだまま、腰を振る。

口内から喉奥まで激しく犯されてフリットは苦しさに眉を歪ませる。けれど息苦しさが募るほど興奮も高まっていた。
切羽詰まっている男の手が顎を撫でてくる。撫でると言うよりは掴むに近いが、それだけ余裕がなくなっている証拠でもあるし、ウルフからのこの合図にフリットはどうしようもなく熱くなる。
待っているなんて出来ず、自分からウルフを喉奥まで誘う。

「……ッ、出すぞ」

低く荒い声と同時に口中にたっぷりと注がれた。詰まらせないように喉を大きく上下させたフリットは尚もしゃぶり付いたまま、残滓まで舐め吸おうとする。

「良い子だな。もういいぞ」

頭を撫でられたフリットはぼんやりとした動作でウルフから口を離した。
飲み込みきれていなかった白濁の汁が口端から顎を伝う。服が汚れないようにウルフが指で拭ってやる。
拭き取ってくれた優しさに怒っていたわけではないのかなとフリットは吐息を零す。

しかし、無造作にウルフの手が股を割って、白濁が付着したままの指を挿れてきた。奥に塗り付けようとする動きにフリットは嫌々と首を振る。

「それ――ッ、ウルフさんの、ついてる……から、駄目です」

口とは裏腹にフリットは自ら股を開いたままだった。厭だと思うのに身体が言うことを聞かない。

「俺に種付けされるのそんなに厭か?こんなに自分で足開いてんじゃ説得力ねぇぞ」
「だって……」

口を閉じたフリットからウルフは指を引き抜く。
抜ききる間際、ひくりと腰を浮かした女の艶かしさを前にしてウルフは内心で悪態を吐いた。フリットにではなく、自分に向かって。

ウルフはまたそそり立ち始めている自身の亀頭をフリットの膣口にあてがう。

「!」

先端を差し挿れられたフリットが拒むように全身を固く硬直させる。
こんなところで最後まですること以上に受け入れられない。

「待って、くださ……っ、ナマは」
「一度やっちまってんだから、二度やっても同じだろ。お前だって中に出されて悦んでたじゃねーか。あいつらには知られたが、これ以上ばらされたくなかったら力抜け」
「ぃや、です。……やめて」

瞳を濡れ揺らすフリットにウルフは顔を顰める。
言い訳がましいことをフリットは主張しない。それが判っているからこそ、内情を白状させる気でいた。
けれど、白状させるべきかどうか揺らいでいる。

無理矢理抱きたいわけではなかった。ばらさないという条件を付けて脅し半分で性交を強要してきたが、するかしないかフリットに決定権は与えていたのだ。
無理強いをさせて厭だと拒絶されるのが、こんなにも堪えるものだとは。

腰を進めてくるウルフの存在を感じて、目を閉じたフリットの睫毛の端から頬にかけて泪が零れた。

「クソ………ッ」

悪態を吐いたウルフに怯えたフリットが身を縮める。
別にフリットを責める悪態ではなかった。悪かったと思うが、ウルフは訂正することなく、ただ身を引いた。

此方の中から出て行ったウルフを疑問に思い見上げたフリットだったが、彼は後ろを向いて衣服の佇まいを直していた。ベルトを締める音まで見送っていると、ウルフが横目を寄越してくる。けれど、彼は直ぐに視線を戻した。
口を開こうとしたフリットは何も言えずじまいになってしまう。

「鍵、閉めろよ」

ウルフはそれだけ言い残して個室から出て行った。
ドアが閉じられたと同時に、便座から覚束なく立ち上がったフリットはドアの鍵を閉めて、その場にくずおれる。

後ろ背に硬い金属音が耳に届く。ドアの鍵が閉められたことを確認したウルフは息を吐く。左側のドアから気配があるが、自分の知っているものだ。あまり心配はないだろう。
次いで、鼻を鳴らすように空気を嗅ぐ。アンモニアが強い。不特定多数が使用する場所であるため、人の臭いも複数人分空気に付着している。
いた時間まで鼻で追えるものではなく、ウルフは自分の軽率さを含めてムシャクシャする重い気持ちを腹底に落とした。

鍵のところに手を引っ掛けたまま、フリットは座り落ちた姿勢で頭を扉に押し付ける。

「……ぁ……、はぁ………」

足を擦り合わせ、熱をやり過ごそうとする。しかし、なかなか鎮まらない。
こんな身体ではなかったはずだ。

手が、股下に行く。つぷりと、濡れた場所が指を受け入れる。
自分の膣を弄りながら、フリットは後ろめたさを持って息を乱していく。

「ウル、フさ……ッ、ウルフ……ウルフさんの」

ウルフの何が欲しいのか、フリットは自分自身を理解していた。

熱を吐き出しきったフリットはロール紙でおずおずと自身を清める。
崩れている衣服を綺麗に着直して、息も整える。冷めきっている身体の確認を済ませたフリットは個室のドアを開けた。

目の先に男の背中がありギクリとしたが、振り返った顔は同じ隊に所属する青年で、自分とも同い歳の彼だった。安心しているわけではないが、女と知られている以上、気を張る必要はない。

「隣の個室にいたか?」
「わざとじゃないんだけどさ」

戻ってくるのが遅いなと、用をたしに行くついでにフリットを探しに来ただけだった。説明も手短に彼は何とも言えない顔をする。

「疑ってるんじゃないけど……聞いて、たか?」
「うーん」
「手、洗ってくる」

微妙な空気に耐えられず、フリットは洗面台で手を洗い、口もすすいだ。

長めの洗浄に彼は頭を掻きながら待っていた。
戻ってきたフリットと同道して食堂に向って歩いていると、彼女の方から話しかけてくる。

「もしかして、見張ってくれていたのか?」
「隊長が出て行ってからだから、その前は知らない」
「……ありがとう」
「いいって、別に。それよりさ、隊長のこと好きなんじゃないのか?」
「………」
「まあ、いいけど。あ、思い出した」

突然話を切り替えた彼の様子にフリットは瞬いて顔をあげた。

「食堂で提案があったんだけどさ、男パイロットだけで女装大会しないかって」
「は?」
「そんな顔するなよ。お前が苦しそうだからって副隊長達が考えてくれたんだぜ?他の隊の奴らも参加させて、各隊から一人に女装させるって」

余計なお世話だとフリットは頭を抱えるが、自分のための厚意では遠慮もしにくい。

「俺達んところからはお前な」
「え」
「当たり前だろ?堂々と女の恰好させなきゃ意味ないし」
「ばれない……か?」
「今まで俺も気付かなかったし、大丈夫だと思うぞ」

太鼓判を押されたが、フリットは不安な面持ちで食堂の入り口を潜った。





























◆後書き◆

ウルフ隊にいるみなさんは童貞です。年齢=彼女いない年数。
彼らは女扱いがいまいち判らないのでエスコートとかはせず、フリットに対しては仲間を思いやっての優しさで接している感じです。女性であると意識はしつつも。

今日のウルフさんはちと苛立ちを目立たせて強姦気味にフリットちゃんをおトイレで。フリットの方は襲われている意識が薄いので甘受しながらも、ウルフさんのものになる決断が出来ない迷いから首を横に振るしかない心理状態。
一人になったところでは素直になっているので、自分の気持ちにはしっかり気付いています。
その気持ちを次回の女装(フリットは違うけれど)大会でウルフさんに伝えることが出来るのでしょうか、というところでおひとつ。



更新日:2016/03/01








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