フリット後天性女体化。
やや性的表現があります。































◆Flip◆










起き抜けの状態で違和感を覚えたものの、身支度を優先したフリットはトイレに入ってから絶句した。
顔を真っ赤にして素早くズボンを引き上げる。そして恐る恐る自分の身体を一つ一つ確かめていく。さあっと血の気が引いていった。
ディケには言い出しにくい。エミリーに心配はかけられない。
フリットは兄貴分の部屋を訪れることを選択する。

不安な面持ちのフリットを快く招き入れたラーガンはどうしたと優しい声で問いかけた。

「………」

無言のまま、フリットはラーガンの手を掴み、手袋を外して自分の胸に押し付けた。
素手に伝わる柔らかさにラーガンは顔を赤らめて手を引っ込めた。

「下、なくて」
「え?いや、待ってくれ。どういうことだ?」
「女の子になってしまったんです」

ラーガンはフリーズした。
揺さぶっても元に戻らないラーガンを置いて、フリットが通路で肩を落としていると。

「そんなとこで突っ立てると邪魔だぞ、フリット」

振り返った先にウルフがいた。

こちらに視線を上げたフリットの本調子でない様子にウルフは眉を片方だけ跳ねあげる。
匂いが違う。
何か訴えようとしているフリットをウルフは自室に放り込む。

「どうした?」
「手、貸してください」

差し出された男の手から手袋を取り、ラーガンの時と同じようにウルフの手の平を自分の胸に押し付けた。
ふに。とした感触にウルフは首を傾ける。

「脱いでみろ」
「えっと」
「前から女だったわけじゃないだろ」

外見の前に、中身が男のままなら恥ずかしがることはない。そう含まれる。
ジャケットとインナーをフリットは脱いだ。素肌を外気に晒している心許なさから、膨らみを持ってしまっている胸を腕で隠す。

「隠すな」

無表情に言われてフリットは腕を下ろした。

「下も脱げ」
「え」

流石に抵抗があり、フリットは不安をのせてウルフを見遣った。

「あの……」

揺れる瞳に近付いて、フリットの目の前でウルフはしゃがみ込む。
ベルトに手を掛けられてフリットは焦りに後ずさる。

「何を……っ」

落ちそうになるズボンを上にあげる。しかし、また近付いてきたウルフにズボンを下ろされそうになる。

「やめて、くださいっ。待って、僕、トイレ」

手を止めたウルフに安堵するも、起きた時からずっと我慢していた尿意は限界に近かった。

「行ってこい」

顎をしゃくったウルフに従わず、フリットは俯く。
足をすり合わせて、もじもじとしているフリットとウルフは視線を合わせる。

「やり方がわかんねーか」

こくりと頷くのが限度で、移動も難しいと訴えれば、ウルフが持ち上げてくれた。
トイレの便座にフリットを座らせる。後はズボンを下ろしたらやるだけだとざっくりと説明して、ウルフは出ていこうとする。しかし、フリットはウルフを引き止めた。
ジャケットの裾を掴まれたウルフは振り返る。

「これで、大丈夫なんですか?」

ちゃんと出来ず、周りを汚してしまったらどうしようという不安が見て取れる。
汚れたら拭けばいいだけの話だ。迷惑でも何でもないのだが、フリットの方はそういうわけにもいかない面持ちだった。

「どうしてもってなら、手を貸してやる」
「………お願い、したいです」

いいんだなと、念を押してくるウルフに臆しながらも、一人で出来なかった場合のことを天秤にかければ決断は早かった。
首を縦に振って教えを請うフリットにウルフは吐息で。

「とりあえず全部脱いじまえ。あんま見てねぇから」

視線を顔ごと横に逸らしたウルフに今更抵抗も示せず、フリットはズボンと下着も全部脱ぎ落とした。衣服を何一つ身に着けていない心許なさに身体が冷え、差し迫るものに身震いする。

「脱ぎました」
「良し」

身体を持ち上げられ、そこまでは疑念を持たないようにしていた。が、便座に向かって自身を晒す格好にされてフリットの頬に朱が差した。
後ろに立つウルフに両の膝裏を抱えられ、大きく開かされる。

「ウルフさん、あの、これは出来な」
「これなら立ちションと変わんねーだろ」

変わらなくないとフリットは首を振る。こんな丸出しのようなおっぴろげ方は駄目だ。恥ずかしすぎて命が足りない。

「降ろして」

力を入れるわけにいかず、弱々しく願い出た。

「手を貸す約束だろ。してるとこは見ないようにしてやる」
「嫌です。降ろしてください」

もう我慢がしていられないとフリットは泪を溜める。

「もう少し良い子にしてろ」

ウルフはフリットの耳を甘噛みした。

「ひっ、――ゃ、出ちゃ」

力を入れてしまったフリットにはもう止める術がなかった。
しゃあああ、と我慢していた分の量が放出される。なかなかすぐには終わらなくて、恥ずかしさに屈辱が混じる。
自分の股から黄色い液体が放物線を描きながら流れ出ている。

ぴちゃんとした音を最後にようやく放尿が終わった。
我慢しすぎていたのだろう。余韻が長く、フリットは放心気味だった。

便座に最初のように座らされ、フリットはぼんやりとウルフの行動を見ていた。
ロール紙を巻き取り、ウルフは便座に座っているフリットの閉じられた足を再び左右に広げた。

「……ぁ」

見ないようにすると言っていたのにと視線に込めたが、すぐにそれどころではなくなる。
ロール紙を広げた股に押し付けられたのだ。やんわりと上下にさすられ、変な声が出てしまう。

「ゃ、あん」

ウルフの手が停止する。

「感じるのか?」
「………」

黙り込んだフリットはウルフの腕を掴んで遠ざけようとする。

「男みたいにチンコ振って終いじゃねぇんだよ。大人しくしてろ」
「自分でやります、から」
「本当に出来んのか?」

追い詰められ、フリットははっきりと頷き返せなかった。自分の身体だとしても、女性に対しての遠慮がある。
女性の扱いならウルフに任せるべきであるかもしれない。答えが出せずにいるフリットにウルフは目を細める。
ロール紙越しに手の感触が股に押し付けられ、また擦られた。

「――、ぁ、やん。んん、ん」

こんなにしっかり拭かないといけないとは。
女性は大変だと思いながら、フリットは変な声をなんとか抑えようとする。

耐えながら喘ぎを漏らすフリットの股をウルフは執拗に拭く。むしろ、もう拭くことが目的ではなくなっていた。
空いている方の手を未発達な膨らみに持っていく。

「ひゃうっ」

身を竦ませたフリットは目を白黒させる。胸を揉むのは違うのではないかと、ウルフを見遣る。しかし、表情を捉えることは出来なかった。
首筋にウルフが顔を埋めてきたからだ。素肌を強く吸われてフリットは痛みに顔をしかめる。
痛んだところを今度は舐められて、じんじんと熱が広がる。

「やめて、ください」

震えるのは声だけではなく、手も足も、全てだった。
怯える様子にウルフが僅かに身を引く。

「男にほいほい頷くな」

眉を下げてフリットは意味を考える。
身を引いているのに無防備なままのフリットにウルフは手を出した。
意味は解らず、流されることに抵抗を覚えてウルフの腕を掴んで押し返す。けれど、女になってしまった身体は想像以上に強くなかった。

幼さの残る胸の色づきをウルフの舌が転がす。

「いや、やだぁ」

怖いと、か細い悲鳴が耳に届く。
続いてドアが開く音にウルフが反応を示す。ぼそりと呟き落とされた彼の言葉をフリットが訊き返す間もなく。

身体を後ろに引かれたウルフは近くの壁に叩きつけられる。肩を怒らせている相手に狼は痛みに表情を変えることもなく、静かに見つめ返した。

「何をしているんですか」
「お楽しみ邪魔したのはそっちだろ」
「フリットはまだ……!」

子供だというのを飲み込む。ラーガンは縮こまっているフリットを振り返り、すぐに視線を逸らした。

「こいつは押さえてるから、フリットは服を着るんだ」

硬い声のラーガンの支持に従ってフリットは恐る恐る下を履き、上を取りに二人の横を通って影に隠れながら身なりを整えた。

「……ラーガン」

そろりと窺いを見せたフリットが困惑の表情でいる。
ウルフに目配せすれば、彼は抗いの気はないと視線と態度を返してくる。一発殴りたいところだが、それはフリットの目がないところですべきだとラーガンは判断する。

「先に外に出るんだ」
「………」
「フリット?」
「ラーガンも、一緒に」

一瞬の瞠りから、ラーガンは腕を緩めてウルフを自由にする。
心細さからフリットは共にいてくれと言ったわけではない。それくらいは解る。
そのあたりの心境は後で聞こうとラーガンは背を向けた。その後をフリットは着いていく。

ウルフを通り過ぎる前に一度、横目に見上げた。眇めを返され、フリットは肩を跳ねさせて咄嗟に視線を外した。





とぼとぼと兄貴分の後ろを追随していたフリットは、ラーガンの立ち止まりに足を止めた。
振り返り、身体の正面を向けたラーガンに顔をあげる。

「ウルフさんは悪くないです」

口を開きかけていたラーガンは先にフリットに言われてしまい、用意していた言葉を閉じる。

「……。どうして、そう思うんだ?」

やはり。あれは庇ったなと、ラーガンは内心で確信した。

「ロック、掛かっていなかったんですよね?」
「そうだな」

ドアは開いていた。あらかじめ、ロックが外してあったからだ。スペアをラーガンが預かっていたわけではない。

「ウルフさんはラーガンに連絡を入れていたんじゃないですか」

問い質しをラーガンは否定しなかった。端末にウルフからフリットが自分のところにいるとメッセージが届き、暫しの逡巡と思考を経てから一抹の不信を持って足を向けたのだ。

「そうだとしても、道徳的観点から俺はウルフがしたことは悪いと思う」

意見の食い違いにフリットは視線を落とす。

「フリットはまず先に、どうにかしないといけないことがあるだろ」
「………ラーガンがウルフさんのこと怒らないって約束してくれたら。それから考えます」

何故こんなに頑なになっているんだと、ラーガンは頭を掻く。

「怖かったんじゃないのか?」

言い諭すような声色にフリットは頷き返しそうになったが、ズボンを握ることで耐える。

「どうしたの?」

エミリーの姿にラーガンとフリットが同時に振り返る。
悩み倦ねいているラーガンとばつが悪そうなフリットの表情を交互に見比べたエミリーは腰に手をあてた。

「フリットが何かしたんでしょ」

推理としては外れている。フリットはラーガンに一度目配せして確認を取ってから違うんだと首を横にした。

「何かはあったけど」
「何かって何よ」

ずいっと顔を近付けてきたエミリーにフリットは言葉を濁す。

「えっと……」
「?、フリット、なんか、いつもと雰囲気違うわね」

緊張をあらわにしたフリットは表情を沈める。

「フリット。エミリーには言っても良いんじゃないか」

明日で元に戻る保証もない。騙し続けるのは苦しいだろうと提案する。
考える間はあれど、フリットは首肯した。
通路の周囲を見渡して人影がないのを確認する。そしてエミリーに耳打ちした。

聞き終えたエミリーは瞳が零れそうな驚きを持ってフリットをぺたぺたと触る。
擽ったいのを我慢していたフリットは膨らみを持ったそこにエミリーの両手が来て身を竦めた。
ふにふにと伝わってきた感触を確かめるように、エミリーは自分の方に戻した両手を閉じたり開いたりした。

胸を守るように腕で抱きしめているフリットは頬を染めて視線を横にしている。
その様子にエミリーは驚きを一旦隅に置き、意外を得る。

「嫌じゃないの?フリット」

何がと瞬いたフリットはエミリーに胸の中心を指差される。

「女の子になったこと」
「いや、元には戻りたいよ」

それは本心だろうとエミリーは思う。けれど、現状に嫌悪感を抱いていないフリットが目の前にいる。

「そう。でも、医務室に行ったほうが良いわ。私もついて行くから」
「……分かった」

二人で歩き出すのを見守っていたラーガンをフリットは一緒に来ないのだろうかと降り仰ぐ。

「ちょっと先約があってな」

それからフリットは質疑してこないが、此方の含みは何処か疑っている様子だった。
フリットが先に行くのを追いかけるエミリーをラーガンは少し引き止める。

「ウルフが近くにいたら、フリットの側にいてくれないか」
「それは、いいですけど」

困惑しているエミリーにラーガンは顔の位置まで持ち上げた両手を合わせて念押しする。
エミリーとて鈍感ではない。そこまでされれば、問い詰めることはしない。





自室を出た瞬間にラーガンの姿が視界に入り、短く息を吐き出したウルフは自室に戻る。追随してきたラーガンを振り返り、無表情で先を促した。

「後回しや無かったことに出来るなんて思ってないよな」

怒りが滲んでいて丁寧語どころではないようだ。

「後ろからお前に撃たれるのは御免だ」
「俺も仲間を後ろから撃ちたくはありませんよ」

何とか頭を冷やし始めるラーガンであったが、拳のほうはそういうわけにもいかなかった。
振り上げを目にして、ウルフはさてどうするかと珍しく思考した。防ぐこともないかと決断して、受け身の準備もせずにいた。

振り下ろされた拳は空を切った。いや、重みに下がったと言うべきか。

「フリット……」

狼の声にびくりと肩を跳ねさせたフリットはウルフを横目に見遣り、すぐに俯いて逸らす。
上からの、ラーガンの声に意識を向ける。

「エミリーと医務室に向かったんじゃないのか……?」
「怒らないって約束してくれたんじゃないんですか」

それを守ってもらえないなら、身体の変異は二の次だ。フリットはラーガンにそう宣言したはずだと強い眼差しで訴える。
臆しそうになるが、ラーガンとてこれだけは譲れなかった。

「分かってくれ、フリット。俺だって仲間割れなんかしたくない。だからウルフと話しがあるんだ」
「話し合いには見えませんでした」

頑固なまでに自分を曲げようとしないフリットにラーガンが根負けする。これ以上続けてもフリットの意思が変わらないことを知っているからだ。

「そうだな。暴力は良くないよな」

力を抜いたラーガンの腕からフリットは手を放した。それからウルフの視線から逃げるように兄貴分の後ろに隠れる。
その後でウルフに一抹の変化があり、ラーガンは目を止めた。勘違いかもしれないが、気落ちを感じたのだ。
きっと、殴ってからでは遅かっただろう。

「ウルフ、フリットに謝ってくれませんか」

それで自分も落ち着ける。二人にとっても最善のはずだ。
しかし、ウルフは何故そんなことをしなければならないと眉を顰めた。

「何を謝れって?」
「不都合ですか」

仕掛けたことが無駄になる。一瞬であったが、ラーガンはウルフの内心を見逃さなかった。

「僕は謝ってほしいわけじゃないです」

不穏を感じ取ったフリットがラーガンに向ける。極力、ウルフを意識しないようにしている様子があるというのに。

「……いいのか?フリット」

こくりとフリットは頷く。被害者という実感がないのだろう。そして、ウルフを加害者とも思っていない。
だが、当事者間で解決が出来ているわけではない。フリット個人の自己完結であり、ウルフもまたウルフで別の完結を固持している。
それは双方にとって平和であろうか。

ラーガンはやや屈んで、フリットと真正面から向き合った。

「ひとつ、確認させてくれ」
「はい……?」
「フリットはウルフが好きなのか」
「ッ、!」

全身を緊張でいっぱいにしたフリットは狼狽えて視線を迷わせた。ラーガンの向こうに立つウルフと不可抗力に目を合わせてしまい、胸の真ん中がきゅっとする。
体温の上昇をどうすることも出来ず、フリットはエミリーを待たせているからと部屋から走り出ていった。

ラーガンはウルフを振り返る。向こうは視線を合わせようとせず、背を見せて部屋の奥に行こうとしている。

「逃げるんですか」

足を止め、ウルフは眇めをラーガンに寄越した。刺し貫くような強さがあったが、ラーガンは動じず、意外と子供っぽいところがあることに肩を竦めるだけ。

「お前がややこしくしたんだろ」
「取り成してあげただけです」

ウルフへの仕返しとしても充分気が済んだと、ラーガンはそれ以上は何事も言わずに出て行った。

背後から狙撃される見込みはなくなったが、息を吐けることもなく。
焦っていた様子のフリットが目に焼き付いて離れない。口元を手で覆い、ウルフは息を呑み込んで内なる牙を抑える。
今だけは。





























◆後書き◆

ウルフさんが手荒なまねした本当の理由にフリットは勘付いているのと、自分の心情も合わせて ラーガンに対してウルフさんを庇っております。ただ、自分の心情にはおっかなびっくりでラーガンに 直接指摘されてわーっと逃亡。
エミリーは複雑だけれど、これから女の子同士で出来ることたくさんしてもらえたら。 あんなことやこんなことを!
フリットがエミリーを振り切って(?)きた理由の小ネタはタイトルバーにて。

何故女体化したかという理由付けが何もないので説得力皆無ですね(汗)。 しかし、後天にょたならではの話を考えるのも楽しゅう御座いました。
後天の場合は周囲の反応や構い方に変化が出るというのが堪らないのですが、 そのあたりを書けていないのが心残り。フリット自身の葛藤もほぼ無かったですしな。 またネタが見つかればいずれ挑戦したい気持ちです。

Flip=裏返し

更新日:2015/1/26








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