※フリット×エミリー































◆Phantastische Geschichte◆










一目惚れなんてしたことがなかった。

特別、おとぎ話の王子様に憧れを抱いたこともないエミリーは淡い恋心を向けてくる男の子達に興味が持てなかった。七歳ならば、ませた子であれば、初恋は経験済みであってもおかしくない。けれど、恋の話よりも今日は何で遊ぼうかと悩んだり提案することに胸を弾ませていた。

いつものように学校から帰ってきたエミリーは、母親に頼まれて祖父への届け物を手に連邦軍基地に向かった。
基地の敷地内で訓練しているモビルスーツが三機。女の子の目には仰々しく映るが、見慣れているエミリーにはどうってことなかった。きっとあの中に一月前にこの基地に仮配属されたラーガンがいるだろうと思えば尚更。
ラーガン・ドレイス、今年二十一になると言っていた彼は前線希望らしい。それを聞いて、戦争をしていない時代に前線があるのだろうかとエミリーは首を傾げた。祖父に尋ねれば、盗賊や災害などがあると諭されたので、そういうものなのかなと受け止めるだけ。
盗賊と災害くらいならば、そちらの人手は足りているのだろう。だから戦艦配属ではなく基地配属になっているのかもしれない。

ニュースではUEという得体の知れない存在がコロニーを襲うと怖ろしいことを言っているが、ノーラで生活する少女には遠い国の話だった。おとぎ話のように実感がない。
平和だったのだ。

バスケットの中がいつもより重くてエミリーはよいしょっと、肩に力を入れ直した。今日は何が入っているのだろうと、基地内の倉庫手前で中を少し覗いた。チェック柄の包みナフキンを捲れば、中は英国式では定石の口あたりがさっぱりするキュウリサンド、それからタマゴサンドだ。アクセントにはクッキー。けれど量がいつもの二倍。通りで重いはずだ。

祖父と自分でいつもおやつの時間を共にするのだが、今日は基地司令のブルーザーも一緒なのか、それともラーガンだろうかとエミリーは考えを置く。
自分の背の高さまで上がっているシャッターを潜り、中に入ってみれば、祖父のバルガスの横にブルーザーがいた。やっぱりとエミリーが頷いて二人に近づいて挨拶をする。

「おじいちゃん、お母さんのサンドイッチ持ってきたよ。ブルーザーさん、こんにちは」
「おお、すまんの、エミリー」
「こんにちは。お遣いを頼まれたのか、エミリーは偉いな」

ブルーザーに頭を撫でられて、エミリーはいつもしていることでも今日は特別に誇らしげになる。

「そうだ、エミリー。君にも紹介しておこう」
「しょうかい?」

向こうを見遣ったブルーザーが大声で誰かを呼んだ。小柄な身体がモビルスーツの胸部らしきフレームから降りてきて、此方に歩んでくる。

「ブルーザーさん、何か?」

初対面の男の子の横顔にエミリーは瞬く。歳は自分と同じくらいに見えるが、学校で見掛けたことがないと。

「バルガスのお孫さんだ。フリットと同い年になるから、学校でも仲良くしなさい」

紹介され、エミリーはこんにちはと声にしたが、フリットからの挨拶はなかった。常ならば愛想のない子だと思っただろう。けれど、彼の雰囲気に刺々しさはなくてエミリーは不可思議に思った。

「昨日も言いましたけど、学校には行きません」

首を横に振ったフリットは話がそれだけなら作業に戻りますと背を向けた。去っていく背中に声を掛けられず、エミリーは残念になる。

「すまないな。フリットはまだ此処に慣れてなくてね」
「気にしてないです」

ふと、視線を感じてそこに顔を向ければ、フリットという名の少年が僅かにこっちを振り返っていた。直ぐに何事もなかったかのように遠のく姿にエミリーは頬を綻ばせた。彼が立ち止まっていたのは、挨拶を返さなかったことを気にしているのかもしれない。

「フリットっていうんですか?」
「ああ。フリット・アスノだ。モビルスーツ鍛冶をしていたアスノ家の子でね」
「していた?」
「今は、身寄りがないんだ」

きょとんとしているエミリーに対し、ブルーザーはしゃがんで視線を合わせる。

「エミリーはオーヴァンのニュースを見たか?」

オーヴァンという言葉を頭の中で繰り返し、ここ数日連日でニュースに大きく取り上げられたコロニー崩壊を想起する。UEの仕業だと聞いた。
頷いたエミリーにブルーザーは続ける。

「フリットの家族はもういないんだ。彼だけが何とか生き残って、両親と知り合いだった私のところに来た」

理解出来るかと問い掛けてくるブルーザーの視線にエミリーは表情を落として頷いた。お父さんとお母さんがいない。そのことに気持ちが痛くなった。

「学校への入学手続きは済ましてあってな。本当は今日から通うはずだったんだが、本人が必要無いと言い張っているんだ」
「そんなの駄目です!」

エミリーの剣幕にブルーザーが驚く。大声を出してしまったことにエミリーは後で恥ずかしくなり、顔を赤くした。

「えっと、あの、ごめんなさい」

存在を縮めるエミリーの肩にブルーザーの手が優しく触れる。

「いいや。エミリーはそれでいい。きっと、フリットには君みたいな子が必要だ」

だから仲良くしてやってくれたら安心だと、ブルーザーは目元を和らげる。ブルーザーからの期待にエミリーは頷いていた。けれど、それは言われたからではなく、フリットのことを知りたいと思う自分がいたからだった。

ブルーザーは仕事があるからと施設内の本館に向かってしまった。なら、手にしているバスケットの中身の余分はフリットの分である。

「テーブルを出してくるから、エミリーはフリットと遊んできなさい」
「う、ん」

バルガスの言葉に頷くも、先程の態度から遊戯には興味が無さそうな子という印象があった。それでも、同い年の男の子のことがエミリーは気になっていた。

フリットがいるのはこの脚立の上だと、エミリーは柱に手を伸ばした。
登り切ったエミリーに不思議な青みのある翡翠の瞳が向けられた。彼の作業する場所は窪みになっているので、エミリーを見上げている。
淡々とした面持ちはエミリーからは大人びて見えた。事実、大人びているのだ。両親の加護下にないことは幼さを封じる。

「あのね、私の名前まだ言ってなかったと思って」
「…………うん……」

昨日、バルガスから聞いた記憶があるが、あまりちゃんと聞いていなかったフリットは曖昧に頷いて手元に視線を戻した。
同年代の子と話すのが苦手なわけではなかったはずだが、今まではどうしていたか掴めなくなっていた。自分はもう他者と価値観が同等ではなくなってしまったことが大きい。

「エミリー。エミリー・アモンド」
「ダイソンじゃなくて?」
「おじいちゃんはお母さんのお父さんだから」

此方に少しだけ視線を向けて首を傾げていたフリットが頷く。無愛想な感じが受け取れたが、話を聞いてくれている様子にエミリーは嬉しくなった。
笑顔を向けられてフリットは瞠る動きをする。頬を拭う素振りで誤魔化しを作っていると、エミリーがこちら側に入ってこようとしていた。

「ま、待って」
「え?」

入っては駄目だっただろうかとエミリーは表情を曇らせる。

「ごめんなさい。私、勝手に」
「そうじゃないよ」

骨組みだけの椅子から腰を上げて、立ち上がったフリットは足場が限られていて危ないからとエミリーに手を差し伸べた。紳士的な所作にエミリーは瞬き、手助けと理解して小さな男の子の手に自分の小さな手を重ねた。握力は感じないのに、ちょっとだけ力強さのある男の子の手は自分と違っていた。
彼の手を借りてフレームの箱に落ち着いてみれば、やはりコクピットの内装を思わせた。

「君には興味ないものだと思うけど」
「モビルスーツのコクピットでしょ?これ。ジェノアスとはちょっと形が違うけど」

骨組みのフレームだけであるのに、そこまで理解が及んでいるエミリーにフリットは素直に驚く。

「興味あるの?」
「つくりたいとかはないけど、おじいちゃんのお仕事だから。解るのは少しだけかな」

きっと知識は鍛冶屋の家系にあるフリットより劣っていると思う。だから、嘘や見栄を張らずに特別詳しいわけではないとエミリーは返した。
それでも、フリットにとっては話が通じる相手と認識されたようで、彼が纏う何かが解れたようにエミリーは感じた。

「フリット君は今何をしてるの?」
「同い年だよね?フリットでいいよ」
「じゃあ、私のこともエミリーって呼んでいいよ」

ほわっと微笑んだ少女にフリットは視線を逸らしがちにしながら頷いた。それから話を戻す促しがエミリーからあり、フリットは説明した。

「ガンダムをつくってるんだ」
「がん、だむ?」
「昔の戦争で救世主って呼ばれてたモビルスーツ」

戦争という怖いワードと救世主という明るいワードにエミリーはどのような顔をすればいいのか分からなかった。
少女の不安の色にフリットは気持ちが慌てるが、焦っては正確に伝わらない。努めて冷静に説明を重ねる。

「終戦に貢献したモビルスーツなんだ。昔の戦争はたくさんの人達が犠牲になって、それでも終わりが見えなかったって。それで、つくり上げられたのがガンダムなんだって教えてもらった」

銀の杯条約が結ばれる以前の宇宙戦争はとても悲惨なものだった。それを語り継ぐ人はもう殆どいない。それでも、フリットがこの話を知っているのは、代々アスノ家で伝え語られてきたからだ。今はいなくても、かつて存在した人々が先に託した伝説。

「それをどうしてフリットはつくるの?」

不安を重ねているエミリーにフリットは表情を歪めた。彼女の言いたいことが解ったからだ。戦争をしていない世界にガンダムは必要なのかと、そう問いたいのだ。

「母さんに、お願いされたから」

託された。それがフリットが今の世界に見出した自分が生きる価値だった。使命だと大それたことを語る口を幼い少年は持っていない。けれど、これだけは揺るがないものだった。UEの脅威から人々を救う。そのためにガンダムは必要な存在だと。

幼い少女にはフリットの覚悟の大きさが解らない。同じものを見ていないことに胸が何故だか痛んだ。
何かを握っている。フリットの両手には余るそれは彼に大事に握られていて、エミリーは自分の手をそっと重ね触れた。

「それが、フリットの夢なんだね」

まだ不安の色が残っていたことをフリットは感じた。けれど、エミリーが認めてくれたことに心が強く持てたことは疑いようがなく、照れた。

「………うん」
「夢を持ってるってすごいことなんだって」
「どうして?」
「勇気があるアカシだから。一つ一つを達成していけば、それだけ立派な人になれるから……だったかな?だから夢は大きく持ちなさいって学校の先生が教えてくれたの」

一生懸命に伝えてくれようとしていることがフリットには温かく感じた。孤独を持っていたフリットには、これがエミリーとなら友達になれるかもしれないと期待した瞬間でもあった。

「ね、フリットも学校に行かない?」
「それは……」
「何か心配なことがあるの?」

言い淀み、翳りを落としたフリットをエミリーは気遣った。まだここの生活に不慣れだとか、身体が丈夫な方ではないのなら、学校に通う決意は付かないだろう。
しかし。

「ガンダムを完成させたいんだけど」

正直にフリットは答えた。けれど、それはエミリーが納得出来る尤もらしい理由にならなかったようだ。

「……モビルスーツってすぐ出来るものじゃないでしょ?設計図からつくり出すのは何年もかかるっておじいちゃん言ってたもの」

痛いところをついてくる。誤魔化して切り抜けられないことは明白だ。言葉を閉じているフリットにエミリーは呆れる。

「もしかして、このままずっと学校に行かないつもりなの……!?」
「数式は大学レベルのなら解けるし」
「そういう問題じゃないわよ!」

頭が良いからと、それで学校に行かないなんて損をする。嫌なこともあるかもしれない。けれど、良いことも絶対にあるとエミリーは断言出来る。
学校では両親が一緒にいない不安はあるが、その不安は友達が取り除いてくれる。勉強は科目によって好き嫌いを持っていたりもするが、物事の解き明かし方は自分のために必要だという自覚も幼いながらにぼんやりと感じていた。
怒鳴ってしまったが、エミリーは母親に教えてもらった深呼吸を二度繰り返した。

「明日、迎えに来るから」
「え」
「なに、その顔」
「いや、だって………」

わざわざそんなことをされては困る。学校に通う気持ちはフリットにはないのだ。それに、ブルーザーに負担を掛けたくなかった。学校に通うにはお金が必要なことくらい常識として知っている。今ここで暮らせているだけでも感謝しきれないほどであるのに。
これを口にするのは少年の幼いプライドが許さず、エミリーには伝わらなかった。

「明日の時間割……は、ちょっと忘れちゃったけど、筆記用具だけは用意しておいてね」

なかなかの強引さに押されて、気持ちとは裏腹にフリットは頷いてしまっていた。ところで時間割はかなり重要なことではないだろうか。それを忘れてしまっては元も子もない。

「約束だからね」
「………う、ん」

気が進まないと言いたげな態度で返せば、少女は頬を膨らませた。泣かれたらどうしようとフリットは眉を歪めるが、エミリーは悲しいわけでも悔しいわけでもなかった。だから泣くはずがない。

「約束!」

念を押されてフリットは吃驚する。

「はい」

口を突いて出たのは承諾で、エミリーは良く出来ましたとばかりに微笑み咲(わら)った。瞬きを繰り返したフリットは少女の笑顔から顔を背ける。先程まではあまり気にもしていなかったのだが、綺麗なブロンドだと思って。

自分自身への興味が薄い少年にはそれが照れ隠しからの行動と気付くには足らず。だが、明日は学校に行ってもいいかもしれないと、小さく決意を持たせてくれたのはエミリーのおかげであることには気付いていた。
この基地内の軍人達も顔が分かる程度で、学校には尚更知り合いなどいない。知らない人が増えるという考えも何処かに持っていたのだ。

「おーい、用意が出来たぞー」

下方からの呼びかけはバルガスのものだ。首を捻るフリットの手と自分の手を繋いだエミリーは良いことがあるからと表情にして、少年をそこから連れ出した。












授業の内容は自由課題で、学校の図書室で生徒達は課題探しをしていた。
既に取り組む課題が決まっている子は少ないが、その中にフリットの姿を見つけたエミリーは彼が開いている本を遠目から覗く。難しそうな計算式が掲載されており、あんな本が学校に蔵書されていたことさえ知らなかった。

足が止まっているエミリーに気付いて、一緒に本を探していた二人の少女が振り返る。

「エミリー?」
「探しに行こう?」
「あ。うん」

視線を戻したが、先程のエミリーの視線を追った二人はフリットを視界に入れた。

「……フリット君って、なんかこわくない?」
「そんなことないよ」

髪を項下で二つに結っている少女にエミリーは首を傾けて返した。けれど、もう一人。横の、ブラウン髪の少女もフリットの印象に同意して頷いていた。

「私も。他の男の子と違うっていうか」

何を考えているのか解らない。それが不可解で近づきにくいのだと。それを聞いてエミリーは眉を下げる。
彼女達の言葉に悪意はない。だからこそ、誤解とも取れないそれらを訂正することは難しくて、歯痒い気持ちになった。

転校生に同級生達は最初は興味津々だった。フリットの周りを囲んで賑やかにしていたが、それは翌日で終止符を打った。周囲はフリットの独特を感じる面持ちに異質を見たからだ。
本人は纏わりがなくなって安堵していたのをエミリーは知っているが、孤立気味のフリットのことが気懸かりだった。学校に通うように言ったのは自分だ。けれど、彼が傷つく結果になっているのではないかと不安が過ぎる。
フリットは優しいのだと、そう胸を張って言える勇気がなくなっていく。

友人二人はその後早々に興味のある本を見つけてしまい、エミリーは一人で本を探していた。けれど、自分は何がしたいのか見当が付かなくて本棚を前に彷徨う。まだ探している子が他にもいるのが救いだが、八割近くは机で本を読んでいる。

焦りを持っていると、傍らに足音があった。図書室では静かにしていなくてはいけないから小さな足音も大きく感じてしまう。
振り返れば、フリットがいて瞬いた。そして、一冊の本を差し出されて反射的に受け取ってしまった。

不思議そうな様子のエミリーにフリットは「えっと」と前置きして。

「まだ、探してるみたいだったから。エミリー、保健係だったよね?」
「うん。そうよ」
「だから、こういう本なら役にも立つかなって」

フリットが手渡してくれたのは応急処置のマニュアル本だった。悩み焦っていた気持ちが晴れていくのを胸に、エミリーは自分のやりたいことが見つかった。

「興味なかったら別にいいんだ。返す場所が解らなかったら、後でその本は僕が使ってる机に置いといて」

踵を返してしまうフリットは素早くてエミリーは何も言えなかった。
近くで見ていた同級生が冷やかそうと目論んでいたのをフリットは気付いていて、素っ気ない態度をしたのだ。エミリーもそれを汲み取って、場所取りをしてくれている友人達のところへ向かった。





学校からの帰り道、今日は祖父の所へお遣いを頼まれているエミリーは自宅に鞄を置いて母から預かったバスケットを手にしている。玄関前で待っていたフリットに「おまたせ」とエミリーは駆け寄る。

「走ったら危ないよ」

先に行ったりしないと苦笑しているフリットにエミリーは気恥ずかしくなった。
同じ歩幅で連邦基地に向かいながら、エミリーはようやく言えると口を開いた。

「本、ありがとう」
「え。ああ。あれで良かったなら、うん」

フリットは鞄を背負い直した。

「あのね、フリット。学校、楽しい?」
「何でそんなこと訊くの?」
「私………」

あれ。何でだろう。言葉が続けられなくなって、エミリーの足が止まる。フリットも立ち止まってくれた。
学校に行かなければ良かったと思っているのではないか。みんなと距離を感じているのではないか。私が強引に連れ出したから。

「それなりに」

いつの間にか俯いていたエミリーはフリットの声に顔を上げた。

「授業は物足りないよ。けど、つまらないわけじゃないし。身体動かすのも嫌いじゃない」

運動ぐらいはしなければと、ラーガンに頼んで軍人の基礎トレーニングに一度だけ入れてもらった。けれど、自分には無理がある内容だった。負けず嫌いな気質もあり、何か削ることをしたくなかったフリットは大人に混じって同じことをして、翌日ベッドに沈んでいたのだ。
今に合う運動は学校の体育が理に適っている。ラーガンにもそう諭された。

もうあれから一年経つ。学校に通うことが普通になっている。
相変わらず、ガンダムの製作に熱を注いでいるが、パーツの発注で手間が掛かったりと時間を余らせているのだ。最近はUEの過去の出没地などを調べていたり、やることは増えている。けれど、出来る限り学校に通い続けているのはエミリーの存在があったからだ。

話し掛けてくれる。話を聞いてくれる。他愛ないことだろうけれど、フリットにとっては心強さそのものだった。

「ずっと言ってなかったけど、ありがとう」

照れて先に歩き出してしまったフリットの背中をエミリーはくしゃりと頬を緩めて追いかける。

「どういたしまして」

その言い方は変だよと笑うフリットにエミリーもおかしいと認めて笑った。
少年の横顔を見つめ、エミリーは自分の夢を見つけたことに気付く。将来、彼の隣にいられたらいい。願いに近いかもしれないけれど、これが私の夢。フリットの優しさが勇気をくれた。

だから。
私は、一目惚れなんてしたことがない。





























◆後書き◆

AGEでは初めての(普通の)ノーマル小説になりました。フリエミ好きですフォーエバー。
一目惚れラブも大好物でありますが、フリエミの積み重ねラブが個人的ツボであります。

故郷と家族を失って心を閉ざしていたとは思うんですが、荒れて警戒することはなかったんじゃないかとフリット君は。だから、素っ気なくても優しいことにエミリーはすぐ気付いてくれていたと思ってみたりです。

Phantastische Geschichte=夢物語

更新日:2014/12/04








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