18歳未満の方は目が潰れます。






























◆Rückwirkung-後編-◆










腕の中から抜け出して、フリットは眼を重たげに開く。
この身体では覚醒よりも睡眠を欲してしまうのだ。すっきりと目覚められないが、二度寝をしてしまう程ではない。

傍らに視線を落として、表情を緩く崩す。抱き枕のようにずっと抱きしめられたままだったので少し身体が痛いが、そういう意味ではあれ以上手を出してこなかった男に苦笑を交える。

「ウルフ、起きろ」

肩を揺すり、呼びかける。もう一度、名を呼べば反応が返ってきた。

「どうした?」
「私だ。意味は分かるな」

横になっていたウルフは身体を起こし、座り込んだ姿勢でフリットと向き合う。同じようにベッドに座るフリットの座高は低いままだ。

「中身だけ元に戻ったのか」
「そのようだ」

話しぶりから記憶が逆行していた時の記憶もあるのだ。つまり、昨日のことははっきり覚えているのだろう。
無意識に視線を逸らしてしまったウルフにフリットは事も無げに言う。

「私がお前を拒絶するはずがないだろう」

眇が此方を向いたことにフリットは首を傾げる。何か気に食わないことがありそうなウルフからの不服の言を待つが、彼は口を割ろうとしなかった。
そういうものなんだろうと、フリットは内で頷くに留めてベッドから降りる。

「手間を掛けさせた」

シャワー室の脱衣所へ向かったフリットは身なりを整えると、ウルフにはそれ以上言わず、顔も見ずに部屋を出て行く。居残るハロはシーツに突っ伏すウルフを知覚して僅かに転がった。







ブリッジに赴いたフリットをミレースは出迎える。先程連絡を受け取っていたため、状況を彼女は把握出来ていた。

「ここ数日の接敵データを確認させてもらう」
「ええ」

司令席に坐したフリットが表情を歪めたのをミレースは見落とさなかった。身体に合っていなかったのが気に入らないと言いたげだ。
しかし、口にすることはなく、フリットは手慣れた様子で情報を呼び出して頭に叩き込んでいる。

その様子を興味深げにブリッジクルーがちらりと視線を投げて見守っていた。皆、言葉が喉から出かかっているようだが、司令に直接言えるわけがないと飲み込んでいる。

「司令、一つ尋ねたいのですが」
「少し待ってくれ…………それで、艦長」

作業に一区切りをつけたフリットは艦長席に坐したミレースを見上げる。向き合いにくさはないが、見た目と中身のあべこべ具合に違和感を得ながらミレースは尋ねる。

「そのお姿になってしまった原因に心当たりはありますか?」
「心当たりはない。だが、記憶だけ元に戻った要因の見当はついている」
「では、元に戻る方法はあるんですね」
「………ウルフが手を貸してくれるならな」

誰かの協力が必要ならば、フリットの頼みならば、ウルフは快く引き受けそうなものだろう。弱気に発言したフリットにミレースは首を傾げる。

「少佐なら二つ返事で了承するでしょう」
「それは期待出来ない」

視線を新たに立ち上げた情報へと落とすフリットにミレースは瞬く。

「少佐でなければならない案件なのですか?」
「そこは私にも断言しかねるが、他の者には頼みにくい」
「少佐が良いんですね」

拗ねた視線が向けられてもミレースは表情を崩さず、真顔を保っている。
彼女に知られているはずがない。が、勘の良さならばディーヴァ艦内では最上位であることは確かだ。
含んだ言い方をしても、態度には出さないところにグルーデックの面影を見る。しかし、今は回顧に浸る時間ではない。

「可能な限り早急に手は打つ」

このままでいるのはフリット本人も望まぬことだ。ウルフが無理だと言うのならば他の相手で試みるしかあるまい。効果があるかは不透明だが。
今の段階で何人かに目星は付けておかなければと義務感から思考するが、億劫になっていることを自覚する。相手への無礼もある。だが、一番の理由は自身が前向きでないことだ。

精悍な発言をした後、困り果てている顔で俯くフリットはあの頃と変わっていないように感じてミレースは苦笑した。大人になってポーカーフェイスが上手くなっただけだったのではないか。そう思ったからだ。

そこへ新たな人物がブリッジに顔を出す。彼は些か勇み気味の歩みでフリットの目の前に立つと背の伸びた姿勢を更に正した。

「司令とお呼びしても構わないでしょうか」
「ああ。それとアルグレアス、私がこの姿になる前に話していた件だが」

逃げられてショックを受けていたフレデリックは以前と変わらぬ態度に戻ったフリットに緊張を解く。司令官からの指示を副官としてしっかりと頭に叩き込むが、フリットの見た目のインパクトには敵わず、指示を聞き終えて退席の旨を自ら口にした後でもその場に留まってしまっていた。
それを怪訝に思ったフリットは彼を見上げて「どうした」と告げる。指摘されて、自分が微動だにしていなかった事実を遅れて自覚したフレデリックは見上げてくる仕草に率直な感想を漏らしてしまう。

「愛らしかったので、つい」
「………」

静まった空気にフレデリックは自身が口走ったことに狼狽えて取り繕う言葉も見つからず、咄嗟に仕事に戻りますと足早にブリッジを退出していった。扉が閉まった後で、ミレースをはじめとしたクルー達の視線がフリットに強く刺さる。







円柱と卵を融合したシルエットを持つAGEビルダーの傍らで、フリットは端末パレットを操作していた。

「それで逃げ場を探して此処に来たのか」
「逃げてきたわけじゃない。支障は無くても、不相応では示しがつかないだろ」

意地を張っているなとディケは頭を掻く。見た目が強く影響しているが、元々の性格を知っている人間からすれば、フリットだからの一言で片付けられる。
それ以上は追求することなく、ディケはフリットとそう距離のない自分の持ち場で作業を再開する。

互いに干渉はせずにそれぞれの作業に没頭していれば、ハロが向こうから跳ね飛んでくる。此方の名前を呼びながらで、フリットはハロを視界に入れた後に彼の姿を探したが見当たらなかった。ただ、自分の息子とディケの娘の姿があった。
どうやら、ハロは既にウルフの手からアセムに受け渡されていたようだ。

「えっと……父、さん?」

で、いいのかなと恐る恐る訊いてくるアセムにフリットは頷き返す。

「面倒を掛けていたようだな」
「そんなことはないんだけど……ですけど」

司令と呼ばなければいけなかったことに気付いてアセムは敬語に言い直す。しかし、フリットの方は司令として立ち居振る舞えていない不足を感じているために、アセムの訂正にどちらでも構わないと首を横に振った。

「昨日のことで訊きたいことがあって」
「アセム、昨日のこととは何だ?」
「え?」

アセムは真っ直ぐに見返してくるフリットの目に自分も真っ直ぐ相対する。先に崩したのは疑問が広がったアセムだ。

「覚えてないの?」
「昨日までの記憶がないんだ。この通り、数日間のヴェイガンの動静と連邦の対処を目検している」

端末パレットを目線で指したフリットは画面をアセムには見せない。此方の言葉に疑いは持たない子だと知っているからだ。
パレットの画面に敵味方の情勢は映し出されていない。それに関しては確認済みだからだ。表示されているのはAGE-2用の新規プログラム構築画面である。

「本当に?」

疑問を重ねたアセムにフリットは小さく驚きを得る。疑われただろうかと。

「本当に覚えてないんだ」

しかし、此方の無言に対してアセムが次に重ねたのは残念であり、フリットは力の入っていた身体を緩ませた。

「すまない、私もやらなければいけないことがある」

息子から目を離し、フリットはディケの方に足を向ける。
そこに取り残されたアセムにアリーサが背後からひょいっと顔を出すと、アセムとフリットを一度交互に見遣る。

「中身は司令だな、あれは」
「うん」
「あべこべで何か変だけど、お前も何か変だぞ、っと!」

最後の声と同時に背中を強く叩かれて、アセムは上半身を前傾させながらも転ばずにアリーサを振り返る。
肩透かしを喰らってしまった此方を励ましてくれているとこれまでの付き合いで分かっているため、アセムは微苦笑した。

そのまま二人で去っていく背に視線を向けた後で、ディケはフリットに視線を投げる。

「覚えてないっての嘘だろ」

自分が聞き及んでいたのは今日のことだけで、昨日までのことは含まれていない。だが、フリットの作業内容は此方も把握しているのだ。意味もなく、そのことだけを誤魔化すという線は考えにくい。

「気不味くてな」
「何が」

完結させる前に言葉を差し込んできたディケに先手を取られた。フリットは感情的になりそうになるのを押さえながら、彼の思惑通りに続ける。

「ウルフのことをアセムに喋った」
「それの何処が気不味いんだよ」
「……ウルフのことだからだ」

気不味いと感じているフリットに共感は出来なかったが、掘り返されるのを避けたい内容は知れた。
しかし、そこまで避けようとするとなると。

「そういや此処まで噂流れてきたけどよ、お前がウルフに懐いてたって話だ」

反射の勢いでフリットがディケに振り向く。しかし、感情を抑えた声で反論しようと口を開けば。

「私は別に……、あれはただ」
「分かってるよ。自分だけ未来に来ちまったら知り合い捜しからするもんだ」
「そういうのとは違うだろ」
「じゃあ、自覚ありか」

押し黙ったフリットはディケに尚も言い重ねようとしたが、やはり押し黙るしかなくなった。それでもう答えは出ているだろう。

ディケの視線が不意に持ち上がり、フリットは疑問を持つよりも先に自身の身体の浮遊感に身を丸めようとした。

「動くなよ、落としちまう」
「お前、何で」

脇に抱えたフリットの手から端末パレットを奪い取ったウルフはそれを適当な所に置く。そんな無造作に置くなとディケがそれを手に取る頃にはウルフは来た道を戻り始めていた。

「降ろせ、自分で歩ける」
「そりゃ無理な相談だ。艦長直々に頼まれたからな」
「艦長に?」

ミレースは何を思ってそんなことをとフリットは思考を巡らせる。これは自分が立ち回ってどうにかしなければならない問題だ。彼女は何処までウルフに耳打ちしたのだろうか。

「艦長はお前に何だと言ったんだ」
「ん?もう暫くは側で面倒見てくれとかそんなんだけど、やっぱ持ちにくいな。よっと」

内容が変わった途端に、更に上の方に持ち上げられたフリットは落ちないように手に触れたものを掴んだ。すれば、それはウルフの肩で、抱っこされていることに羞恥する。
まだ荷物扱いの方が耐えられた。しかも、誰かとすれ違いかねない通路なのだ。こんなところを見られては。

「や、やめろッ、降ろせ」
「だから動くなって。危ねぇぞ」

腹部と腕に力を入れてウルフが跳ねるように抱っこし直せば、持ち上がった身体が安定を求めてフリットはウルフにしがみついてしまった。それを逃さずにウルフはフリットをその位置で固定するように先程より強めに抱きとめる。

熱が顔以外にも集中しそうになり、フリットは気付かれたくなくてウルフの肩に額を押しつけて隠れようとする。ウルフの方からは茶化しも何も無く、ただ、前へ進んでいくのみだ。

『元気カ?元気カ?』

不意のハロの声にフリットはまさかと、慎重に、ゆっくりと、首を巡らせた。目が合わないように気をつけたが一瞬だけ合ってしまった。

「ウルフ隊長、あの、父さんは」
「熱があるんだと。ちっこいからな」

見れば、顔がはっきりと此方を向いていないが、覗く頬や耳は赤いと感じた。先程はそんな風でもなかったはずだけれど。

「無理させないように艦長にも見張っとけって言われたしな」
「無理しないようにって、隊長にしちゃぁ甘くないですか?」

アセムの横でアリーサがつつけば、ウルフはあのなぁと言った後。

「お前らは身体としては大人なんだから蹴れば治るだろうが、こいつはそーじゃねぇだろ」
「俺たちだって蹴られたら怪我増えますけど」

半目でアセムが言えば、アリーサも同じ顔で同意のコールをする。
他愛ない会話が続き、フリットは二人の視線、特にアセムからの視線に耐えきれず、ウルフの髪を引っ張った。
やっと此方に視線を落としたウルフにフリットは再度、彼の髪を引っ張る。

「今日の訓練はオブライトに伝えてあるから遅れるんじゃないぞ。彼奴、遅刻が一番許せないタイプだからな」

そう言い置いて去れば、背後からアセムの溜息とアリーサの喚きが刺さってきた。しかし、ウルフは気に留めずに通路を進んだ。
人目の気配が薄れてくると、フリットが此方を睨んできた。

「だから降ろせと言ったのに」

そう口にして文句が向けられる。けれど、今からでも降りようとせず、フリットは身を任せてくる。
此奴を受け止めるのは悪くない気分だと、ウルフはフリットの若草色を撫でた。

「やめろ」

言われるが、言葉以外の抵抗は表情だけだ。

ウルフの自室を潜り。また戻ってきてしまったと思っていたところで、フリットはベッド上に雑に放られる。ばふんと一度大きくバウンドした。

「もう少し丁寧に扱え」

仮にも上官だと、フリットは俯せを起き上がらせてウルフを見上げ眇めた。

「そんな柔な身体じゃないだろ」
「アセム達に言っていた言葉と随分違うんだが」
「蹴りゃしねーよ、お前のことは。ベッドにダイブする愉しさを教えてやろうとしただけだ」
「教えてもらわなくても結構だ」
「愉しくねぇのか?」
「……意外と、すっきりすることだけは認める」

肘から先を支えにして起き上がらせていた胸上を、力を抜くことで再度ベッドに沈ませたフリットにウルフは微苦笑を滲ませてベッド縁に腰を下ろす。

静かになる空気に、フリットは足下近くに坐しているウルフに目線を向ける。彼は此方の視線に気付いているだろうに、見合わせようとしない。
持ち上げられてから、目と目を合わせることを避けられているのは解っている。ウルフが大げさに息を吸う音に、落とし気味だった視線をフリットは上げる。
彼はまだ此方を見ない。

「中身の方が戻ったのは何時だ?」
「いつ、というのは、明確な時間か?」
「起きたときか、その前かだけでいい」
「その前だ」

相手の反応を目にしてから、フリットは仰向けになる。距離が遠ざかった。

「お前が俺に頼みたいことって、つまりそうだよな」

ミレースから聞き及んだのは、フリットが元に戻るのに必要なことで、自分が指名されているということだ。けれど、指名してきたフリット本人が渋っていると言うのだ。
そこまで耳に入れれば、起き抜けの時の様子と合わせて大方は導き出せる。

「お前にその気が無いなら、他の者に指示を出す。責任は持たなくていい」

此処に留まっている必要はないと、フリットは背を起こして座り込んだ姿勢から立ち上がろうとする。けれど、影が落ちてきて見上げようとした瞬間には、背中がシーツに戻っていた。

「他の男にはやらん」

言われ、内包するものを理解した後で顔を背ける。こっちを向けとウルフの声がしても応じずに、フリットは眼を細めた。
欲していた言葉だと、期待していた言葉だと、口を引き結ぶ。それでも、身体の方を思えば、緩ませることは出来ないのだ。

掴んだ両の手首から、震えがあり、ウルフは此方を向こうとしないフリットに吐息する。

「怖いのか?」

したことはあるだろと含めて言えば、フリットはやっと視線を寄越してきた。

「この身体で、お前のが入るとは思えない」
「理由はそれだけか?」

逡巡したフリットは「今のところは」と後で何とでも取り繕えそうな返答をしてくる。だが、今はそれで充分ということだ。

「がっつきゃしねぇよ。とびきり優しくした後は知らんが」

いきなり無理はしないという宣言だが、その後は無理をさせられるかもしれない。約束はしかねても、口にしたことは曲げない男だ。少なくとも、前者は信用に値する。

「――任せる」

告げた後で、額に口付けが降りてきて、フリットは肩の力を抜いた。

目を合わせて確認し合ってから、試しに口と口を触れ合わせたが、変化はない。最後まですることになるが、効果がなかったとしてもウルフならば後悔はないと、試しではない口付けを相手に寄せてフリットは目を閉じた。





素肌を晒す臀部に舌が這わされて、足の内側が滑りに感じて痺れそうになる。
腰を上げた俯せ姿勢で、フリットは前戯に耐えていた。無理をさせないにしても、ゆっくりと時間をかけて身体中を含みのある触れ方で撫でてくる。正直、ここまでの扱いをされると逆の意味で困惑してしまう。

尻を揺らしたフリットに、焦らしすぎたかとウルフは舌を窪みのほうに差し込んだ。

「ぅー……」

そこを舐められるのは羞恥と汚辱があり、感覚よりも気持ち的な声を漏らす。
記憶としては初めてのことではないために、汚いからやめろとは言わない。どうせ無駄だからだ。ウルフが聞き分けるわけがない。それに、変な感じはあっても、気持ち悪くはない。

入り口よりも少し奥に侵入してきた舌先が内側を舐めあげてくる。
更に奥に舌が来た瞬間、背筋がぞわりとした。

「ウルフ、それ」

聞いてはいても、やはりウルフは中断しない。中で舌が動いているのもあるが、予想に反していることが一つ。

「髭が、ァ、あたって」

股の付け根や際どいところにウルフの髭が擦りつけられ擽(くすぐ)られる。それがその気になっている身体をより刺激してくるのだ。毛が程よい柔らかさを持っているのもいけない。

「痛ぇ?」
「違う」

気に掛けて一端身を引いたウルフに否定する。それなら止めるなよと、ウルフはフリットの尻を両手で掴んで左右に開く。
しかし、会話が出来る状況にフリットはウルフを振り返る。

「お前は、脱がないのか?」

自分だけもう何も身に着けておらず、丸裸だというのに、ウルフは一枚も脱いでいない。そのことがずっと恥ずかしさとして胸にあり、疑問した。

「我慢してんだよ。俺が脱いだら速攻でヤっちまう」
「それは……」

仕様がないか?とフリットは内で首を傾げる。
その様子にウルフは此奴はまだ鈍いんだなと吐息を飲み込む。身体が未成熟だからといって、引っ張られているわけではあるまい。

再度、肢体を見下ろして、小さいなと思う。そういう意味で見ていた訳ではなかったが、今振り返ってみても、あの時からフリットに対して特別に近い興味はあった。けれども一般論として、無理が出来る身体じゃないのは一目瞭然だ。

フリットが行為を怖がるのも致し方ないぐらいだが、そうやって未知のものに微弱に身震いしながらいるのは捕らえられた獲物のようで、煽られる。
貪り喰らいたいのを我慢しているのは本当だった。

ウルフは割り開いた尻の間に顔を寄せ埋めた。そうすれば、フリットも思考を途絶えるしかなくなり、腰をひくつかせた。
身体の内側を舌が、外側を髭が愛撫し、同時は耐えきれなくてフリットは呼吸を乱していく。

窪み周りも唾液で濡らされ、だいぶ慣らされたと感じたが、フリットは冷たい感触に身を強張らせた。

「すまん。温め忘れた」
「ん」

掌に落とした潤滑剤をウルフは両手を擦り合わせて体温で温める。気が急いてしまったことを俄に反省するが、自分の中心はフリットの痴態に反応しているのだ。
こんなちんくしゃ、とも思いもするが、妙な色香があるのは中身の年齢だろうか。

濡れた指をひくついた窪みにねじ込む。濡れたところに濡れたものを差し込んでいるのだ。大した対抗もなくぬるりと二本分の指が入っていくと、フリットの口からくぐもった嬌声が漏れる。

手首を捻って内側を指の腹でぐりぐりとオイルを塗りつけるようにすれば、刺激に対してフリットは腰を揺らした。それでも大きく反応をすることはしたくないようで、腿を緊張させて腰を固定しようとする。
此方としては構いはしないのだが、ずっとそのままでは辛いだろうと、空いている方の手でフリットの足を撫で擦る。
最初は余計に緊張させてしまったようだったが、徐々に、緩んでいく。

「良い子だ」
「うるさい」

叱られたが、フリットの吐く息が熱くなってきている。良い傾向だと、なかを味わう指の本数を増やした。
探って確かめた位置に指を曲げて刺激を与えれば、小さな身体がびくりと跳ねた。

「っひ、ャ……やめ」
「痛かったらやめてやる」
「ンン、ぁ、だ――違、うが、やめ、ろ」
「違うなら聞く義理はないな」

前立腺の同じ場所ばかりを攻め立ててくるウルフの指に翻弄されて、霞みに身を委ねそうになるが、意地でもフリットは意識を手放さなかった。

潤滑剤を更に足していき、腿に垂れていくほど濡らして性感帯を弄りまくれば、情欲的な景色がある。流石にもう大丈夫そうだと確信を持ってから、ウルフは衣服を脱ぎ捨てた。
半勃ちの自身に手を掛けて刺激しようとした時だ。

「待て。やる」

俯せの状態から起き上がり、此方を向いた気怠そうなフリットにウルフは瞬く。

「やるってお前……」
「任せきり、というわけにもいかないだろ」

顔をふいっと横に向けて言い放つ姿に意地っ張りを見る。しかし、今のフリットの口では無理がありそうだとウルフは思う。
此方の無言に対してフリットは言い倦ねいているものに気付いたようで、眉を立てた。

「手も使えば充分可能だ」

そこまで言うのならばと、ウルフは自身から手を放し、シーツに尻をつく。広げた足の間にフリットが顔を寄せてくるのを静かに見守った。

節くれたっていない小さい手で根本の方を支えるように持ち、反対の手で亀頭を包む。鈴口のところを円を描くようにして、ぐりぐりと指先でつついた。
びくびくと反応する陰茎に熱い吐息を吹きかけてしまうほど口を近づける。けれど、その大きさに怯むようにしてフリットは身動きを止めた。

想像というのは比較的肥大させてしまう。だから、思ったより実物はそうでもなかったりするものだ。
目前にしてそれを覆されたことに狼狽えたフリットであるが、言い出したのは自分だ。意を決して口を縦に開いて、亀頭を咥えた。それだけで頬がいっぱいになってしまった。

手と口でどうにかなると意気込んでいた分、悔しさがあるが、それ以上にウルフに済まない気持ちが拡がる。
しかし、どうしようと迷っているわけにもいかない。出来うる限りで刺激してみれば、頭上で深い息が吐かれた。

「裏側、舐めてくれ」

要求に嫌な気はしなく、フリットは一端口を引いてから反り勃つものの裏筋に舌を這わせる。

下から上へ舐め上げることを繰り返す幼い顔立ちに、いけないことを仕込ませているようで気分的に後ろめたさを得もする。が、それにさえ興奮している自身に良い大人じゃないことを自覚したまま、手を伸ばした。

はっとして、後ろを振り返ったフリットは次いで困惑した顔をウルフに注いだ。
その困惑を一瞥はしたが、取り合うことなく、ウルフはフリットの尻を撫でながら探り、濡れている窪みを指で弄る。

入り口側ばかりを広げるようにして指を蠢かされ、声が出そうになるのをフリットはウルフのものにしゃぶりつくことで逃れる。
先程より臭いが濃くなっているのを舌で感じ、後ろの感覚と音も相まって身体が熱く疼いてくるものを止める術はなく。フリットは縋るようにウルフに視線を送った。受け取ったウルフは指を引き抜き、フリットを促した。

四つん這いになろうとしたフリットに待てと、ウルフはその肩を掴んで転がす。
仰向けにされたフリットは真っ直ぐに見下ろしてくる獣眼から隠れるように、腕で顔を覆う。しかし、それもウルフに手直しを入れられる。
腕を掴み取られてシーツに縫い付けられれば、顔を晒すしかなくなった。出来れば見られたくない顔をしていると口を引き結ぶ。

頬を上気させ、眉をきつめに寄せながらも目元は溶けそうなほど潤んでいる。その表情で留まっていることはなく、変化が目に見えて分かるのは感情が表に出やすい年頃の身体だからだ。
それを単純に見たいというのと。フリットを初めて抱いたときに顔を見ない体勢でやったことを悔いているわけではないが、勿体ないことをしたと後々で思った。
やり直し、というのとは違うかもしれない。けれど、このような形でも、最初を奪えるならば惜しいことを何一つとして零し落とす気はウルフにない。

「……出来れば、明かりを弱めてくれないか」

ベッド脇の照明だけであれば、見られていることにも耐えられよう。顔を背けながら嘆願したフリットを組み敷いたまま、ウルフは動こうとしなかった。

「ウルフ?」

視線を先にウルフへと向け、ゆっくりと顔もそちらに向け直した。眼を細めた狼にフリットは今更ながらに怯む。
瞼を落として、後ろ手にウルフは自身の銀髪に触れて髪留めを横に流すように引き抜く。動物が水を払うような仕草で首を左右に振れば、顔横に髪が流れてくる。

「今だけは俺のものだろ」
「私は、お前のものになったつもりはない」

訝しみを込めた表情でフリットは言い返す。すれば、ウルフは一瞬だけ瞠りを覗かせて、すぐに表情を戻した。
怯みは、どちらかというと疑問に変わる。

「どうした。変だぞ、お前」

此方が苛ついていることにフリットは気付いたようだ。有耶無耶にしてしまうことも出来るが、隠し通しているのはそれ以上に面倒でもある。

「他の男にはやらねぇって言ったよな」
「それは聞いたが」

抱く役割をということだ。それ以上のものを間に持ち込むことは互いに明言しなくとも、今までしてこなかった。それとなく感じ取る程度でいいと。だから、今回もだ。
そのつもりでフリットはウルフに頼んだし、ウルフもそれを承諾してくれているものと思い込んでいた。

「俺が断ってたら、誰に任せた」
「いや、はっきり誰とはまだ」

誤魔化している様子ではなかったが、具体的に名を並べてやろうかと口を開いたウルフは逡巡する間もなく閉じた。

この苛つきはフリットの中身が戻ってからのものではない。子供に戻ってしまってからはずっと側からそうそう離れることはなかったのに、アセムを追いかけた。一人で決めて。
自分の息子だと、無意識に解っていたのだ。いや、ほぼ確信を持っていたのかもしれない。それを尋ねられるのを意識的に避けたのは、説明しようのない蟠(わだかま)りがあったからだ。

「まぁいいか、そのことは」

フリットにではなく、自分自身に呟き落とした。

「俺に頼むのを渋ったのは、理由、あれだけじゃないだろ」
「…………」
「黙秘でも構わんが、首も横に振らないなら頷いてるのと一緒だ」
「……あのまま、抱かれてもよかった」

話題を切るような唐突な発言だった。けれど、そうではないことを続くフリットの声が明確にしていく。

「そう思っていた。だが、あれ以上は何も………お前の方こそ、理由とやらがあったんじゃないのか」

視線を合わせなくなったウルフに一度言い倦ねたが、肩から力を抜いて緩みに任せて口にした。

「子供に手は出せないか」

掟だの、ルールには厳しさを持っている相手だ。筋を通す人格だからこそ、今日まで人間関係の付き合いを続けて来られた。
襲いたければ襲えばいい。それを咎めようとは思いもしない。

「奥手め」

だが、その逆なら咎める。
実際にはもう少し複雑な理由かと考えていたが、単純にも程がある。

と、足裏を徐(おもむろ)に掴み上げられ、背が下側にずり下がった。

「お前ッ、何を」

足を左右に割られ、その間からウルフの姿が見えて自分の格好に朱が差す。

「話は終いだ。お前はヤりたかったってことだろ」
「そういうわけでは――」

その先を続けられず、フリットはぶるりと肢体を反応させた。
充分に慣らした窪みの奥にまたウルフの指が差し込まれ、なかを穿(ほじく)り返されたからだ。
すぼすぼと抜き差しされているのが目を開けていると見えてしまう。視線を別の場所に落として、シーツを掻く。

「ッ、おい……ぅ、しつこい、ぞ」
「怖いって言ってただろ」

慣らしすぎに不可はないはずだ。指を三本、軽々と飲み込んでいるのだから、本番に移行しても大丈夫そうなのは見て分かる。
しかし、フリットに言われっぱなしで気が立った。少しばかり仕置きをすれば此方の気も晴れるのだから付き合ってもらう。

「フリット。お前さ、オナニーしたことねぇの?」

何を言っているとフリットは落としていた視線をウルフに向けたときに、彼が言いたいことを視界で理解する。
自分のものは少しも反応を示しておらず、垂れ下がっている。感じているのが後ろばかりという現状にフリットは何も言えなくなった。

「その歳じゃしてないか。機械いじりの方が楽しかったんだろうし」

そう言いながらウルフは片手を後ろに入れたまま、空いている方の手でフリットの陰茎に触れた。

「ん……」
「こっちの初めても俺がやって構わんよな」
「勝手に、しろ……ッ」

本心としては勘弁願いたいところだったが、ウルフの様子が幾分か緩和されているように感じたため、抵抗はしないことにした。自分の方も言い過ぎたと、反省の念はある。

腿裏を上に向けて身体を折り曲げた体勢であるから、もともと自分のものは腹部のほうへ向いていたが、芯を持ち始めて頭をもたげた変化は見て取れる。
後ろと同時に弄られるのは記憶としては初めてではないはずなのだが、身体の記憶はなくて翻弄され気味だった。

感覚がそのまま表情に出てしまっていていけないと思考するのに、表情を作り直せない。隠そうにも、手がシーツを握りしめてしまっている。身体に命令を伝えられないほどに乱されていた。

中心に込み上げてくるものがあり、せめてウルフに伝えようと閉じそうになる視線を必至に向けた。汲み取ったウルフは口角を上に引いて、フリットの裏筋を撫で、絞り出すように揉みほぐしてやる。

「――ッ―――ンン」

自分の腹部から胸まで白濁が掛かり、薄い臭いに顔を背ける。
中心と後ろの窪みから身を引いた男の手は、一息吐ける隙もなく此方の下半身を降ろすと直ぐに足を割り開いて、その間に身体を乗り出してきた。

尻の割れ目に高ぶった男根が擦り付けられて、もう少し待ってくれと絶頂感が抜けきっていない手を伸ばすが、その手をウルフに取られて引き戻される。

「こっちも限界なんでな、観念しろ」

言って、ウルフは自身の先端を、指で丹念に掻き乱し濡らした窪みに押し当て、腰をぐっと前に押し出した。
入らないのではないかという懸念は既にフリットの中でも隅に追いやられていて、挿れられてくる感覚を声に結びつけないようにするのが手一杯になっていた。
ぐぬぐぬと奥へ進んでくるウルフのものを感じて、残留していた絶頂感まで押し上げられると呼吸が一層乱れていく。

痴態を表情に表すフリットへ視線を落として、どれだけ感じているのかを見定める。こういう時は真面目な顔を貼り付けようとするのだ、フリットは。だが、今はコントロールが難しいのは身体の幼さが証明している。
芳しさも重要だが、視界で得るものは分かりやすく訴えてくる。

衝動に任せないように気をつけながら全てフリットのなかに飲み込ませ、このあたりまで挿っているだろうかと下腹部に掌を這わせて熱の籠もった息を吐く。

「ゴム、付けなくて良かったんだよな」
「いい。ッ、出せ」

繋いだ言葉さえ出てこないようだったが、フリットの言いたいことは読み取れる。なかに出さないと意味がないのだ。
それで本当に身体の方も元に戻る保証など何も無いのだが。

「なら、このままやらせてもらうが……この体勢、辛いか?」
「いや、そこまでッ、は」
「腰、きついだろ」
「………きつ、い」

そうだな、と。ウルフはフリットの背とシーツの間に手を差し込んで、自分の方に引き寄せるように抱き上げる。
褐色の肩に手をついて上半身を支えたフリットは瞬く。

「最初はお前のペースでやれ」
「それは」

自分で動けということだろう。視線を逸らして思案した時間は長くなかった。
腰を浅く上にあげて引き抜ききらないところで止め、下げてもう一度全部ウルフのものを挿れきる。

挿れられているのとは訳が違い、大きさをより意識してしまい、思ったほど腰を動かすことが出来ず。濡らしすぎで圧迫感はあまりなくとも、内側の窮屈さは拭えない。

「それで精一杯か」

此方に向けて言うでなく、首を傾けたウルフは要望の選択を間違えたと自身に言い聞かせているようだった。肩を掴んでいたフリットはその手に少し力を入れる。
首を左右に振ったフリットにウルフは頤を上げた。続ける気があるらしい。というより、出来ないのは自尊心に反するからというのが正しい理由だろう。

ウルフはフリットの両肩を掴むと、互いの間に距離を作るように押し返した。突然のことに愕いたフリットだったが、ウルフの大腿に背中が当たり、支えられていることに息を吐く。
立てられているウルフの膝に手をついて、自身の身体を支え直したフリットはウルフの考えが解らないこともなく、何も言わずに続けた。

しかし、何故この体勢なのかと疑問も残る。緩く腰を上下させること三回、先程は足のみで支えていたのが、腕の支えも加わっている。それに気付いて、ウルフの姿を捉えれば。
彼は頷いて。

「こっちのがエロいな」
「………」

フリットは動きを止めた。

向けられている半目にウルフは首を傾げる。
この男は何も考えていなかったのかと、フリットは此方の腿を叩いて動けと催促してくるウルフに渋々という顔で腰を動かした。

意識が削がれていたが、何度もウルフのものをなかに受け入れていれば呼吸もまた熱っぽくなって、首筋を汗が流れる。
こんなに大きいのが挿いるのかと思いもしたし、実際に挿っているという事実に興奮してしまっていた。だから、段々と大胆に動いていることにも、自分のものの変化にも気付き遅れる。

「すげぇことなってんな」

ぼんやりと空中を見ていたフリットはウルフの声に顔をもたげて、彼の視線の先を辿って自分もそれを見下ろした。

「ぁ……」

自身の中心が勃起したまま、裏側をウルフに晒して無防備になっていた。
自分の腰の動きに合わせて揺れもするが、ずっと勃ちあがっている。

「見る、な」

腰は止まらず、大きく開いた足も閉じられない。いい処にウルフが当たっているのだ。それをもっとと、自分で擦りつけるように腰が疼いてやめられない。

睾丸まで丸見えになっており、その下は此方のものを咥え込んでいて卑猥だと感じる。一度解き放った後は触っていない。後ろに挿れている感覚に反応しているのだ。最初は触るまで全く何の反応もしていなかったことを思えば飲み込みが早い。

「チンコ見せびらかしてるのはそっちだろ」
「ッ、して、ない」

そんなことはしていないが、身体の状況はそう見られても可笑しくはない。否定の説得力は弱いだろう。
淫語にまで中心がびくりと先端を震わせ、嫌だと思うのに窪みの奥も快楽を急速に求める。
そんな状態であるのに、自身のものに込み上げてくる放出感手前の感覚がフリットにはなかった。

四肢に緊張を入れ始めているフリットに絶頂の近づきを見て、ウルフは自分の腰を浮かした。
不意に突き上げられながらも、自分の動作を止められないフリットは互いに食み合う蠢きに身体を痺らせた。

「ぃ、ひゃ―――ッ」

絶頂後に力が抜け、フリットの身体はウルフの足の間に落ち、シーツに受け止められる。反動でウルフが中から抜けて、亀頭のでっぱりが直前で引っかけていったのに腿が震えた。

荒い呼吸を繰り返すフリットの中心は未だびくびくと上を向いている。
吸い付くようにそれに手を這わせた。ウルフの行動に眉を詰めたフリットであるが、抵抗する気力は残っておらず、ひくひくと身震いするばかりだ。

「……ッ」

んんと、鼻に抜けた声を漏らして足と腰をつっぱねたフリットから射精の素振りはなかった。

「空イキしちまったな」
「……いちいち言う、のは、やめろ」
「はいはい。悪かったって」
「謝るな」

荒い呼吸を整えて背を起こしたフリットは不満の色を顔にのせる。
では、どうしろと言うのかとウルフは肩を竦めた。

「私も、先程は言い過ぎた」
「お前何か言ったか?」

気に留めていないウルフに、彼らしいとフリットは疑問に思うなと首を横に振る。
奥手だとかそういう言葉を切っ掛けに機嫌を悪くしたわけではないのだ、彼としては。言葉を重ね合っているうちに少しずつ機嫌が逸れていったに過ぎない。

ウルフとこんなに時間を共有して話し合ったりしたのは年単位で久方ぶりで、熱を感じるのはそれ以上だった。だから熟考せずに、考えと言葉のタイムラグが極端に短くなっているのだとフリットは思う。

気にしなくていいと動作だけで伝えてきたフリットを見下ろせば、彼の様子は気にしていると見て分かる。

「アレやってみたかったんだよな」

フリットの両脇に手を差し入れ、持ち上げたウルフはもう一度自分の膝の上に乗せる。尻の割れ目を手で探り、自身を突き入れれば、フリットが瞼を閉じる。

「あれ、とは?」

閉じていた目を開けてフリットは問う。しかし、ウルフは答えてくれず、不安にもなる。だが、害になるようなことではないだろう。

「私はどうすればいいんだ?」
「さっきみたいに俺にしがみついてくれりゃあいい」

言いながらウルフはフリットの背に手を回して抱き寄せる。そうされて、さっきというのがこの部屋に来るまでに抱き上げられていたことを指していると気付いて、フリットは逡巡することもなくウルフに抱きついた。
これでいいのかと口にする前にウルフが身動きしたので、抱きつきを強くした。ベッド下に足を降ろしたウルフに疑問も追いつかず、彼は立ち上がった。

「え?ぁ、待て、これは」
「落としゃしねぇから安心しろ」
「ま、待てッ、ん、ゃ」

揺さぶられる不安定さにフリットは足をウルフの腰に絡めた。抱き上げられた状態で腰を振るわれ、不規則になかを突かれ擦られる。タイミングなどを測れない体位に身体が困惑している。
強く穿たれ、不意打ちでなかを蹂躙され続ける。

「軽いな、やっぱ」
「ゃ、ウル、フ。ウルフッ」
「大丈夫だ。しっかり抱いてる」

抱き上げられている方にとって不安な体勢だろうことは理解していた。だが、しがみついてくる強さが頼りの度合いを明瞭に伝えてくる。それを伝え返すようにウルフはフリットを抱いた。

「ァ、ァ……、」

互いの肌がより一層に密着して、フリットは自分の中心がウルフの硬い腹に当たり擦られる快感にも声を漏らす。
しかし、これはやはり。

「こわ、……いッ」

ぴたりとウルフは動きを止めた。後ろのベッドに腰を下ろすと、一瞬の迷いの後にフリットの頭に手をやり、撫でた。

先程より強く抱きつかれているように思うのは気のせいだろうか。いずれにしても、調子に乗りすぎたことを認める。
暫く大人しく撫でられていたフリットは身じろぎした。

「平気だ。続けろ」
「強がるなよ」
「強がってなどいない」

意地を張る姿勢に対してウルフはフリットを自分の膝上から退かして、ベッドに横たえさせる。

「ベッドでしようぜ」
「私はまだ」

身を起こそうとしたフリットの肩を押し返し、ベッドに沈ませる。そのままウルフもフリットの背中を抱き込むように横向きに添い寝そべる。

「そういうのは、しなくていい」

意味がありそうな優しさに戸惑う。互いの間に持ち込まないと暗黙してきた情感に乱されそうになって、シーツを掴んだ。
ウルフからの返事は無く、彼はフリットの首筋に顔を埋めて鼻腔を深く揺らした。味わうように強く嗅いでくる。

どういうつもりなのかと、フリットは困惑顔でウルフを振り返った。
フリットの股の間に手を差し入れたウルフは彼の腿に触れて片足を持ち上げる。

「やるからには愉しみたいだろ」
「遊びじゃ、ないんだぞ」

太い指がなかに侵入してきて、本当にしつこいとフリットは目元を持ち上げた。
潤滑剤がいつの間にか足されたようで、更に濡れた音が下半身から響く。

「ああ、遊びじゃないな。本気(マジ)だから」

閉じかけていた目をフリットは見開いて、今一度ウルフを振り返ろうとしたが、指とは違う質量がなかに挿ってきたことで叶わなかった。

緩急はなく、勢いばかりの性急な動きに身体が壊れてしまうと思うのに、不思議と、逃げたいという想いは一切浮かばない。苦しくはなっても、この激しさはウルフそのものだからだ。
出来るだけ声は出したくなくて、けれど、呼吸をしていないと辛い。

声の混じらない息ばかりが荒くなり、野生臭いなとウルフは獣息を吐いてフリットの頬に自分のそれをすり寄せた。
眉と目元を歪められて、髭の感触が嫌なのだと知る。けれど、それを我慢しようとしている仕草にウルフは口元を緩めた。

最初に充分慣らしたが、挿れ初めはやはり身体の小ささなりにきつかった。けれど、フリットも男根の大きさに慣れた頃合いで、此方を受け入れたなかは柔らかく蕩けそうに熱い。

肩や背中を吸うように舐められ、彼の下ろされた銀髪が素肌を撫でてくる。厚い手指は此方の胸を撫でたり摘んだりしてきていた。性感帯ではないが、触れられて何も感じないわけではない。
上半身をまさぐられながら、下半身の内側を激しく突かれる。ふと視線を下げたフリットは自分のものが勃ち上がり、先端を濡らしているのを確認してしまった。
射精感が膨らみ、後ろの快感も強く増していく。

「はぁ、ぁ……ッ、ぼく、――ぼ、く、もぅ」

絶頂に達したフリットはウルフの濃い息を背中に受け、彼の白濁がなかにどくりと流れ込んでいるのを感じ取る。量は多くないが、自分も白濁をシーツに飛ばして射精していた。
ぬず、とウルフが中から出ていき、フリットは息を整え直す。

「ふ」

短く息を流せば、肩を引かれて背中がシーツにつく。真上にウルフの顔があり、フリットは首を傾げた。

「お前、いま」

どっちだ?と真剣な表情で見下ろされる。

「何ですか?」

顔を下げたウルフにフリットは表情を崩した。

「本当に子供には手を出したくないんだな」
「……からかったのか?」

眉を片方上げてウルフが眇めれば、フリットは表情を改めて首を横に振る。
思わず漏れてしまった自称から目を逸らしたかっただけだ。気恥ずかしくて。
ウルフの方にはしっかりと伝わっていないようだったが、彼は肩を落とすように息を吐いただけで話題を変えた。

「で、戻りそうな感じあるか?昨日はすぐだったんだろ?」
「すぐだとは言ってないだろ。それに、精神部分と肉体部分では違うものではないのか?」

互いに確証のない事柄だ。疑問に疑問を返しても堂々巡りにしかならない。

身体を引いたウルフは無防備なフリットの肢体を視界に捉えて、細い足を割り開いて自分の方に引き寄せた。
ずるりと手荒な扱いだったが、フリットが文句を言わない口で言ったのは。

「お前はあれじゃ足りないだろ。好きにしろ」
「役目は終えてんだよな。ゴムいるか?」
「今更だ」

いらないという了承を得て、狼は獲物の腿を噛んだ。
食まれた痕に熱を感じながら、フリットは身体が戻るかどうかより、本気だと口にしたウルフの言葉を内にたゆたわせる。







覚醒前の手に届く感触に違和を感じて、ウルフは瞼を持ち上げた。
自分の方が先に目覚めたということは、やはり向こうの負担が大きかったのだ。寝顔に幼さの面影を見つけるが、一番気にしているであろう本人を起こすために肩を揺すった。

「フリット」
「………ん」

一度目を閉じかけたが、ウルフの姿が目に焼き付いてはっきりと覚醒したフリットは寝付く前のことを思い出して背を起こした。
自分の両手に視線を落とし、まじまじと見つめる。

「俺のチンコで戻った感想は?」
「言葉を選べ」

相手の不機嫌にくしゃりと笑ったウルフは枕に頭を沈めた。
そんな様子のウルフを僅かに振り返った後、フリットは彼の顔を見ないまま。

「助かった。感謝している」

照れ隠しの残る声色にウルフは表情を止め、次には穏やかに微笑した。
その空気を後ろに感じてなかなか振り返る勇気が持てず、フリットは誤魔化すように言葉を探す。

「服は、どうするか」
「あるぞ。艦長にお前の制服持ってけって手渡されたからな」
「……準備がいいな」

頭を抱えながらフリットは呟き落とした。ミレースの手配の良さは称賛に値するが、素直に喜べない自分がいることも確かだ。
彼女には何処まで勘付かれているのだろうかと、ようやくウルフを振り返って彼の姿をはっきり捉えたフリットはそれよりもと別の思考に移った。

「まだ、する気はあるか?」

唐突な発言に案の定、ウルフは意味が分からない顔をした。察しはついているが、何故そんなことをと言いたげな顔が口を開く前にフリットは続ける。

「出来ると言ったのに、やれてなかっただろ。お前の、咥えて」
「してくれるって話は有り難いが。俺がそれだけで終いに出来ないの知ってるよな?」
「あれだけやったのにか」

フェラだけで片付けられないぐらいはフリットも承知だ。だが、彼の語り口のニュアンスから昨夜と同等の密度を求められていることが窺えた。
フリットの疑問に答えるようにウルフは掛け布団を捲った。彼の中心を間近にしたフリットは時間を掛けて決断する。

男の下半身に顔を近づけて、既に勃ち上がっている陰茎の鈴口に触れた。
自分の方が身長はあるはずなのに、身体の作りが一から違うのではないかと感じるほどにウルフの肉体には強靱さが滲んでいる。劣等感はないが、悔しいという気持ちはかつてからずっと自分の中にある。
こればかりは触れても、何度触れても、届かない。

唾液がぴちゃりと音をたて、根本までを包み込まれる感触に早くもウルフの息に熱が混じる。
それと、髭があたるのが嫌だとしていたフリットの気持ちを俄に実感する。だが、嫌だというわけではないし、悪くもないと思う。これがフリット以外ならそう思うことはなかったかもしれないが。

届く位置にフリットの髪があり、触れてウルフは伝える。

「―――う、」

一際脈打った中心から解き放たれる液をフリットは口で受け止めた。残滓も舐めとる勢いでしゃぶりついていると、インターフォンが音を二度鳴らした。
オープンスピーカーから伝言が続く。

『隊長、ミレース艦長からアスノ司令の引き取りを命じられたんですけど』

指示された命令の内容に不明な点があり、納得仕切れていない声色だったが、この声は確かに。

「ア、アセッ、――ッ」

粘膜を喉に詰まらせたフリットの背中を数回撫で、ウルフは「待ってろ」と扉向こうのアセムに大声で伝える。その後で、フリットの耳元で囁いた。

「後で時間作れよ」
「!」

それがどれだけ難しいことかウルフは知っているはずだが。眼差しは異論を認めないと言わんばかりに強く、フリットは何も言い返せなかった。

ウルフはベッドから降りると、フリットに制服を放り、自分も衣服に袖を通した。
扉に向かうウルフの背を見送り、待たせているアセムを彼に任せてしまうことになって肩を落とす。

身なりを整えながらフリットは一つ思い出す。
エミリーに言われたことがあるのだ。自分はウルフにガードが緩いと。模擬戦でそのようなことはなかったはずだが、と前にも思ったことを繰り返し思う。

何故、今になってまたそれを思い出したのか。口の中の苦味ごと飲み込んだ。





























◆後書き◆

騎乗位立位側位詰め込んで、ドライオーガズム空イキところてんと盛り込んでエロ祭り。ワッショイワッショイ。

フリット自身に自覚がはっきりあるわけではありませんが、こっちの時間軸で子供でいた時の記憶は過去のフリットにもぼんやりと夢だったかな程度に。
身体の記憶もあるにはあるけれど、相手が誰か良く分からず、大人になってからウルフさんに襲われて身体の覚えに安堵して何度かベッドインした。
と、色々考えたんですが、必要性があるのか微妙だったので後書きにて供養失礼しました。

ミレースもディケもエミリーも『相手がウルフじゃしょうがない』としているので、フリットに対して半目です。

フリットを構うのは自分からばかりで、フリットの方から構ってこないだろうかというのがウルフさんのやきもきする原因で。 アセムにちょっと嫉妬です。

Rückwirkung=遡及

更新日:2014/06/02








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