フリット♀(39歳)・ウルフ(23歳)・ラーガン(28歳)。

アセムとユノアの父親が不明。

ラーガンとウルフはタメ口。

18歳未満の方は目が潰れます。






























◆Ernsthaft◆










定期偵察の任務を終えて、ジェノアスから降りたラーガンはその足下付近に佇んでいた女性の姿に瞬く。
此方に顔を向けたということは自分に用があるのだろう。ラーガンはヘルメットを脱ぎ、彼女に歩み寄る。

「自分に何かご用でしょうか」

敬礼して尋ねれば、頷き返された後に手を下ろしてくれと仕草で示されて、ラーガンはその通りにする。
彼女とは知らない仲ではないが、立場は明確にしなければならない。ハンガー近くということもあり、自分が受け持っている隊のメンバーや整備班の者達が数多く残っている場だ。

「少し……訊きたいことがある」
「何でしょう?」

言い淀む素振りがあり、ラーガンは話しづらい内容なのだろうと傍らという位置まで近づいておく。彼女の用件は予想が付いている。

「……ウルフのことなんだが」

やはりそうですかと、ラーガンは差し仰ぎたいのを堪える。
先日のあれから、基地内では司令と狼の話で持ちきりだと言っても過言ではない。内容が内容なので、表だって噂されているわけではないが。周囲が弁えていても、フリット本人の耳にまで届いてしまっているのだろう。

「女癖が悪いとかそういうのですか?」

先手を取って訊いてみれば、フリットが言葉を捉えかねたように瞬く。その様子にラーガンはそういうことを気にするタイプではなかったなと遅れて思い出した。

「いや、そのことではない。それに……他人(ひと)のことは言えない、私も」

薄く翳りを落とすフリットに、ラーガンはその時期のことを彼女から聞いたことはない。ただ、噂として聞き及んだものは幾つかある。それら全てを統合すると辻褄が合わない部分が多く、信憑性は疑わしい。けれど、全くの嘘ではないのだ。火のないところに煙は立たない。詰まるところ、そういうことだ。
だからと言って、フリットのことを嫌煙する気持ちはラーガンの中にない。彼女の性格や所感を鑑みれば、どうしてそんなことを……と、思わなくもないのだが、それを払拭するほど真面目なのだ。そんな過去があるならば、屈折したものが見えてくるだろうに、自分から見た彼女は常に真っ直ぐだった。

「では、ウルフのことで訊きたいことと言うのは」
「その、私とは、良くなかったんじゃないかと、思って」

これだけで通じてくれると助かるのだがと、フリットは辟易した様子で隣の門人を窺った。
ラーガンの方は暫し考え込む様子を見せている。

「歳の差を気にしているのでしたら、そこまで思い悩む必要はないと思いますよ」
「それもあるんだが。そのことではなくて、だな」

狼狽するフリットに、ラーガンは気付いてしまう。ウルフがジャケットを女の部屋に忘れてきたと言っていたではないか。あの休憩室の出来事以前に二人の間に何かあったのは必然だろう。

ウルフの手癖の悪さをラーガンは知っていて眉を歪める。それでも咎めてこなかったのは、女性への対応の一つとして認識しているからだ。
彼は非人道的な理由で近づくのではなく、誰かが何かしら抱えている雰囲気を察して気取られず気に掛ける。そこに関しては男女区別無くだが、肉体的な部分が関わるのは女性のみだ。
噂の数よりそういうことに流れるのは意外と多くなかったりするが、殆ど無いとも言い切れない。

それと、戒めなのか判断はしかねるものの、ウルフは同じ女性と二度寝ることはない。
そう考えると、フリットに対してでも例外はあり得ないのかもしれない。それを言うべきかと迷ったが、ウルフの様子も見慣れない部分が垣間見られるのだ。だから。

「アイツは貴女に――」







ラーガンと交代の時間だろうとウルフは格納庫にまで足を運んできて、オレンジ色の頭を直ぐさま発見したが、その横に立つ緑色に一瞬だけ足を止め。再度、進めた。

聞き覚えた靴音に振り返ったフリットはウルフを視界に入れて確認すると身を引く。
逃げるような動作にウルフは眉目を歪め、次いでラーガンに視線を投げる。お前が何か言ったかとその眇が責めてきており、狼の鋭さに最初は呆気に取られるも直ぐに苦笑に変えてラーガンは小首を傾げるに留める。
要領を得ない相方の返事にウルフは一呼吸置いてからフリットに近づく。

「模擬戦の日取りは決まったのか?」

下手なことを切り出されず、フリットは胸をなで下ろす。けれども、ラーガンに言われたことを意識せずにはいられなくて、指先で自分の髪に触れる。

「すまないが、それはまだ……」

司令官の職務の間を縫って時間を作ることはそれ程難しくないのだが、下士官一人に対して司令官自ら手合いをすることに抵抗を覚える人間は多い。

実戦ほどではないが、模擬戦といえどもそれなりの人数の者達に動いてもらわなくてはならない。それらを全て納得させることと。
総司令部の最高責任者という立場であっても。いや、その立場であるからこそ、支持を維持しなければならない。
連邦のエースだとしても、一介の下士官と模擬戦を交えたと聞けば、上層部は司令官という職を遊び半分でやっていると受け取るだろう。他の下士官達はウルフを贔屓していると批難を抱える可能性もある。

一番頼りにしていたディケにも頭から反対されてしまったため、フリットは右往左往の真っ直中だった。

「まぁ、何時でもいいけど」

と間延びするように言ったウルフだが、気になっていることはある。
それを要求したらフリットは困るだろうかと俯き気味の彼女に視線を送れば、何だろうと顔を上げたフリットと目が合う。

「ここにガンダムって収容されてるのか?」
「ああ。別の格納庫にあるが」
「俺でも入れる場所じゃ、ねぇよな」
「それは……少し難しい」

こういう困らせ方をさせたくなくて、珍しく言葉の選びを慎重にやってみたつもりだったが。上手くいかないなと、ウルフは気にしていないことを伝えるために片手を振る。

AGEシステムに関わるものは全て機密事項になっているため、限られた者達で管理している。スパイ工作員などを警戒してのことだが、フリット自身少し警戒しすぎな面があると感じていた。
過去にガンダムを奪取されそうになったことを思い返せば苦くもあるが、それはかつてのことだ。ビッグリング全体の警備管理はフリットも把握しているし、抜かりはないという自負もある。

「ガンダムが見たいのか?」
「映像データでしか目にしたことないからな」

純粋な興味からの言葉だと知れた。
自分が創ったものに興味を持たれるのは嬉しいものだ。自分語りが得意な方ではないフリットにとっては特に。
こそばゆいものを感じて、何かあれば責任は自分が取ろうとフリットは決意出来てしまった。

「今日の任務を全うしたら司令室に来い」

ウルフの返事は待たず、フリットはラーガンに一言挨拶を返してその場を後にしていった。
残されたウルフは脈絡のないフリットからの呼び出しに理解が追いついていなかったが、思い当たった意図は間違いないだろうと期待しておくことにする。

それはさておきと、ウルフは改めてラーガンに視線を寄越した。

「フリットと知り合いだとは聞いてねぇぞ」
「言ってないからな」

しれっと言ってのけたラーガンに一杯食わされたようで、納得のいかない顔をウルフは隠そうともしない。

「二号機のテストパイロットしてたんだ、昔」

へそを曲げた様子のウルフに種明かしでもするようにラーガンが告げれば、愕く気配が間近にある。
ウルフとの付き合いはここ一、二年程度なのだから、彼が知らないのは尤もな話だった。

晴れて軍人となった時のことだ。適性検査だの何だのと色々とテストさせられた後に適任だからと面通しされたのがあのフリットだった。
当時は総司令官という立場にまでなっていたわけではないが、ラーガンからしたら普通の上官どころではなかった。ガチガチに緊張するようなことはなくとも、何故自分がという不相応を感じていた。
簡単に言ってしまえば、ガンダムタイプの量産機計画を進めるためにニュータイプでもなくオールドタイプでもないパイロットが必要だったわけだ。その話を聞いて当初の感想を消すことが出来、納得と了承を伝えた。

その二号機は実戦で大破させてしまったため、計画は現在滞っている。戦場でミスをした自分のせいだとラーガンはフリットに頭を下げたが、彼女はそれを肯定するでも否定するでもなく。ただ、他のやっかみが多いだけだと零した。
機体を大破してしまった実戦で指揮をとっていたのはフリットだった。総隊長として前線に出ながらだというのに、ガンダムの動きは見事としか言い表せない。
そんな中で足を引っ張ったのは自分であるとラーガンは尚も主張したが、彼女は全て抱え込んでしまった。

それからだ。気負いなくフリットと接するようになったのは。特別視するのをやめた。それだけのことだった。

「二号機ってあれだよな?」
「AGE-1 2号機な」

今では都市伝説のような扱いを受けている機体だ。半信半疑な眼差しに事実だと返せば、疑いは消えたらしい。

短く息を吐いたウルフは僅かに時間を置いてから動きだし、ラーガンの横を通り抜けざまに肩をど突いた。おっと、とラーガンは傾いだ身体を踏みとどまらせる。
これで勘弁しといてやると言いたいのだろう。振り返り見るウルフの背中は疎外感を訴えていたが、気持ち的にはフリットとの約束の方が勝っているようだった。







AGEビルダー制御室で一人、作業をしていたディケは突然の来訪者に眉を歪めて身を乗り出して注意しようとした。
IDの確認をしなければセキュリティが関係者以外を此処に入れるはずはないのだが、故障か何かで迷い込んだならさっさと外に出すのが親切だ。
しかし。「おい」と呼びかけた直後に、申し訳なさそうな顔でフリットが傍らまで来たので口を閉じる。

「彼はいいんだ」
「何かあってからじゃ遅いぞ」

うんと頷き返され、ディケは何が何だかという大ぶりな仕草で対応する。

「後はやっておくから、ディケも休んでくれ」

暗に二人きりにさせてくれと言っているフリットにディケはじと目をガンダムを見上げる男の背中に向ける。

「あれ、お前と噂になってる男じゃないよな?」
「ん」

何か言い返そうとして失敗したフリットがわたわたとし始め、ディケは頬を掻く。彼女との付き合いは長いが、こういった一面は見たことがなかった。
遅咲きの春か、と感慨深くなる。この間、模擬戦をしたいなどと持ち掛けてきたのもあの男が関係していると見ていいだろう。白い狼のことは軍内部でもそこそこ有名であるため、ディケも噂程度は知っている。
私情を挟みすぎるのは危険だということはフリットも理解していることだ。彼女自身、男との間で慣れないことが多くて戸惑っていると見受けられた。それでも、見誤るような奴じゃないという信頼は持っている。

深く息を吐いて頭のバンダナを取ったディケはその布をひらひらと振りながら格納庫を後にした。
納得はしてもらえてないなとフリットはディケの背中を見送り、傍らにまで来ていたウルフを振り返る。

「さっきのは?」
「昔馴染みだ。学校もずっと一緒だった」
「腐れ縁ってやつか」
「そういうことになる」

ディケが去っていった方角から視線を外そうとしないウルフに違うかもしれないがと、フリットはガンダムの方に歩を進めながら言う。

「彼は愛妻家で有名だ。あと、金髪が好きだから」

そこに関してウルフからの返答や相槌は何もなかったが、此方の横に並んでガンダムを見上げ始めたのだから気は逸れたらしい。
装備やOSシステムなどの質問にフリットは言葉を詰まらせることなく丁寧に説明していく。一通り訊き終えたウルフはあまり間を置かずに言った。

「白くて格好良いな」

感嘆するように響いてきた言葉に、フリットはウルフの横顔を見る。機嫌を取ろうだとかの意図が無いそれにフリットは小さく頷く。
今の自分の中では疎遠になっていたものだ。

かつては、誰もが憧れを抱くような、それを目指してガンダムを創ろうと決意した。救った人達から感謝をもらい、幼い子達はガンダムに輝く目を向けてくれていた。
それらに応えたかった。

はずなのにな、とフリットは苦みだけを残そうとした。けれど、上手くいかなかった。
じんわりと温めてくるそれに励まされているようで、何とも言葉にしにくい。
ウルフの言葉一つに感情を制御しきれない。自分はこんな人間だっただろうかとフリットは彼から視線を落とす。
じっとしていれば、影が降りてきた。

「フリット?」

覗き込んできたウルフの顔が、鼻先が触れ合いそうなほど間近に迫ったまま声を掛けられ、フリットは愕いて顎を引きながら平常心を貼り付けて問う。

「どうした」
「いや。急に黙り込んだから、気に障ったかと思ったんだが」

違うようだなとウルフは覗き込むのをやめた。

「何でもない。少し考え事をしていただけだ」

胸の鼓動が煩いが、フリットは屹然な表情で返した。杞憂であったと先に気付いてくれたが、心配を抱いた相手に平気だと自分から伝えるべきだろうと思ったまでだ。

「そうか。じゃ、戻るか」

え。と、フリットは顔を上げて踵を返そうとしたウルフの袖を摘んだ。
案の定、立ち止まらされたウルフはフリットを振り返るが、自身の行動の意味と収拾がつかずフリットは視線を横に流す。

自分が此処に居続けるのは他者から見て懸念を抱くものだと、フリットの昔馴染みの様子からも窺えた。だから、引き留めるフリットの行動の意図を探ろうとしたが答えが分からず、ウルフは首を傾げる。
煩わせるつもりはなく、ウルフは逆に引っ張り連れて行くようにすれば、フリットは突然の引力に踏鞴を踏む。太い配線が所狭しと足下にあったのもいけない。

つま先が配線によって掬われ、バランスを崩したフリットは受け身を取るよりも先に支えられてしまった。鈍く派手な音がその場で起こる。

「痛ってぇ」
「す、すまないッ」

床に背をべたつかせた姿勢のウルフは自身の頭部をさする。その上に腹ばいに乗ってしまっていたフリットは身を剥がそうとする。けれど、二人の間の隙間は直ぐさま埋められた。
ウルフがフリットをそのままの体勢で抱き寄せたからだ。

自分の胸板にフリットの胸の膨らみが押しつけられる感触にウルフは満たされるが、足りないと此方の上から退きたがっているフリットを見上げる。
はたっと視線がかち合ったことにフリットは身動きを止める。一度瞬いて視線を逸らし、時間を置いてから、また瞬いてウルフに焦点を合わせた。

「先貸ししてくれると有り難いんだが」

此方の髪に手を差し入れて撫でながら言う男にフリットは眉目を詰めるが、なだらかな表情に戻ると自らの意思で下のウルフに顔を寄せた。
ん、と軽く舌を絡め合わせて身を引いたフリットはまた表情を変えて告げる。

「利害が一致しているなら、貸し借りなしで構わない」

表情と同じように少し拗ねた口調のそれに、ウルフは奪うようにフリットを引き寄せる。
深く交わり合う互いの唇は濡れそぼって呼吸が難しくなってきても、フリットは髪後ろのウルフの手に頭を固定されたままで離れられず。その強さに自身も離れがたいという気持ちを強くする。

最初の勢いだけはどうにか落ち着きながらも、重なりは解かずにいた。こういう感じは初めてだと、フリットは瞼を閉じてそれらを余すことなく感じ取ろうとしていた。
そこへ、頭や背中ではなく別の場所を撫でさすられる感触にフリットはびくりと瞼を持ち上げて身体を竦める。

身を固くしたフリットの反応にウルフはそれもそうかと自業自得を認めて、彼女の尻の丸みを撫でていた手を引き戻した。

「悪ぃ」
「………いい」

微かに呟き落とされた声にウルフは瞬く。聞き間違いだと思いたくないが、尋ね返すことが出来ないのは自分がフリットを一度は傷つけたからだ。
微動だにしないウルフの様子にフリットは自信が無くなってきた。けれど、ラーガンの一言を思い出す。

――アイツは貴女に本気ですよ――

自惚れているだろうかと、フリットは自分に疑問する。

「いい。続けろ」

ウルフの肩口に頬を押しつけ、彼の顔を見ずにフリットは請う。

空中を見たままウルフは耳に届いた言葉に目を瞠る。次いでフリットに視線を落とすが、この角度では表情を確かめられない。だが、流石にもう聞き間違いでは済まない。

良いのか?と自問すれば、良くはないと自答出来る。比較的理性は保っている自身を客観的に捉えつつも、此方にしがみつくように身を動かしたフリットの、服越しとはいえ胸や太腿の感触に何も思わないわけではなかった。

尻と腿の付け根に触れてくる手があり、フリットは安堵を感じつつも身を固くした。大丈夫だと自分に言い聞かせ、力が抜け始めた頃、此方を撫でていた手が離れていることに気付く。
疑問にウルフに視線を向ければ、彼は眉を歪めて苦い顔をしていた。

まだ、フリットの身体にあの時のことが拒否として残っている。そう感じ取れたウルフは彼女の好意を拒む。

「これ以上は駄目だろ」

そう言って顔を横に向けたウルフに、フリットは不安の次に憤りを感じた。最初は無理強いをしてきたくせに。さっきも先に身体を撫でてきたのはウルフだ。それなのに。

「お前が私を女にしたんだろ。なら、その気にさせてやる」

あの時の言葉を覚えていたフリットの記憶力に舌を巻くが、自身の腹の上に乗ったまま衣服を脱ぎ始めたフリットにウルフは信じられない気持ちを抱く。
こんなに意地っ張りな性格をしていると認識していなかったからだ。いや、その兆しは感じていたというのが正しいか。それでも、自分に対してここまで行動に出ようとするなんてことは驚愕に値する。
さっさとフリットを自分の上から退かさなくてはならないのだが、此処から眺めるストリップに狼は唾を飲み込む。

下着のみになったフリットは柄にもなく緊張しているらしいと自身の胸に手を当てる。鼓動が速い。この歳になって何をしているんだろうなと、羞恥がじわじわと全身を熱くする。
それでも、後戻りは出来ない。自らが口にしたことに責任を持たないなど、フリットには出来ないことだからだ。

ウルフがその気になるかは自分次第なのだ。期待も何もかも自意識過剰だ。
胸に置いていた手をウルフの頬に伸ばす。それだけの気概がなければどうにも出来ない。そういう男だと思う。
欲しいという独占的なものを感じはしないが、寄り添ってみたいという要求が内にある。今まで欲しがることはしてこなかった。無償に与えられるものなど、あの日を境に消え失せたから。
だから、この判然としない感情の輪郭を確かめるようにウルフの頬を撫で、指の腹で男の唇に触れる。

切なげな視線が近づいてくるより先に、ウルフは自らの意思で身体を動かした。背を起こすと、フリットの胸の谷間に頬を寄せて彼女の背に腕をまわして抱きこむ。
此方の肩に手を置くフリットは主導権を取られて戸惑っている様子だった。ウルフはフリットの素肌の香りを吸い込んでから、胸から顔を外して向き合う。

眼を細めた狼にフリットは顎を引いた。
すかさず、唇を奪われる。全て掻っ攫っていこうとする荒々しさに翻弄されて、フリットは目をぎゅっと閉じるしかない。
時折声が何度も漏れるほどで、一区切りがついた頃には互いに息も絶え絶えだ。より乱しているのはフリットで、ウルフの肩にもたれ掛かる。

「宣言しておいて、バテるの早いな」
「―――バテて、いるわけじゃ、ない」

背筋を伸ばしながらも、気怠そうに言い返してきたフリットの眇に意地を張る姿勢を見止めて、ウルフは口元に笑みを湛える。
こういうところがいじらしいと感じて可愛く思う。自分の頭が湧いていると思わなくもないが、存外、彼女の性格よりも甘い下着に視線を寄越す。

歳不相応にではなく、比較的大人しい白いレースが縁取るそれは薄紅色を基礎色としている。彼女のリボンに合わせているのだろうが、本人が選んだというよりは、店員などの距離のある相手が外見で取り揃えたような感じだ。ビンゴでなくとも、近からず遠からずだろう。最初に目にした下着もそんな感じだった。
それでも趣味は悪くない。むしろ、小さなアンバランス感がウルフとしては好ましい。派手なのはさっさと剥ぎ取ってしまいたくなるが、こういうのは脱がすのが惜しくなる。
ただ、着崩させるのは惜しくない。

肩紐を片方ずり下ろせば、先端の色づきが片方顕わになるほど乱れる。素肌の乳房に口付けを落としてから改めてフリットを見遣れば、彼女は眉を困らせて頬に朱を差し込んでいた。

狼狽したままフリットはウルフの次の出方に身構えていたが、一向に彼は行動を起こさない。何故だかは、分かる。その気にさせると自分が口にしたからだ。
此方からモーションを掛ければ、その都度のその気をウルフは返してくれる……のだろう。完全にその気にさせるまで誘えと、そう受け取ったフリットはウルフの下の方へ身体の位置を下げる。

積極的にやるのは痴女のようで目のやり場に困りながら、それでも男の股間を掌で擦り始める。触れれば触れるほど、硬くなっていく感触に胸の鼓動が速くなったような気がした。
逸らしていた視線を中心にそわりと落とせば、視覚が得たものに喉が上下する。これでは本当に痴女ではないかと自らを叱責するが、手は止まるどころかズボンのベルトに手を掛け、前を寛げて男根を外気に晒すように下着から剥く。眼前にそそり立つそれの大きさに一瞬目を丸くする。

ここまで顔間近にするのは久方ぶりだからと納得させてから、フリットは頬にかかる髪を耳に掛けるように片側を押さえたまま口を縦に開く。
ウルフのものを口に含むのは初めてだなと、口内を満たす温かさを更に喉奥に迎えようとしたところで此方の頬に触れる手があり、フリットは身動きを止めた。
彼の顔を見ないように努めていたのだが、これでは意識せずにいられない。

下のを口に含んだまま、上目遣いで此方を恐る恐る見上げてきた彼女に心臓が煩くなり、興奮していることをウルフは自覚する。
正直、奉仕はしたがらないタイプだと思い込んでいた。想像以上の光景に疼く。今すぐにでも勢いでフリットを押し倒したい衝動に駆られる。けれど。
視線を外したフリットが奉仕に集中を始め、唾液でそれをベタベタにしているのが何とも卑猥で目が離せない。

陰茎を余すことなく濡らすと、次の目的は付け根にほど近い陰嚢で。袋状のそれを片方ずつ、上と下の唇で甘挟む。その後で頬張り濡らしていく。
濡らせば濡らすほどウルフの熱い吐息が届き、フリットは自身の腿を擦り合わせる。あそこがきゅうきゅうして、ショーツの中が濡れている感覚があった。それも、ほんの少しどころではないような気がしてならず、おかしくなっていると認めるしかない。
要求があればやってきたことだ。だが、自らの気持ちで進んでやるようなことは、今までにない。

これが何なのか、未だに理解出来ていない。けれど、こうしたいああしたいと先行するものが自らの内にあることだけは明瞭だった。
そのせいで不安にもなっている。ウルフがあれ以来、手を出してこなかった。今日になってやっと口付けを交わすことが出来た。そこでふと、フリットは引っかかりを覚える。

あの時、ジャケットを返して言葉を重ねて色々あってから唇も……。彼は、前倒しでと直前に言った。先程もあの時と同様に、口付けを先貸しでと言っていた。
雰囲気から此方の身体を含みのある動きで触れながらも、やめてしまったのは。それに見合う交換条件や手札がないからではないのか。引き替えに性交渉ばかりしていたフリットはそのように考え、彼のものから唇を引く。

動きを止め、肩を下げて小さくなったフリットから匂いの変化を感じ取ったウルフは彼女の腕を掴んで自分の胸に引き寄せた。
突然のことにフリットは沈んでいた思考以上に愕いて、彼の胸板から顔を上げる。すれば、責め立てるような眇があり、息を呑む。
頤を掴まれ逃げられない。

「その気にさせるってのは嘘か」
「違う。そうでは、ない」

顔を逸らすことは出来ないため、視線を横に流してフリットは後ろめたさから逃れようとする。けれど、向こうの視線の強さは増すばかりで、逃げ切れない。

ただ、同じにしたくなかった。違うと確信して疑いすら抱いていなかったから。だから、重なり合ってみたかった。最初の、あのような形でなく。けれど、これでは変わっていないどころか、過去の継続だ。
この男との間に駆け引きは持ち込みたくない。持ち出されたくもない。

否定はしたが、それ以上言葉を続けないフリットにウルフは小さな苛立ちを覚える。一度捌け口に迷いは生じたが、勘違いをしている女に情けは無用だ。
此方の顔を固定していた手が離れ、フリットは首の自由が戻ってきたことに一息吐こうとする。けれど、それは叶わずに息を詰めることになった。

「―――ッ、ぁ」

人の急所である喉に歯を立てられてフリットは生死の震えを持つ。しかし、動かずに噛まれた。痛みを感じても信用はまだ抱いている。
喉に歯を立てても逃げなかった彼女の態度にウルフは苛立ちを少しだけ静めて、思案を一つ持ちながらフリットの表情を窺う。

見られていることに気付いたフリットは怯んだ様子でウルフの肩を押し返して距離を取ろうとする。けれど、彼の手に背を押されるようにして引き戻されてしまう。
互いの額がくっつく距離でフリットの耳に狼の声が低く響く。

「なにを勘違いしてやがる」
「かん、ちがい?」

そんなことはないはずだ。だから、フリットはゆるゆると首を横に振った。しかし、狼の気には召さなかった。

「俺はお前と交渉してるわけじゃねぇぞ」

何かを引き替えに得るなんて糞くらえ。欲しいなら獲れ。それ以上ない最高を。
だが、間違いを犯した。生ぬるい赦しでは自分を納得させられず、フリットに触れようとしては躊躇を繰り返し続けた。
それが誤解を生んで勘違いさせた。それも分かっている。けれど、伝わっていないことにむしゃくしゃする。フリットからしたら餓鬼の癇癪にしか見えないのかもしれないが。

「お前が、俺を、犯さなけりゃ相子にならん」

表情をすぼめ、視線を横に投げたウルフにフリットは面食らう。
相子というのは引き分けか勝ち負け無しにという意味だが、ウルフとしてはこの間の無理矢理の件をどうにかしたかったのだと気付く。そして、律儀すぎることにフリットは頬を緩めた。
褐色の頬を両手で包み、フリットはウルフと視線を合わせる。

「私の好きにしていいんだな」

なんだ、そうだったのか。きつく絡んで固まっていたものが解けていくのを感じる。
雁字搦めに自分の思考を基準にしすぎていたことを認め、ウルフの意思を汲み取ろうとフリットは唇を寄せた。
深いものを求めていたが、思い違いをしていた気恥ずかしさがあり、軽い触れ合いだけにする。勝手に身動きをとっても咎めの視線などはなかった。彼の肩を押し、倒し、覆い被さる。

フリットはウルフのジャケットとインナーに手を掛ける。男の上半身をはだけさせ、鎖骨の窪みを舌で這う。そのまま胸板へ下へ下へと唾液をぬりつける。が、この後はどうしようとフリットの動きが鈍り、停止した。
かつてのことであっても、組み敷かれるばかりで、組み敷いた経験がないと今更気付いたからだ。女側から襲うというのは、どうすれば正しいのか。

「お前はどうして欲しいんだ……いや、違うんだったな、これでは」

えっと、と首を傾げるフリットにウルフは天井を仰いだ。何だか肩透かしをくらった気分だが、何も言わずにいると暫くほったらかしにされるのだけは理解した。

「……パイズリしたことねぇとか言わないよな」
「そうか」

解決策に頷いてフリットはフェラをした時と同じ位置にしゃがみ込む。着崩れている下着を上下とも取り去り、勃ち上がって逞しくなっているウルフのそれをフリットは素肌で挟み込んだ。
谷間を寄せて包むようにし、上下に扱(しご)く。視線を強く感じてフリットの熱が上がり、汗で滑りが良くなるも、まだ足りないのではないかと強い眼差しの方に自らの視線を差し向ける。

「少し、手伝ってくれないか」

返答の動作をウルフが寄越してくる前にフリットは先に行動に出る。背を起こしたウルフに跨がり、フリットは後ろ手に彼の勃ち上がったものを掌と指で愛撫する。と、意図を察したウルフは眼前の膨らみを引き寄せた。

乳房の丸みをウルフの舌が行き来しては時折、色づきを唇が食む。
舐めてもらうだけで良かったんだがと声に出さず吐息を零し、身を引いたフリットはウルフの股の間に移動しようとした。けれど、エスコートされるようにウルフに手を取られる。

「無理じゃなきゃ尻、こっち向けてくれ」
「ん」

自分からその提案はしにくかったので、フリットは素直に聞き入れた。
下に仰向けになったウルフにフリットは逆向きで覆い被さる。二つ巴の体位で互いの性器を舐め合う。のだが、指を三本奥までいきなり差し込まれてフリットの口から艶が零れる。

指を入れてみても濡れ具合が圧倒的でウルフは眼を細める。確信をより確かにするために口で言ってみようとしたが、喉で止める。気付かれてしまったとフリット自身のうち震えから伝わってきたからだ。

彼女への愛撫はまだ足りていない。つまり、フリットが此方への奉仕だけで興奮していたことになる。堪らない。と、ウルフはなかを弄っていた指を抜いた代わりに顔を近づけてしゃぶりついた。

舐められたり吸われたりと湿った音がわざと聞こえ、フリットは首に熱を溜める。まだ彼をその気にさせきるまでには不足があると自覚しているが、向こうも焦れがあるのだ。手の中の昂ぶりは我慢しているように先端から汁が垂れている。
それに舌を這わせ、胸も使って刺激を与えようとする。思い切り匂いを吸い込まれたりと、自身の下半身に意識が飛びがちで口での愛撫が疎かにもなるが、何度でも口を寄せた。

一層硬く脈打ったのが分かり、フリットは口奥まで陰茎を誘い込む。ウルフからの声には耳を貸さず、フリットはどくどくと流れ込んできた白濁を喉に流した。
飲み込み、ねとねとと濃い味が舌に残るままにフリットは萎えきっていないウルフの中心に指を這わせる。

自分の好きにして良いのだという高揚が胸を占める。けれど、持て余してもいる。
その答えを得るためにフリットはウルフを振り返り、決意を表すように口元をきゅっと結んだ。腰を落としてペニスを受け入れる。

充分すぎるほどに濡れていたために、ずちゅと卑猥な音が耳を刺激した。
とろとろになった中に包まれ、ウルフは熱い息を吐き出す。フリットは徐々に腰を上下させているが、その動きは緩慢だ。快感に臆病になっているわけではなく、感じすぎているように見受けられた。
乱れた呼吸を繰り返す口元は震え、潤んだ瞳からは今にも雫が零れそうになっている。

「その程度で、俺のこと喰ってるつもりか?」
「―――!」

動きを止めるようなことはなかった。だが、反応はあった。
わなわなと身震いしそうになるのをフリットは肩に力を入れることで抑え、むっとした表情をウルフに向ける。
気に留めない可能性が高いだろうと思いながら口をついた発言だった。予想に反した悔しそうな反応に少し目を瞠る。

それからの変化は灼然(いやちこ)なるものだった。深く飲み込んだり引き抜いたりと上下の動きが断然に速まっていく。乱れた呼吸の中に時折嬌声が混じり始め、ウルフの息もあがる。

男にしてやるとまではいかないが、自分が感じさせているんだと挑発に対する躍起と相まって熱に浮かされた意識でフリットは思う。恥ずかしくて抵抗はあるが、もっとと体勢を変えてしまう。
両手を後ろにつき、仰け反る姿勢を支える。それに伴って膝を上に向けることになり、開脚でウルフに繋がっている場所がよく見えるようになっていた。

晒してしまっている部分が落ち着かない。自分がしでかしているのだが、それだからこそ余計に。
焦燥感に翻弄されながらフリットは腰を激しく揺らす。身の内にあるいくつもの情調が複雑に絡み合ってしまい、自分ではもうどうしようもなくなっていた。

接合部がぬちぬちと濡れた音をさせて泡立っているのを目の当たりにして、狼は自身の獰猛さを飲み下す。
以前と同じように相手の自由を奪うようなやり方は駄目だ。けれど、我を忘れてしまうすれすれの状態であるフリットの痴態に興奮しきっている。呼吸が荒くなるのを耳で捉えれば捉えるほど獣化していく。特に顕著に表れているのが硬度を増している中心だった。

体勢のせいもあるだろうが、激しいけれど勢いが足りていない。痒いところに手が届かないもどかしさに誘われているようだ。けれど、フリットから余裕は感じないため、錯覚でしかない。

「ァ、ァ――ゃ………ん?」

一心不乱に求めていたフリットは足が浮いた感覚に意識を向けた。ウルフが此方の足を押し上げたのだと理解する頃にはフリットは背中に床の冷たさを感じていた。
グラインドするように奥を突かれて背の冷えを気にしているところではなくなり、フリットはウルフの首後ろに手を伸ばす。

しがみつかれるままにウルフはフリットと唇を重ねた。密着している肌同士が熱い。
堪えきれなかったことに自身の躾のなっていなさを理性の裏で痛感しながらも、本能のまま猛然に食むことを繰り返す。
既に限界に近かったフリットは唇を互いに奪い合ったままオーガズムを強く感じた。

「ンンッ―――!」

呼吸を求めるより先にウルフは解放してくれていた。次いで、下の方が引き抜かれて絶頂感を刺激してフリットは足を閉じようとする。けれど、ウルフの腰を求めるようなことになっていた。
欲深く見えていないだろうかと恥じ入り、自身の足をどうしようかと目先を向けて一つ気付く。ウルフが絶頂を迎えていない。
自らの中に言葉を選べていないままだが、ウルフと視線を合わせる。

「やっとその気になったか?」

口を開けば勝手にそう言っていた。言い切った後でもう少し調子を強くしたかったと思うが、気怠くなってしまったのは仕様がない。
そこまで考えて、遅れて口走った内容を自覚したフリットは頬に熱を持って顔ごと視線を横に逸らした。その気にさせてやると最初から宣言していたのだから今更ではあるけれど。

「言ってくれるな」

自嘲に近い声音が届き、フリットはほんの一瞬息を止める。言葉としては挑発にも聞こえるが、ニュアンスとしては降参の意思があった。

眉尻を下げた視線が向けられたことにウルフは意外を持たない。フリットの感情の浮き沈みを追いかけられていることに機嫌を良くする。
匂いで感じ取るのにはやはり限界があるものだ。どうした時にこういう反応が来ると分かりつつあるのは、今日までに色んな表情を見てきたからだ。そして、まだ見ていないものを見たい。

「そんな顔するってことは、可愛くねだってくれるのか?」

そんな顔とはどんな顔だろうかと、フリットは輪郭と頬を確かめるように自らの掌で触れる。しかし、触ったところでよくは分からない。

その気になったかをウルフは否定していない。ならば、彼の言うように強請ってもいいと思った。
体勢を変えるためにウルフの真下から少し身を引き出して、四つん這いになる。ただ、頭は床に限りなく近づけ、尻と腰を高く突きだした格好だ。

「ウルフ、中尉………いれて、ください」

左頬を下にして後ろのウルフを窺いながら請う。可愛くと言う指示は年齢的にどうしようも出来ない。強請り方は分からなくもないので知っている範囲でやってみたが、茹だりそうなくらい恥ずかしいと後々思い知った。
かつては、やらなければいけない。ただただ、義務的に従いこなしていたのだが。

「すげぇな」

まさか敬語を使ってくるとは思わず面食らってしまった。何故そんな言葉遣いを選んだのか想像付かないわけでもなかったが、それ以上にくるものがあった。下剋上の趣味はないものの、こういうのも悪くないと思ってしまうほどに。

「ン!……ゥ、ん?」

突き上げた陰部に入ってくるものがあったが、思っていたのと違う。再び後ろの方を窺いながらフリットは困惑を含んだ視線を送る。

「それ、違……ッ」
「地ベタに伏せたまま本番したら痛いだろ」

此方からはフリットの背がよく見える。硬い床で正常位でやってしまったから少し赤い。フリットの方は無頓着のようだが、折角同意の上なのだから気持ちの良いやり方でしたい。
指三本でなかの滑りを外に掻き出すように抜き差ししているが、入れているのだから強請りから反してはいない。

「――ャ、もっと……大き、いの」

ウルフの動きが止まった。
参った。片手で顔を半分覆って、内側で言葉にする。
息が上がって思考に熱を持っているのだとしても、そんなことまで言い出すのは反則どころではない。
やばいと口元が緩むのを隠しきれなかった。ウルフは腰を上げると、フリットの腰を自分の手で持ち上げる。

自分の足の裏が地面について自立させられたことにフリットは疑問を持つ。ウルフは多分、ああいうスタイルの性交体位が好みだと思ったのだ。それに、そこまで此方の身体の身を案じなくとも良い。けれど。身を任せることに抵抗はなかった。

「あんまり足に力入らないならきついかもしれんが、いいよな」
「平気、ァ……!」

返事をしきる前に、指とは比べものにならない質量と熱を持ったのがなかにぐぬりと挿(はい)ってきた。
脇を通って此方の肩と腰を掴んだ男の腕に身体を支えられているので、突き上げられる度に足が浮きそうになったりしてもバランスは保たれている。

逞しさのある腕に年下であることを忘れそうになる。けれど、確かに自分は自ら望んでこの男を求めたのだ。以前なら年下相手になどと考えていただろうに。
揺さぶられながら思う。この男が本気なら、自分は駄目になっていきそうだと。それが怖いはずなのに、知ってみたいと手を伸ばす。

不意をつくタイミングで熱を持ったフリットの手指がウルフの右頬に触れてきた。確かめるように。だから、不確かを埋め尽くすように上から此方の掌を重ねて、覆いながら押しつけてやる。
ウルフの頬と右手の間に自分の右手を挟まれた瞬間、鼓動がきゅっとした。これは一体何なのかとフリットは追いかけようとしたが、その思考は指を舐められる感触に奪われてしまう。

頬に触れてきていたフリットの右手をウルフは捕らえる。そして、おもむろに自分の口元に引き寄せて舌を這わせた。此方を振り返ることを迷っているフリットに視線を落とせば、深緑の睫毛が震えているのが見える。
前のとは違う。嫌がりの震えでないことにウルフは高揚を身の内で膨らませた。
ずっと、目で追いかけるばかりで。気になってはいても、自身で気紛れとそう認識もしていた。つい、牙を向けてしまった後は何もかも終わったし、終わらせたつもりだった。

だが、あんな近づかれ方をされてしまったのだ。フリットに。
自分のものにしてしまいたい。その欲求を、獲物を目の前にしながら沈ませることを強要してきたのに。
彼女は厭わずに狼の腕の中にいる。

舐めて濡れた彼女の手を掴んだまま、それを下にさげていく。
自分の指が自らの股の間に導かれていることに気付いたフリットが手を引き戻そうとする。けれど、ウルフはそれを赦さず、自分の手を上に重ねたままフリットの恥丘(ちきゅう)を淡く揉む。

自分で触れていることに羞恥がある。けれど、刺激が増えることに興奮も強くなる。
ウルフの手が離れても、自分の指は陰核から離れない。彼に舐められた指だ。その事実を思えば思うほど恥ずかしいのに、弄り続けるのをやめられない。

揺さぶりながら彼女の胸の先端を摘めば、高めの嬌声と共になかの陰茎が締め付けられる。もっと的確なものを求めてウルフはフリットの鎖骨近くに歯を立てた。喉を噛んだときよりも強く。
痛みを快感と錯覚するほどになっていたフリットはウルフをより締め付ける。

息を詰めたウルフが身を引いた。フリットもウルフも達しきれていない。ウルフに至っては寸前を自らの手で押さえているのだ。

「フリット、口――」

床にへたれこむようにゆっくり腰を落としていたフリットは、口を開いてウルフの張り詰めた中心を迎え入れる。
口の中に欲望を流し込まれながら、フリットは自分の陰核を指で擦り続けていた。ウルフがなかで動いていた感覚を身体に思い出させながら。そして、自分も絶頂感を得ながら、ウルフの絶頂を感じて飲み込む。

荒い獣息を吐きながら、ウルフはフリットを見下ろす。ぶちまけきったことでもう用はないはずなのに、まだ口にくわえたまましゃぶりついている。
彼女もまた絶頂直後で、股を自分の手で押さえている仕草一つ一つが淫靡(いんび)で、熱がぶり返すようだった。実際、自身の中心はフリットの口の中で熱と芯を持ち始めていた。







AGEビルダー制御室がある方角からウルフが歩み寄ってくるのを、フリットは目を覚ましたばかりの眼(まなこ)で捉える。
彼はすっかり身なりを整えているが、自分は上下の下着をつけていてもコート型のジャケットを肩に掛けているだけだ。

「すまない。寝ていたか……」
「十分も寝てねぇよ」

フリットの横に腰を下ろしたウルフは彼女の肩を抱き寄せた。引き寄せられて右半身にウルフの体温を感じながら、フリットは呟く。

「次からは……普通に、してくれるのか?」

何を指しているのか分からなくないが、フリットからそういう内容を提示してくるとは想像すらしていなかったウルフは彼女に目を向ける。それに怯むように頤を引いたフリットだったが、視線も眉も強かった。それでも、口元は苦いものを噛んでいるようで、不安がっている。そんな表情は目で追いかけている時は一度たりとも見たことがなかった。
自分が安心させてやれるのかどうかは分からない。見合えるかも今後次第ならば、心強さくらい勝ち取りたい。

フリットは降りてくるウルフの唇を受け入れた。それを返事として。





























◆後書き◆

普通にと言っているのにおトイレとかあれなところでプレイすることになりますが(汗)
逸脱していなければ大概のことは「普通」の範囲になるのかなと。その範囲の大きさは個人差に寄りけりでもあるとも思ったりだったり。普通は固定系にすると難しいですが、範囲系にすると曖昧になって楽ちんです。
フリットは普通の範囲があまり定まっていないんじゃないかと思いまして。それでちょっと抜けてるところがあったりすると可愛いなと。
ウルフさんはここでガンダムのデータ取ってしまって、Seine Liebeに続く形となります。

Ernsthaft=本気

更新日:2014/04/26








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