◆Vergessenheit◆









ハロに配線を繋ぎ終えたフリットは作業をそのまま続行しようとしたが、あることを思い出して時刻を確認する。すれば、食事時の時間であった。
またエミリーに小言を言われてしまうと、フリットはハロをそのままに自室を後にした。

食堂に向かう道すがら、黒髪を短髪に刈り上げた清々しい印象を受ける男と出会してフリットは道を共にする。
隣を歩く男はアスノ隊に所属するパイロットだ。つまり、フリットの部下になるのだが、歳は彼の方が上であった。軍属の期間はフリットの方が明らかに長く、実年齢よりも経験を優先しているのか、黒髪の男、ラウリは含むものを持たずにフリットの横顔を窺う。

「どうかしたか?」
「前から訊いてみたかったことがあるんですが」

視線に気付いたフリットが促すように問い掛ければ、ラウリは言い淀むことなく続ける。

「ウルフ・エニアクルはどんな人なんです?」
「ウルフさん?」

さん付けなのかとラウリが一拍ほど虚を突かれた顔をしたことに、フリットは少しばかり言葉を濁す。

「いや、その……ウルフがどんな人物なのか。それが聞きたいのか?」
「ええ。隊長が以前の所属先で彼の僚機を務めていたと聞けば気になります。二筋の流星は連邦の英雄ですから」

そういうことかと納得を得て、何処から話そうかと「そうだな」と頭の中で言葉にして、出だしに悩むフリットにラウリは切っ掛けになるような促しを入れる。

「狼一機で無双が出来るほどの腕を持っているという噂も聞きました」

流石にそれは盛りすぎな話説だとフリットは苦笑を混ぜて肩をすくめる。
特攻はウルフの得意とするところであるが、それは後衛がいるからこそ彼もそのような戦い方が出来る。確かにウルフの操縦技術の速度は飛び抜けており、彼がいるかいないかだけで戦況は大きく変わることが多かったことも事実ではあったけれど。

「少し変な人だとは思うが、強い人ではあったよ」
「変とは?」
「すまない、語弊があるな。クセがあった、と言った方が近いかもしれない。私が彼の僚機を担うことになった時も強引だったんだ」

まるで子供の我が儘でも聞いてあげたかのように心持ち胸を張っているようなフリットの様子にラウリは意外を感じる。自分の力を鼻に掛ける人ではなかったからというのもあるし、本人は気付いているか分からないが背伸びをしているような話しぶりだからだ。

幾つかある白い狼の噂話の検証をしてみたいと思っていただけだったが、ついこの間自分達の隊長になったばかりのフリットにも興味が湧き、ラウリはフリットがウルフの僚機を務めることになった経緯について尋ねた。

そして、過去に遡る。












転属完了の手続きを済ませたフリットはガンダムが搬送された格納庫にまず足を運びたかったが、以前から軍属という身の上だったとしても成人を迎えて正式に軍人となったのだから無闇に勝手な行動は控えるべきだと冷静に言い聞かせる。

軍には軍の教訓があることは叩き込まれてきた。数年前は自分がそうしたいと思ったことを優先して行動に移していたが、今は少し改めているなとフリットは振り返りつつ現状と比べてみる。子供だったのだと思う。
けれど、何か置いてきてはならないものを置いてきたような。そんな喪失感にフリットは気付かないふりをしていた。

モビルスーツパイロットの待機室として用意されている一室は作戦が無い限りはミーティングを行うこともないため、雑談室としても機能している。

この基地には幾つかのモビルスーツ部隊が存在するが、自分はその中の何処に配属されるかは検討中だ。自分の戦闘データは事前に司令に渡してあったため、スラッグ隊かロビン隊が適切だろうとは返答を貰っている。
隊ごとにモビルスーツの点検と整備をするが、ローテーションの関係上、スラッグとロビンの隊員達は格納庫よりも待機室にいる可能性が高いだろうとフリットは此方に出向いたのだ。

待機室に足を踏み入れたフリットに先客達は仲間と言葉を交わし合っている途中であったが、視線をそちらに向ける。新顔が来ることは聞き入れていたのだろう。誰からも驚いた様子は見られない。
けれど、奇異な視線は幾ばくか含まれていた。それもそうだろうとフリットは気にした様子を見せず、この基地に配属された旨を述べ、敬礼をとる。
その姿にロビンがその場を代表するように敬礼し、一歩前に出た。

「君のことは聞いているよ、フリット・アスノ。これから宜しく頼む」
「こちらこそ」

緊張をする柄ではないが、比較的好意的な応対にフリットは胸をなで下ろすように頷き返した。
全員、とまではいかなかったが、スラッグとロビンという隊長枠を始め、それぞれの副隊長と他数人ずつの構成隊員と別部隊の者も何人かと顔合わせをすることが出来た。

フリットが吐息をする程度の間を置いてから、どちらの部隊に組み込まれるかを相談しようと口を開こうとしたが、それを遮るように待機室の扉が開く音がして聞き知った声が続く。

「ロビン、整備班が痺れ切らしてるぞ」

覚えている頃のものより少し低くなっただろうかとフリットが振り返るよりも先に肩に重みがくる。そして頭を鷲掴むように手荒にぐしゃぐしゃと撫でられた。
声を掛けられたロビンも、その場にいる者が皆一様に呆気にとられた顔で中心の二人に目を剥く。

パイロットとしての腕が他よりも頭一つ分以上高いために自らの部隊は持たず、全部隊の部隊長としての立場にある白い軍服に袖を通している男はウルフ・エニアクルだ。
先述の彼の腕前について嘘はないが、暗黙の了解としての建前が濃く、実際には上官側からしたら扱いにくい男として認識されているために何時でも余所に飛ばせるように特定の部隊を持たせていないだけである。

しかし、ウルフの人柄は気さくであり付き合いも良いため、同僚達からは信頼にあたる人物だと認識されていた。だからこそ、背後からフリットの肩に覆い被さるように腕をかけ、反対側の手で頭を掻き撫でるウルフの振る舞いに意外は無いのだが、あまりにも突拍子がなさすぎる行動に周囲は面食らっていた。

「――いい加減にして下さい!」

フリットは久々の再会に気を許そうとしたが、あんまりな歓迎のやり方にウルフの腕を振り払い、髪の乱れを直す。
ウルフは元気が良いなと両手を降参と言うようにあげたままにしながらも楽しそうだ。それに対してフリットは肩から背中をすくませる。

「相変わらずですね」

吐息付きで言えば、ウルフは手を下ろすついでにフリットの頭を二度叩く。

「背は伸びたが、あんま変わってないな」
「はぁ……」

この僅かなやり取りで空白期間の内面を知れるわけがない。だから、何が変わってないのか良く分からないのでフリットは曖昧に頷くに留める。フリット自身、何か大きく変化を得たと感じてもいないので否定しようという思いはなかった。

そのまま幾つか言葉を交わし合うフリットとウルフの姿に、誰かが傍らの者に「知り合いか?」と二人の関係を尋ねる声を漏らせば、知らないと首を横に振られたりするが、別の誰かが「ウルフ隊長もディーヴァに乗ってただろ」と言葉にする。二人が既に顔見知りだという線が繋がった。

ロビンはウルフに催促されたこともあり、自分の部隊員らに声を掛けて扉の方に足を向ける。

「アスノ。話が途中になったが、お前さんが何処の部隊に入るかはまた後でな」
「はい、分かりました」

まだそのことを切り出して話す前だったが、ロビンは気に掛けてくれていたらしい。この人の部隊に組み込まれることになったなら、不安はないかもしれないとフリットは思う。

「待て、ロビン」
「何か伝言でも言い忘れたか?」

扉間際まで進んでいたロビンは立ち止まるが、疑問をのせた顔でウルフに目を向ける。

「そうじゃない。こいつ、お前の部隊に入るのか?」
「まだ正式には決まってない。まぁ、私のとこかスラッグのとこになるだろう」

話を聞くところによるとガンダムの性能や武装類から長距離系より近距離系であることは分かる。そちらを得意とする者が欲しいと思っていたロビンはフリットを好意的に見ているし、スラッグにも交渉を持ちかけようかと考えてもいた。

ロビンかスラッグの隊にフリットは加わるかもしれないと知ったウルフはフリットに向き直ると耳を疑う言葉を口にした。

「俺のところに来い、フリット」
「え?それは、どういう」

話の流れでは誰の部隊に自分が組み込まれるかというものだった。だから、ウルフがどういう意味で言った言葉であるのかは理解出来ていた。けれど、理解出来たからと言って、ウルフの真意まで判るわけではない。
突然のウルフからの申し出にフリットは目を丸くするしかなかった。

「相棒になれってことだ」
「訊きたいのはそういうことじゃなくて、どうしてそうしろとウルフさんに言われないといけないかってことです」
「不満か?」

言われ、フリットは言葉に詰まった。
ウルフの僚機を務めるというのは悪い話ではなかったからだ。この基地にウルフがいることを前々から知っていたフリットは、彼と同じ場で仲間として行動できることに期待を持っていた。
Xラウンダーに覚醒してから、技術を向上し合えるような対等以上の腕を持つ相手が限られていることに気付き始めたフリットにとって朗報とも言えるものだ。

それで誰が嫌だと言えよう。頷いて良いものならフリットは頷きたかった。
けれど、一介の士官が自分や誰かの配属を勝手に決められるものではない。ウルフにも、フリットにも、その権限は無い上に、もしフリットが頷いたとしても、ここでのやり取りは記録されるものではない。報告することは可能だが、判断するのは自分達ではないのだ。

「ウルフ。流石に今の発言は聞き捨てならないぞ」

扉を潜らず、むしろ、そこから離れるようにウルフとフリットに向きを変えたロビンは一歩前に出る。
周囲が静かに響(どよ)めいた。フリットも割って入られるとは考えもしていなかったようでロビンの申し出に面食らう。

ウルフの方は水を差すように邪魔されたことに僅かに眉目を詰めつつも、相手の言い分を切って捨てる真似をすることはなかった。

「何か問題があるか?」
「ここで勝手に決められるものじゃないことくらいはお前さんだって理解しているだろ」
「理解はしてるな」
「なら、その話は保留にしてくれないか。私は彼の腕を買ってる」
「早い者勝ちって言葉はロビン、お前だって良く知るところだろ」

ぴくりとロビンのこめかみが動く。
最終的な判断は確かに自分達にはない。だが、結果に導く手筈を進めることは可能だ。その証拠にロビンはウルフがフリットを誘うことに口を挟んできた。ここで決められるものじゃないと口にしたのは牽制でしかない。

先手必勝という語をウルフは好む。それは自信がなければ叶えられるものではなく、競う場では重要な割合を占める。例外がないわけではないがと、ウルフはフリットに視線をやった。
気付いたフリットはことの成り行きに辟易していたところにウルフと顔を見合わせることになって困惑の色を覗かせた。

「お前は俺を選ぶ」

断言したウルフにフリットは目を瞠り、周囲も何を言っているんだと瞬く。ロビンが間に入るよりも先に、ウルフはフリットの傍らに寄って耳元近くで何事かを彼だけが聞き取れる声で言った後に絶妙な距離を取る。
視界に入るフリットは明らかに落胆の表情をしているが、本気で言ったわけではないのでウルフ自身に良心の呵責はない。だから、どうすると弧を描いた。












言葉を交わしている間に通路から食堂のテーブルに場所は変わっていた。思っていたよりも長く話してしまったとフリットは区切りを付ける。

「それで、勝手気ままに決められたんだ」

掻い摘んで話したので、受け取り方次第ではズレが生じているだろうが些細なことだろうとフリットは思う。あまり喋りたくないこともあるからなと、ウルフに耳元で言われた言葉を脳裏に反芻する。

――俺を選ばないと言うなら、お前とは二度と模擬戦をしない。――

そう言われたのだ。今思えばあれは冗談であったかもしれないと感じているが、あの時は自分の期待を裏切られると心底項垂(うなだ)れた。

「そこの司令もよく許可してくれましたね」
「そうだな」

そちらの詳細は知らないと滲ませるように返したが、実際のところはフリット、ガンダムやAGEシステムは微妙な立場にあり、厄介者扱いをしている上層部は少なくなかった。
ウルフの申し出はそういう者達にとって悪くない打診だったのだろう。厄介者をまとめておくという意味で。

公に口にするものではないと、フリットは濁しを言い直すことはなかった。それを言えば、自分が配属された“トルージンベース”の連邦基地はゴミの掃き溜めとイコールで結びついてしまう。そうであって欲しくはないが故に、口には出来なかった。

後にアーシュランス戦役と名付けられることになるが、その戦闘を終えて先日報告書をまとめたばかりであった。今日中には何かしら上から返答があるだろう。

以前の配属基地から転属命令を先に受けたのはウルフだった。そのこと自体にウルフから心を痛めた様子は見られなかったが、自分に向けた表情は何故か忘れられなくなっている。
ほんの一瞬であったが、ウルフらしくなかった印象が強く残っているのだ。

意識は現在にあるのだが、少し遠くを見るように視線を横に投げたフリットにラウリは色々あるのだろうと思うに留める。
自分も二十歳を過ぎてから独りでは抱えきれないことが世の中にはあるのだとつくづく思い知らされたくちだ。フリットもそうなのかもしれないし、そうではなくとも、何か思うところがあるのだろう。

食事を済ませて、食後のコーヒーで一息吐いていた頃。珍しい組み合わせだとでも言いたげな顔でアスノ隊に属するパイロットが三人、フリットとラウリが座る席に近づいてきた。
彼らの同席を願う申し出にフリットは断る理由もないので了承する。

「何の話してたんだ?」
「隊長に白い狼のことを訊いていたのさ」

顔見知りになってからまだ日が浅いというのもあるし、隊長の手を煩わせるわけにもいかないといった様子で新たに加わった中のうちの一人がラウリの横に腰を下ろしながら顔を向けて尋ねる。すれば、返ってきた内容は噂に目聡い年若い彼らにとって興味をそそるものであった。

ラウリが先程フリットが話したことを三人に伝えている会話を意識を外した遠くで流し聞く。フリットが手元のコーヒーで喉を潤している間、彼らの言葉は耳を緩慢に通過する。
けれど、ふと気付くと、視界の隅で電球が点滅でもしているかのようにチラついている錯覚を得たフリットは、カップに落としていた視線を上げた。

「なん、だ?」

期待の眼差しと言えば聞こえは良いが、部下達が目を輝かせていることに純真さが垣間見られず、そこはかとなく嫌な予感が生まれてフリットは表情を少しばかり引きつらせる。

「白い狼の武勇伝、訊かせてくれませんか?」
「ウルフの戦績か?それなら、第八宇宙艦隊と合流した時の」
「そっちじゃないですよ!」
「どっちの、話だ?」

そう口にするが、何と何が机上にのせられているのかフリットは把握出来ていない。何か興奮した様子の部下にも腰が引けてくる。
ラウリの隣に座していた彼は前に乗り出して口横に指を揃えた手を縦にして添えて、言った。

「女関係の方です」

食堂という場でもあるため声は潜めてくれていたが、隣のテーブルには丸聞こえだ。聞き耳を立てられている気配がある。

「あ、あぁ……」

何を訊きたいのかは見えたが、返事に困ったフリットはそう口にするしかない。
けれど、話が通じたことに喜んだ彼は続けた。

「噂では狙いは外さないらしいですけど、実際はどうだったんですか?」
「………いや、まぁ、人並みじゃないか?」
「歯切れ悪いですね」
「プライベートのことは、そこまで知らないさ」

乗り出してきていた彼はすとんと椅子に座り直し、フリットは胸をなで下ろす。
しかし、思わぬ方向から言葉が来る。横に座る仲間の言葉に表情を歪めていたラウリだ。

「けど、意外ですね。隊長はそういうの嫌う方だと思ってました」

性にだらしない者が側にいたのなら止めに入ったりするものだ。ラウリは自分だったならそうするし、そちらの方面に関してはフリットは自分と近いだろうと思っていたのだ。

「そういうのは人によって価値観が大きく違うものでもあるだろ。だから、私には善し悪しを判然することは出来ない」

そういう見解なのかとラウリは納得も出来たし、フリットらしいと言える解答に頷きながら加味した。ウルフと近しい関係であったなら、見て見ぬふりもしてきたのかもしれないとも思う。

「女関係の話はしたことがなくても、男同士によくあるAVの貸し借りぐらいはあるんじゃないですか?」

一端大人しくなったものの、下世話な話は続く。もう少し言葉選べよと仲間達が口に出したり表情に顕した。

「よくあることなのか?」

しかし、フリットがあまりにも話の内容についてきているのか怪しく感じるほどに、幼子が疑問を感じてそのまま疑問を問い掛けるような顔で言う。それにテーブルに同席している四人の時間が止まった。
そのうちの一人が先に我に返って咳払いをしつつ、会話を繋げる。

「ほら、手解きとかしてもらいませんでした?」
「……ぁ」

何かを思い出したように肩に力を入れて視線をどこに定着させようかと彷徨わせ始めたフリットに「オオッ」と歓喜の唸りが生まれる。

「教えて下さいよ、隊長」
「しかし、なぁ」

思い出しの気付きは徐々に記憶を呼び覚ましていき、フリットは首に熱が溜まるどころか涙目になりそうだった。
彼らがよくあることと言うのだから、特別ではなく普通にあることだったのかもしれない。ならば、言ってしまったほうが気が楽になるだろうかと、フリットは決意する。

「女性の体について仕込まれてるんでしょ?」
「え?」
「ん?」

フリットが疑問の声をあげたことに、質問した部下も疑念の声をあげた。きょとんとしているフリットは自分が考えていたことが相手達と噛み合っていなかったことに気付いて熱を下げる。

「そうか。普通は、そうだよな」

誰に言うでもなく、独り言のようにそう零したフリットは口元に握った手を寄せて考え込み始めてしまった。
自分は何かおかしなことを言ったか?と同僚達と顔を見合わした彼は頭を掻く。

暫くしてから、フリットはやりたい作業があるからと先に席を外し、隊長を見送ったアスノ隊のメンバーは口々に先程のフリットの様子を話題にする。

「何か変だったよな」
「淡泊なんだろ。男がみんな下の世話が好きだと思い込んでるのはお前だけだ」
「ひでぇな、お前だって好きだろ」
「否定はしないけど、俺たちの中で一番絶倫なのはお前」

慣れてはいるが、自ら輪に入ろうとは思えず、ラウリはコーヒーを飲み終えたことを言い訳に席を立った。
食堂から出ると医療班の制服を身に着けている女性と出会して、ラウリは一礼する。相手もブロンドを揺らして会釈を返してくれる。

「アスノ隊長なら、食事をしていかれましたよ」

彼女が食堂に入る素振りを見せる前に言えば、彼女は少しだけ驚いた顔をした後でほっと表情を弛緩させた。

気の利く女性だと、ラウリはフリットの幼馴染みのことを思う。医務室に行くと優しく声を掛けてくれたのも記憶に新しい。フリットに対しては遠慮が無くて押しが強いのもこの間見掛けている。

「教えてくれて有り難う。無駄足運ぶところだったわ」
「いえ。あ、でも、口実取ってしまって」
「え?ああ、いいのよ、それは。ちゃんと食べてくれたなら大丈夫」

自分が言い続けたことが無駄にならなかったのなら、それで良い。フリットが同じ基地にいるのだから、今日顔を合わせなくても、その機会はまたある。エミリーはそう信じられる。

仕事が減ったわと気分を良くしたようにその場を後にしようとするエミリーに少し尋ねてみたいことがあり、ラウリは彼女を呼び止めた。

「あの、隊長のことで訊きたいことがあるんです」
「何?」
「ウルフ・エニアクルとどんな関係だったかご存知ですか?」
「ウルフさんと?」

もしかしたらエミリーはウルフのことを知らないかもしれないと口にしてから気付いたが、そんなことはなかったようだ。むしろ、フリットと同じようにさん付けであった。

「エミリーさんも彼に言い寄られたりしたことがあるんですか?」
「そういうのは無いわよ。十四か十五の子に手を出すほどウルフさんも常識が無い人じゃなかったわ」

おかしいことを訊くものだと、エミリーは苦笑で答えた。しかし、分かったことがある。幼馴染みの彼女がウルフとその歳に出会っているということは、フリットも同時期に知り合っている可能性が高い。

蝙蝠退治戦役のことは士官学校でも教わることだが、戦況や部隊構成については詳しく彼らの耳に入ることはなく、連邦が都合の良いように事実が改変されている部分もあった。
そのため、ディーヴァの乗員リストなどはラウリが既知するところではなかった。

「話が逸れちゃったわね。フリットとウルフさんのことだけど、私から見たら歳の離れた兄弟……ちょっと、違うかしら。そうね。年の差を感じさせない友人が一番しっくりくるかも」
「友人ですか」
「うん。師匠みたいな人は他にいたから」

思い出して話すエミリーから懐かしみと敬意が届いてくる。彼女と隊長の周りにいたのは良い人達であったのだろう。
ラウリは「そうですか」と頷いて、訊きたいことを聞くことが出来たとその場で彼女の背中を見送った。

しかし、謎は解けていない。フリットの先程の様子からウルフとの間に何かあったのは確かだと思うのだ。その何かが翳りのようなものであるならば、無視してはならないと感じていた。けれど、エミリーから聞き及んだ雰囲気だと、そう気に病むものではないのかもしれないと思い直す。

踏み込まれたくないことなら、謎は置き忘れるべきだ。







折角配線を繋ぎ終えていたが、全て外してフリットはハロを抱えてシーツの上で横になっていた。

子供っぽいことをしているという自覚はある。ハロを抱えて持っていたことは昔もあったが、抱えながら寝たことはしたことがなかった。けれど、そうしている。
それで擬似的に辿ろうとしているのか。そう片隅で浮かべたが、機械の堅さは類似しない。スリープ状態にせず、起動したままなのでハロに微熱はある。しかし、人とは違うそれに安堵は遠い。

現在に意識をたゆたうままに、思い出す。
最初は気紛れな悪戯だったと、そうとしか思えなかった。今でもそう思っている、はずだ。けれど、あれはどうだったのだろう。

分からなくて、分かりたいと思って、置き忘れなかった記憶を起こす。












「満足ですか?」
「まだ始まったばかりだろ」

これから満たしていくとウルフは上機嫌だ。
耳元であんなことを言い捨てたウルフが待機室を出て行くのをフリットは追いかけてしまった。それに気付いたウルフは待機室の扉と通路の間で振り返ると、フリットの手首を掴んで攫うように引き寄せた。

その数日後、つまり今し方なのだが、フリットはウルフの僚機を務めることが正式に決まった。そのお達しから持ち場に戻っている途中での会話だ。
フリットとしても悪いことではなく、喜びたいところであった。しかし、困ったことがあるのだ。

「お、花嫁だ」
「花嫁、今日も狼と一緒か」

変なあだ名が付いた。通路ですれ違い様にそう呼びかけられる。
始めに言い出した者を表に出させたいが、こんな荒唐なことで犯人捜しなどそれこそ時間の無駄だ。

けれど、ウルフとコンビを組むことがこれから知られていけば懸念が増える。この呼び名が余計に広まるのかと思えば、気が重くなるというものだ。

「花嫁いいじゃねぇか」
「良くないですよ」

面白がっていることがよく分かって、フリットはウルフを睨む。責任はウルフにあるのだ。
あの時、待機室から出るときにウルフが此方の手を取らなければこんなことにはなっていなかったはずだ。噂に尾びれが付いてしまった原因はそこに集約されているのだから。

スラッグ隊かロビン隊のものになるかと思われていたガンダムのパイロットを白い狼が掻っ攫った。それが花嫁強奪と掛け合わさって噂として流れている。

下手に反応を返せば呼び名が浸透してしまう恐れがあり、フリットは比較的取り合わないようにしてきている。時間と共に噂が薄れるか、他に印象が強い物事が発生した際に上塗りで消えることを待つしかない。
改善策が無い中で、良いことなど一つもないではないか。

「花嫁ってのは純白のドレス着るもんだろ」
「それが?」
「俺様に相応しいってことだ」

絶句した。ここでトキメキでもすれば良いのか。願い下げである。
頭を抱えたくなったフリットはウルフの横を同道しているのが嫌になり、彼を追い越して先を歩いて行く。

少しからかい過ぎたかもしれないとウルフは思うが、反省はせずに肩をすくませるだけだ。
しかし、ある一点だけはからかったわけではないと口元を引き結ぶ。

そのままフリットの背を立ち止まったまま視界に入れていれば、ついてくる気配がないと気が付いたフリットが此方を振り返る。けれど、ウルフが動くことを待つことはなく、そこにいるということだけ確認が済んだら、また顔を前に戻して歩き出していった。
フリットは昔から自分にはそうだ。待っていなくとも勝手に来ると分かっている、というよりも、思い込んでいる。

だから、本気ではなかったにしても、期待を裏切るような真似をすれば落胆の色を見せる。今まで裏切ってこなかったツケが回ってきてしまった。
不味い。そう感じ得ながら、ウルフはフリットの後を追う。

速度は少し落としていたが、遅いなと思っていたフリットはウルフが自分に追いついてきたことに安堵して、横に視線をあげた。案の定、気付いたウルフと顔を見合わすが、視線が合う前に向こうから顔ごと外された。疑問を抱いたと同時にウルフが口を開く。

「そういや、お前もう酒飲めるよな」
「少しなら」
「祝い酒するか?」

コンビ結成を祝おうというのだ。フリットは迷いを生じさせたが、外されていたはずのウルフの視線が此方に向けられ、いつもの笑みをかたどるのに反射で頷いていた。

持ち場に戻ってすべきことを終えてから、ウルフの自室で二人は落ち合った。
まだそう酒の種類の経験はあまりないと語るフリットにアルコール度が強いものは避けるかと、自室の冷蔵庫をウルフは開ける。

無難なのはビールだが、あいにく切らしているようだった。今から調達してきても良いが、備えがないわけでもない。ショウガの炭酸飲料があるので、ブランデーをそれと混ぜて氷で薄めれば飲みやすくはなる。出回っている物より多少ショウガの辛みが強いが、その方が酒と相性が良い。

「何か手伝いましょうか?」
「あー。じゃあ、ジンジャーエールと黒いラベルが貼ってあるブランデー持ってけ」

冷蔵庫の中を覗くのを交代し、ウルフはグラスを食器棚から取り出す。炭酸を入れるなら細く高さのあるコリンズグラスが適切だが、食器類に拘る性格ではない。ロックグラスを二つ手にして、片方にだけ製氷機から取り出した氷を入れる。

食堂にあるものとそう違わない材質であるが、個室に備え付けのテーブルは成人男性二人では少し狭く感じる。その上で茶色と黄金色が氷を中心に混ぜられていく。

目の前にサーブされたグラスに視線を落とし、先程目にしたブランデーのラベルに記載されていた濃度をフリットは思う。
ウルフの方は氷を入れず、ブランデーとジンジャーエールが五割ずつであるが、自分の方は氷のことを排除してもブランデー二割ジンジャー八割だ。
自分自身のことになるので、誰かとの比較は無駄に近いが、ウルフがあれを平気とするならば、これくらいなら無理な飲み方にはならないのだろう。

軽い調子の祝辞を述べるウルフにフリットは微苦笑を返し、尊重する雰囲気も何も無く互いのグラスを強めにぶつけ合って祝杯をあげる。
他のものも混じっているが、フリットは初めてブランデーを口にする。苦みに似た辛味と舌の上で泡が弾ける感覚が先に来るが、飲み下した後に喉の内側が熱を感じた。

「飲めそうか?」

ウルフも一度自分のグラスに口を付けてから、味は悪くないと確認したうえでフリットの様子を窺う。

「多分、慣れれば」

平気だと伝えるためにフリットは二口目を喉に通す。溜飲するのを見届け、ウルフは考えすぎないように酒を呷った。

互いに三杯目となるころには椅子に腰を下ろしておらず、立ち飲みになっていた。フリットは行儀が悪いとかそう言うかと思ったが、ウルフがグラスを手にしたまま立ち上がって肴(さかな)を取りに部屋の奥に行くのに対して、何故か追随してきた。

後ろについてまわられることはなかったが、キッチンの下を漁るウルフが見える場所に肘を突いて時折グラスを傾けている。
いつもなら姿を見ていなくても同じ場にいるなら気にした様子など見せないはずで、現状のフリットにウルフは内心で疑問を得る。

立ち上がってキッチン越しに、ウルフは楕円形のオーバルプレートに適当に盛り合わせたスティック状のスモークチーズとビーフジャーキーをフリットの眼前に掲げた。
しかし、呼吸を数回置く時間が経っても一向にフリットが手を伸ばさない。先程まで受け答えはしっかりしていたが、酔いがまわり始めたのだろうか。

差し出していた皿を引き戻し、ウルフはチーズを指に摘む。それをフリットの口元にもう一度差し出す。

「結構いけるぞ」

言ってみるものの、フリットから返事は無い。酒の割合も変わらずに混ぜ続けたはずだから悪酔いはしないはずだと考えていたが、フリットが手にしているグラスの中の氷のことを忘れていた。
氷は既に跡形が見えず、二杯目、三杯目と重ねるうちに摂取するアルコール度が濃くなっていったのだろう。

炭酸で誤魔化してはいたが、ブランデーの濃度はそこそこあったはずだ。飲ませすぎたなとウルフはフリットからグラスを取り上げ、口直ししろとチーズで彼の唇をつつく。
口を薄く開ける反応があったのでチーズの先端を差し込むように口に入れてやれば、噛む反応もあった。

手の掛かる奴ではないのだが、悪くないなとそんな感想を抱く。面倒見が良いとラーガンに言われたことがあり、否定はしなかったが自分は世話焼きではない。それなのに餌付けが楽しいとは大概、自分も酔っているのかもしれない。

チーズは口に残りやすいだろうと、ウルフはフリットのグラスに残っていた酒を一気に飲み込み、意外に濃いと確かめて空にする。適当にすすいで水を入れてフリットの手にグラスを戻した。

緩慢な動作だが、グラスを傾けて口に水を含むフリットを見届けていれば、飲み下してから一息が吐き出された。
ぼんやりとしているように見えるが、自分と目があった瞬間に背を正すような素振りがあり、意識は保っていることが分かる。まさかとは思うが、酔ったふりをしているわけではあるまい。

「お前、少し横になってろ」
「ウルフさんは?」

直ぐに返答があったことと、呂律にも危うげなところが見当たらないことに引っかかりはあった。けれど、酔ったときの豹変は人それぞれだ。気にすることはない。

「俺はまだ飲み直す」
「………」

視線を受けて、一人で寝たくないとはこれでは本当に子供だ。しかし、嫌な気はせず、ウルフは眠りにつくまで側で待っててやるとその若草色を撫でた。

ベッドに横になったフリットが眠りやすいように寝室の照明は弱くする。ベッド下に腰を下ろし、ウルフはさて子守歌でも歌ってやろうかとからかい込みで提案すればフリットから丁重に断られる。

目を閉じるフリットの顔をなんとなしに見つめ、寝ただろうかと呼吸の規則性に耳を澄ます。
沈黙の間ウルフは考える。やはり、変わっていないとフリットのことを思うのだ。酒が入っているにしても、警戒もせずにこうやってベッドの上にいる。この基地で再会した時も気を許した状態だった。
意識しないようにしているのかもしれないが、忘れているわけでもないだろう。

酔いが醒めてきたのはいけない。これらを考えないようにしていたのだから。
一度だけ飲んで戻ってこようと腰を上げようとしたが、腕を掴まれた。

「眠れないか?」
「……訊けなかったことがあります」

会話が繋がっていない。酔っ払いが自分のことしか話さないことを経験上知っているウルフは成り行きを待つために何も言わずに口を閉ざす。
返答が無いことにフリットはウルフから手を放して、シーツを頭まで被った。

そこから動く気配のないフリットに酔っ払いは自分勝手だと結論を出そうとした矢先、布擦れの音をさせながらシーツが起き上がる。
シーツを被ったまま、フリットはベッドの上に座り込んでいる。側で立ち上がってしまっているウルフには室内が薄暗いことと、シーツの影でフリットの表情は窺い知ることは難しかった。

警告が、ウルフの内側でけたたましく鳴り響く。アルコールで全てを戻そうとしたはずであるのに、歯車が一つ、二つと、外れていく音が警告に重なる。
顔を上げたフリットの表情がシーツから覗いた。

「あれは、ウルフさんにとって悪ふざけでしたか?」

何のことだか思い当たらないとは言わせないと、双眸が射貫く。それに対してウルフは狼の眇をくれてやる。
まさかそんな反応が来るとは思わず、フリットは怯みを見せたが、シーツを掴む手に力を込めて意地を張った。

胸の内でウルフは苦みを得る。これ以上、今ここでフリットと相対しているべきではない。

「お前がそう思うなら、それが答えだ」

それで終わりにする。切って捨てた声音にフリットは諦めるだろう。
だが。

「そう思えなくなったから、訊いているんです」

苦みが強くなる。では、どう思っているのだと視線を戻した先には、酒熱と別の熱が重なり合った潤みがあった。なんて顔しやがると、ウルフは自分の顔を掌で覆った。
そして覆いを外すまでの僅かな時間で決断する。

まるでフリットに覆い被さるようにウルフはベッドに乗り上げ、シーツごとフリットの頬を両手で包み込む。

「ベール被ってるし、本当に花嫁だな」

淡い照明の灯りがシーツを彩り、レースのような柔らかさを感じさせる。言い切ってから、花嫁という単語に不満の色を滲ませ始めたフリットから言葉を奪い、再び表情を窺う。

「………」

文句も返さず、不満とは違う色を見せてフリットは視線を落とす。

「初夜だからって、しおらしくしてる必要ないぞ」
「……今更ですけど、何となく後悔してます」

だったら何もかも後悔させてやると、ウルフはフリットが見ていないところで表情を歪ませ、彼の首筋に噛み付いた。












そこからの記憶もちゃんとある。しかし、あの時間が終わった後、自分は覚えていないとウルフに告げた。その時の様子から信じたのか定かではないが、ウルフはいつもと変わらない態度で二日酔いはどうだのと他愛ない話にシフトした。

最善の選択だったと自らに言い聞かせ続けているが、続けている時点で最善も何もないだろう。だが、最悪の結果でもなかった。

それ以降、ウルフを呼び捨てで呼ぶことが増えたのだが、どう考えても最中に呼び捨てたのが切っ掛けだ。
勘が悪い人ではない。むしろ、野生的すぎて良すぎるくらいだった。

分かっていたのではないかと勘ぐりたくもなる。そこで、ウルフが転属命令を受けてから自分に向けた表情が何を指していたのか気付いてしまう。

「抱きたかったのか」

自分の思い込みという線もなくはない。けれど、腑に落ちる感覚があった。同時に気を遣わせてしまったことに、罪悪感を得る。

拒む理由がないから。自分の根底にあるのはそれだ。ウルフを拒む理由や言い訳が、何一つ思い浮かばない。
八年近く前のことだが、からかいの延長で手を出されたことがある。自慰の促しではあったが、それだけでもなかった。それでも「まぁいいか」と深く考えもせずにいたのは、根底の定義によるものだ。

それでも、何処かで猜疑心があったのだろう。でなければ、ウルフに訊けなかったことがあると切り出すようなことはなかったはずだ。悪戯だったと思う時のことが多いが、そうではなかったのではと思うことも度々あった。自分にしては珍しく優柔不断な考えだったから、答えを出そうとしてウルフに直接訊くことにしたのだ。

酒に呑まれる体質ではない。一年前はまだ慣れない時期であったから酔っていなかったわけではないが、意識を遠くに感じるほど溺れてもいなかった。素面の時にはしないような行動をしていた自覚があるけれど、自制していたものが酔いで後押しされただけで深い意味はない。
だが、その後どうなるか何も考えていなかったわけでもなく、あったことをなかったことにするために酒のせいにした。

八年前と一年前に違いはあれど、それらを境に距離感が変わることはなかった。そうだ、あの人が気付いていないはずがない。拒めないことも、後顧を愁いていたことも。

あれがウルフの選択だったのだ。
彼の選択も、自分の選択も間違ったとは思わない。けれど、残念だと、フリットはハロを抱く手に力を入れて、泣くように笑みを浮かべた。

素肌をまさぐってくる手は優しくなかった。加減をしない噛み付きも優しくなかった。なのに、優しかったのだ。
それに甘えて知らぬ存ぜぬを貫いた自分の選択が招いた結果は悪くはないが、良くもなかった。
自分はもうずっと忘れ続けるしかない。忘れていないことを、忘れていると。

忘却は戻ることなく、フリットは特務士官からの呼び出しに背を起こた。その反動を利用して、狼との回顧を置き去る。





























◆後書き◆

本人が抱えきれない都合の悪いことや辛いことは無意識に忘れようとしてしまう感じがあると思うのですが、それとは違う意味での忘却ですね。
想いも何もかも自分の中に残せないので、何処でもないところに置き去りして忘れていないことを忘れるしかないニュアンスで。
花嫁ごっこがしたかっただけなのに、思いの外重い話になってしまいました。何故でしょう(頭抱えながら)。

今・過去・今・過去・今。という流れで書いてしまったので、読みにくくなっていたら申し訳ありません(汗)

Vergessenheit=忘却

更新日:2013/09/23








ブラウザバックお願いします