軽く上官×フリット(♀)の描写あり。

ウルフリで道具使用含みます。

18歳未満の方は目が潰れます。






























◆Perversion◆









終わった途端、直ぐに身支度を調える女に男は呆れた視線を向ける。他の女は怠い身体を持て余して暫くは横にいるのが常だからだ。シャワーぐらい浴びていけば良いと提案しても、彼女は拒む。

今から別の相手のところにでも行くのだろうと、勝手な結論に落ち着いた男はシーツの上で上半身を起こす。その音に着替え終わっていない顔が此方を振り向いた。
年齢にしては幼い顔立ちだが、無感情な表情に幼稚さは無い。ガンダムのパイロットとして修羅場を経験しているからこそ、女らしい可愛らしさというものとは無縁であった。けれど、気丈なこの女を組み敷けるのは愉悦に似たものを引き出される。

耐えようとしつつも快感に歪む表情も今とかけ離れていて癖になる。「また頼む」と声を掛ければ、女はその内容には触れずに「お忘れなく、お願いします」と交わした条件に念を押す。解っていると苦笑を返した男に、女は苦いだけの顔をした途端に視線を外した。

「私はこれで失礼します」

制服を正した女の背中が部屋から出て行く。

















見慣れた後ろ姿にラーガンは声を掛けようと足を一度速めたが、違和感に足を止めた。前に自分は注意したはずだと、バイザー奥の表情を歪める。

もう一度、諫(いさ)めるべきだろうと決意して足を動かそうとした矢先、向かい側からやって来たウルフと出会した彼女が彼と数度言葉を交わす。聞き取れる内容からするに模擬戦の予定を立てているらしい。日程と時間が決まったらしく、苦笑したままウルフは彼女の髪を撫でるように梳いた。

いつもならば頭に手を置いてくるので、虚を突かれたフリットは驚いて身を引く。疑問を載せた目でウルフを見上げたフリットは相手の態度に遊ばれたと確信して、不服であるとする言葉を捨て台詞にウルフを退かすようにして去っていく。

肩に苦笑を滲ませたウルフは向かってくるラーガンの姿に気付いて自らも歩み寄る。

「フリットに何か用だったか?」
「ありましたけど、まぁ急用だったとかそういうのじゃなくてですね」

言葉の濁し具合にウルフは疑念を持たない。むしろ、何が言いたいか手に取るように分かっていた。

「そこまで気に掛けなくてもいいだろ?あいつにも兄貴分離れってのさせてやれ」
「貴方にとってはその程度のことでも、女性にとってはリスクが大きいことだって理解していますか?」
「フリットがそこまで考えなしにやってるとは思えないからな」

別視点から言えば自分よりもフリットを理解している男だ。そういうものだと割り切れればとも思うが、納得出来ない燻りがどうしてもある。

「見極めがつけられないのも分かるが、」
「ウルフ。貴方はどうなんです」

口を引き結ぶラーガンにウルフはそう深く考えることではないと促そうとしたが、遮るようにラーガンが名を呼び、言葉を重ねた。
フリットはもう子供ではない。けれど、子供を戦場に立たせたくないと言葉を交わし合ったことがある相手だ。全て許諾しているなどと信じ難いではないか。

それに対するウルフの答えは無言だった。此方を通り過ぎようとするその肩をラーガンは掴む。
強制的に動きを封じに来た男に眇める目を向ける。ラーガンは睨みを利かせるその視線を真に受けて臆しそうになるが、肩を掴む手に力を入れて逸らすことはしなかった。

「さっき、変な触り方しましたよね」

指摘にウルフは睨みを薄く消して目を閉じる。

「鼻についただけだ」

纏わり付いていた臭いと、それから――。
何であろうが、お前には関係ないと思考を中断させたウルフはラーガンの手を気怠げに払った。ラーガンは肩を落としつつも、去ろうとする背中に呟く。

「俺にとって専門外なのは認めます」

だから。だからこそ。
狼ならどうにか出来るのではないかと、思ったのだ。しかし、それこそ押しつけにしかならないことも認識していた。向き合えるのだから議論を重ねれば良いことだったが、一方に相対する意思が無ければ意味を持たない。それ故に、ラーガンはウルフのことも、フリットのことも、追いかけることはしなかった。












自室でシャワーを終えたフリットは時刻を目視して、仮眠する程度の時間があることを確認する。

寝室脇にある椅子に腰掛け、デスク上にあるディスプレイの電源を入れる。起動準備中に引き出しから両手で持っても少し余る大きさのそれを取り出した。
手の中の緩く反った棒状の道具からフリットは一度視線を外す。ディスプレイの音量を下げて無音に設定し、ファイルから動画を立ち上げて、手の中の硬い感触を握った。

映像の中でそそり立つ根に白い指を這わす動きをなぞるように、フリットは素手で手の中のものに触れる。
白い指の持ち主が自らの髪を口元を邪魔しないように耳に掛け、同じように若草色の髪を片方耳に掛ける。根の先端を口に含んだところで、フリットは一度動きを止めた。

一歩遅れる動きで亀頭を模している部分に口を付け、目に見えるだけではどうしているか分かりづらいが、想像と憶測に任せて口に含んだ先端を舌をまわすようにして舐める。
そのまま一気に喉奥に入れることはせず、映像の中の女は根から口を離して、それからまた口元を寄せる。それの付け根に。

支え手を右手に、先端を摘むように左手で掴んで縦にした棒の中心よりやや下に顔を傾けながら寄せ、舌を出して舐め上げる。反対側も同じように舐め、濡らしていった。唇ごと茎に触れ、舌を動かして性感を追い上げるように指で先端を引っ掻くことも忘れない。

こういう風にすればスムーズにいくのかと片隅で思いながら、フリットは映像の中の性行為をなぞることを続行する。けれど、最後までするつもりはなく、目的だった口淫はそろそろ終わりそうで、もう少しで一息吐けると思い至った時だ。
ドアを開く音と人の気配を感じたのは。

嫌なところを見られたと思いはしても、フリットは内心の感情を表に出すことはなく淡々とした顔で喉奥まで入れていたローターを引き抜く。

「邪魔したか?」
「いえ、別に。ロックし忘れてました?」

ウルフから視線を外して、フリットはディスプレイの電源を落とす。

「おう、開いてた」

自動ロックにしてくれたら良いのになと思うが、身体の怠さに気を取られていて頭が回っていなかった自分の落ち度に変わりはない。
デスクの横にあるボックスからティッシュを二枚引き抜いたフリットはそれでローターを照らす唾液を拭う。

こんな場面に出会すのはウルフ自身も初めてだったが、思いの外気まずくないものだなとフリットの仕草をなんとなしに眺め続けていた。

「……何か言い忘れたことでも」
「ああ。すまんが、模擬戦の日取り決め直せるか?」

ウルフはフリットとの約束の後で入ってきた仕事を手短に説明すれば、フリットは快い態度で日時の変更に頷く。優先しなければならないものへの理解はある。

日程を決め直したところで、フリットは「次からは端末に連絡を下さい」と続けた。それに対してのウルフの返事は腕を組むという動作だった。
言葉での返答が無かったことに、空気が幾ばくか変わったような気がしてフリットは焦りを覚える。ティッシュで拭き終えた道具をデスクに置いて、屑かごに丸めた白いものを放る。

ついでに自らの掌も拭ってはいたが、やはり水で洗い流したいとフリットは洗面台に向かうために立ち上がった。寝室の出入り口である扉はウルフが閉じないように背を預けているので、先程から開いたままだ。彼の横を通り過ぎようとしたが、それは叶わなかった。

ウルフが左手でフリットの奥の肩を掴めば、腕は彼女の鎖骨に触れる。軍服に袖を通していないのはシャワー後だからかと、結っていない髪から香ってくるコンディショナーの甘さで知る。

剥き出しになっている右肩に触れるグローブの感触はあまり好きになれないものだと、フリットはそちらを一瞥してから、反対側のウルフを横目に見上げる。

離してくれという意見は目の力で正しく伝わってきたが、ウルフはそうする気にはなれなかった。深めのラウンドネックから覗く素肌に眼を細めれば、フリットは釈然としない表情を作る。この男にとって自分はそういった対象ではない。しかし、続く言葉は。

「詫びに相手してやろうか」
「ッ、」

呼吸が止まった。次には奥歯を噛みしめてフリットは無遠慮に触れているウルフの手をそんなものはいらないとばかりに振り払った。けれど、その手を手首ごと掴まれ、伝わる痛みから不安に瞳を揺らす。
恐怖の対象に見られたことに迷いが頭をもたげたが、それは一瞬でしかなかった。

「やり足りてねぇんだろ?」
「違、います。あれは」

足りてないという言葉に、誰かと性交していたことを勘づかれていると気付いて歯切れが悪くなった。
ウルフには知られていると確信があったが、彼は今までそのことに関して一度も口にはしたこともなければ、表情に出されることもなかった。黙認され続けてきたからこそ、戸惑いが強くなる。

「あれは?」

言葉の追い打ちと同時に一歩一歩と迫ってくる相手に対して、フリットは後ずさっていく。
どうすることも出来ずに追い詰められた先はシーツの端で焦りが一層色濃くなる。

「あれは……練習してて」

虚を突かれ、ウルフの表情から力が抜ける。ローターは練習として使うものではなく、疑似体験つまり本番に近い感覚を得るための道具である。練習という言葉が結びつくには些か思案する必要があった。

「お前、下手なのか?」
「指摘されたことは、ないですけど」

それでも腑に落ちないと感じる部分があるのだろう。自分が満足にこなせないことに不備を覚えての練習だったわけだ。完璧主義なフリットらしいと肩をすくめて、掴んでいた手を離してやる。

「ウルフさん?」
「俺とする気はないだろ。お前」
「それは――」

口を噤んだフリットが、それは貴方もだろうと言おうとしたことにウルフは気付かない。それを言えば、焦りの空気に逆戻りになるのだから自分は正しい判断を下したはずだとフリットは俯き、考える。けれど、一方的に決めつけられているのは信頼関係とはほど遠く感じられて嫌だった。

「あの、教えてくれませんか」

背を向けようとしていたウルフにそう投げかければ、彼は少しばかり驚いた様子で此方を振り返った。

「自分じゃ良く分からないですし。頼めるの、ウルフさんしかいなくて」

断るべきだった。けれど、詫びに抱いてやろうかと言った手前すぐに言葉を返せないでいれば、フリットの手元に目が行く。
握り込まれた手は力みすぎていた。フリットの性格からして気紛れでそんなことを言うわけがないことは分かっていたが、どうしたものかと視線を持ち上げる。







ベッドの縁に腰掛けた状態で、ベルトを緩めた下を寛(くつろ)げる。下着の隙間からファルスを外気に晒せば、此方の足の間で膝立ちになっているフリットは僅かに身を逸らした。
了承したのは自分だが、持ち掛けて来たのはそっちだろうとウルフはフリットの頭を掴む。そのまま無理矢理口に含まされると思ったらしいフリットが表情を歪めたことに、そうされたことがあるのかと、ウルフの方がフリットよりも深く表情を歪めた。

息を吐くことで詮索は避け、頭ではなくフリットの腕を取って陰茎に触れさせる。
触れた直後は触って良いのか分からないようで掌で包むようには出来ず、指が触れているだけだ。

意を決するためにフリットが先端へ顔を寄せて口を開けたことに、ウルフが「待て」と制した。半開きの口元を直視しないようにウルフは続ける。

「先に咥えるのも間違っちゃいないが、お前は自分のそこを手で触られるより先に舐められる方が好きか?」

暫し考えに時間を取った後で、フリットは右手も持ち上げて両手でウルフの陰茎を柔らかく揉むように触れる。
息を詰めるような気配を感じた時には手の中の性器が頭を持ち上げ始め、もういいかとフリットは上目遣いでウルフを窺って小首を傾げた。

舐めて良いかと尋ねる視線にウルフは熱を持ち始めた息を吐き出して、フリットの後頭部にゆっくり手を添える。促しにフリットは邪魔になりそうな髪を片方の手で押さえて唇を縦に開く。

生きているものを口にする違和感はどうしてもある。人肌が舌にのっていることが落ち着かない。ローターで練習していた時はどうしていたかと、冷静になって考えることもままならなくなり、頭が働いていない自分自身にフリットは戸惑っていた。他の人相手では頭が白紙になるようなことはなかったからだ。
今更後悔しても遅いが、やはりこの男と本番までしないにしても性交すべきではなかったと思う。

「舌、動かせ」

突き放したような命令口調だが、響きに労りを見出す。上手くやらねばならないわけではなく、教えてくれている。そういうことだった。

「ン……」

丸めたり、左右に動かすようにしてみるが、口の中のものの大きさから含んだまま舐めるのは適さないと判断してフリットは顎を引く。離れたが、互いを唾液が結びつけていることに羞恥が込み上げて吐く息も自然と熱くなる。
それでも舐めなければと、身を寄せて先端の割れ目をひと舐めしてから亀頭の外周を円を描くように舌を転がす。

「フリット、奥もだ」

身体を右に寄せ、根本の左側に顔を埋めるようにして食み、唾液を塗りつける。根本からまた徐々に先端に向かうように舐め続けていけば、自らの体温も上がっていることを自覚してフリットは喉を震わせた。

角度が変わったファルスを目前にして思うのは、やはり射精までさせるのがフェラの一工程であろうということだ。そこまでさせたことがないわけではないが、得意ではないと自身を評価しているからこそ練習などをしていた。

口だけで絶頂させる自信はなく、フリットは手で陰茎を包んで上下に擦り始める。けれど、ぬめりが足りないせいか滑りがいまいちだった。

「唾溜めて垂らしていいぞ」
「えっと、ためるってどうすれば」
「唾液を飲み込まずにそのまま口の中に残せるだろ」

最初の提示だけでフリットなら理解すると思っていたため、詳細を求めてきたことを意外に感じる。けれど、フリットが衣に着せぬ表情で視線を落とすのにそれはやりたくないという意思が見て取れた。

「それか、自分の手を舐めろ」

別の選択肢にフリットはこの人はこういう時でも良く見ているのだなと胸の内だけで言葉にする。

渋ったのは自分のプライドであることをフリットは重々承知していた。自分を捨てるような行為を何度もしているが、娼婦やソープ嬢ではない。それらを仕事としている人達を下位に見ているわけでなく、自分の我が儘でしかないが、信念を他の者と沿わせることに抵抗があるのだ。

フリットはウルフを掴んでいた手を自分の口元に持っていく。人差し指をまず口に含んで唾液を絡ませる。小指まで順に舐め、親指を最後に吸うように舐めた。指同士がすべるのを確認してから掌をちろちろと舐め、濡らす。

伏せ目がちになっている表情と相まって想像よりも艶めかしい仕草にウルフは自制したほうが良いのだろうと遠くで思った。唾液塗れになった手が伸ばされ、触れられた場所に熱が溜まり、込み上げてくる感覚がある。

滑りが良くなり、手の中の陰茎が脈打ち先走りが先端から垂れる。零れそうだと、フリットは先端に吸い付いた。
先端を強弱を付けて吸われ、全体を柔らかい手が滑り上下する。根本の下にある睾丸にもう片方の手が緩めに押しつけられて中心が形を変えていく。

溜息のように吐き出される音の直後に息を引っぱる音が続いた。手も口も止めることなく上目遣いでウルフの様子を窺ったフリットは直ぐに視線を下に戻した。
が、頬に手が触れてきた感触に口を離して顎を引くように小さく顔を振った。

「どうした?」
「その感触はちょっと」

嫌ですと零せば、ウルフはグローブを外してベッド上に放る。再びウルフの手が頬に触れてきたことにフリットは大人しくしていた。撫でる掌に頬をすり寄せたい衝動を我慢する。

あの感触は嫌だったが、いつもなら相手のさせたいようにしてそのままにしていた。ウルフ相手だと要求と意見を言いがちになっている。面倒臭いと思われていないか不安が覗いたが、頬を撫でてくる感触に委ねる。

左の頬に体温を感じつつ、先端をしゃぶるように咥えれば、ウルフからどうするべきか指示が来る。その通りに割れ目を軽く抉るように舌先で執拗に刺激し続ければ、頬に触れていた手に僅かに力が入り、此方の顔を後ろに下げさせようとした。意図を理解するが、フリットは従わなかった。

ウルフの右手をフリットが左手で離し掴み、宙で留まらせる。焦る気配と熱を吐き出す吐息が来た。同時に半分まで口に含んでいたファルスの先からフリットの喉に熱いものが注ぎ込まれる。

飲み込むために口を引く。けれど、まだ溢れ止まらない白濁が、喉を上下させているフリットの顔や胸元に掛かり、淫猥に濡らした。

「―――お前なぁ」
「部屋、汚されたくありませんから」

飲みたくて飲んだわけじゃないと、口の中の苦みを隠さずに表情に出したフリットにウルフは肩をすくめる。出しっぱなしになっているものをしまって、立ち上がり、ボックスティッシュを持ってきたウルフはフリットの傍らに座り込む。その間に指で顔に付いた精液をぬぐい取って舐めているフリットの行動に欲求が燻り、ウルフはそれに対してそしらぬ顔を突き通すためにティッシュを指に摘み取る。

「そのペースで舐めてたら終わらんぞ」
「………溜めてたウルフさんのせいです」

ティッシュを受け取ったフリットはそれで頬と胸元を拭く。

「お前だってここ最近忙しいのは一緒なんだから分かってるだろ」
「―――」

その反応にそういえばさっき上官あたりとヤってたのかと思い出し、ウルフはフリットに顔を寄せる。身を引こうとしたフリットは耳元に落とされる言葉に動きを止めた。

「奉仕されるだけってのは俺としては性に合わんのだが」
「コンドームは切らしてるんですけど」
「俺とは本番出来ないんだろ。そこまでやるつもりはない」

返事はすぐに来ない。
フリットは正直なところ迷っていた。変に息が上がっている分、 鎮まるのに時間が必要である。

応答をウルフは待ってくれているが、胸の奥が落ち着かず、考える時間を得るためにまず訊く。

「さっきのは、ウルフさんとしてはどうだったんですか?」

目を合わせることは出来ず、俯きがちで投げかけたフリットの言葉にウルフはこれといって驚く様子は見せず、考える素振りもしない。

「七十点」

点数で表されたことは引っ掛からなかったが、数字には引っ掛かった。眉を詰めるフリットにウルフは不服かと首を傾ける。

自分の経験上での範囲なら妥当な位置だ。テクニックの部分より積極性の足りなさが点数を引かれる要因である。だが、それをマイナスと見なすのはスポーツ感覚でやる人間ぐらいだ。
しかし、フリットは上手いか下手かでの判断を迫っているようだったから、その基準でウルフは答えたまでである。

それでも下手と言えるレベルではない数字を出したつもりであり、フリットの納得出来ない空気は少し意外でもある。完璧を求めていても、向き不向きは本能的に理解している部分が見られるからだ。それに、自分なりの出来るとする位置を定めて玩具相手に練習していたのだから本人も分かっていたことだろう。

「満足までいってないんですね」

だが、ぽつりと零された小さな声に、自分の考えていたことが的外れだったことをウルフは知る。
フリットの先程の訊き方はウルフとしてはということであり、ウルフ主体に尋ねている。ウルフからの返答は本人の経験基準で答えたものだから言葉自体はすれ違っていなかったが、互いの受け取りにズレが生じていた。

「もう少し……続けても、いいです」

そのズレによって状況が傾いていることにウルフは罪悪感に似たものを得て、思い留まるべきだとフリットの名を呼ぶために口を開いた。だが、声が追随する前に彼女の手指がウルフの服を小さく掴んでいた。







鎖骨を舌がなぞっていく感触に僅かに震えた。声を出さないように口を頑なに閉じていることに対してウルフは何も言わない。声を出せと強要されることが多いこともあり、そう言われないのは有り難いとフリットは思う。

それでも、服越しとはいえ胸を下から押し上げるように五指が喰い込んでくれば、性交の意思が強く感じられて今更ながら困惑が濃くなる。最後まではしないという約束だが、不安もあった。

「ッ、ウルフさん。あの」
「やっぱ止めるか?」
「え。いや、そうじゃなくて」

ここで引き返す選択を出されたことに、そんな考えがなかったフリットは一瞬疑問を見せてしまった。

「いつも通りで、いてくれますか?」

熱を吐き出し合う行為をしても。自分は少なからず変わってしまう気がしていた。だから、ウルフが変わらなければ、いずれ元通りになる。その確証が欲しくてフリットは尋ねるというよりも、願った。

「………分かった」

時間を要したことは気に掛かったが、フリットの内側にあった不安は薄らいだ。
目を閉じたフリットに継続の促しを得て、ウルフは一呼吸の後に彼女の身体の形に張り付くアンダーウェアに手を掛ける。

胸上まで押し上げれば、控えめのケミカルレースに縁取られた黒い下着に覆われた胸元に目が行く。肌の色合いをより映えさせる色であるが、ウルフはフリットを少しだけ抱き浮かせる。
ウルフに抱き寄せられる風になり、上半身の衣服を脱ぎ捨てていた彼の肩口に顔を寄せることになったフリットは相手の匂いを強く感じた。背中とシーツの間に隙間が生じて、そこに差し込まれた手が下着のホックをやにわに解す。

手慣れていることに焦燥は感じない。ただ、寸分違わずそうだろうと思っていたことがそうだったという事実に過ぎない。
背中がシーツに触れ、緩んだ下着がアンダーウェアと同じように上に押し上げられるが、膨らみが晒されることにむず痒い感情が湧く。ウルフが相手でなければ、こんな感情は出てこないのにと、フリットは顔を背けるようにシーツに頬を押しつけた。

ここまでフリットの素肌を見るのは初めてだなとそんなことを思いながら、ウルフは胸の色づく先端を片方、指で摘む。
予想外だったのか、突然の刺激に腕の下にいる身体が撥ねるように身震いした。構わず、親指と人差し指でふにふにと強弱を繰り返せば、フリットは足をすり合わせる。

摘んでいた突起を今度は口に含んで舌で何度も弾き、反対側も指で愛撫し始める。
声を出さないのは良いのだが、身体に力が入っているのはいかんなとウルフはボックスショーツの中に手を差し込む。

ボックスショーツと身体の間に上の下着と揃いのショーツがあるため、そのショーツ越しに男の指が陰核を擦り、足が薄開きのまま震える。
双丘の間に指が喰い込んでいく感触にフリットは熱を帯びた息を口から漏らした。

力んでいた身体が緩んだ瞬間、下半身を強めに擦れば僅かながらフリットの口から嬌声が零される。
それに気付いた本人が困ったような顔をして此方を見上げてきたが、素知らぬとばかりに胸と足の間への愛撫を続ける。

じっとすることなく反応を返している身体に感じやすい敏感肌かと思ったが、他の男に弄られて残された微熱の可能性に行き当たる。目を細めて微弱に表情を変えたウルフはボックスショーツを下のショーツごと引き下げようとしたが、それに気付いたフリットが慌てたように引き留める仕草に出た。

しかし、矛盾を憶えたのか、フリットはおずおずと手を引き戻す。どうかしたのかと直ぐに再開させることなくウルフは先にフリットの様子を窺い待ってみたが、彼女はシーツを掴んで皺を増やしただけだ。
訊いても答えなさそうだとショーツを腿まで下げて、そこで理解した。だが、眉が歪むのは止められなかった。

「フリット、お前下の」
「自分でやったんじゃないです……」

尻すぼみになる声に「だろうな」とウルフは歪んだ眉を改めない。剃られてからあまり日は経っていないだろう。産毛も殆ど無いVラインは肌色一色だった。

自分にしては冷静に愛撫するつもりだったが、正直今は穏やかな心境ではないとウルフはフリットの足からショーツを脱がしきると一端ベッドから降りる。

何処へとフリットは肘を使って身を起こそうとしたが、ウルフは既にベッド脇に戻ってきていた。しかし、彼が手にしているものを目にしてフリットは身を固くする。
ベッドがウルフの重みに静かに沈む。

足をこじ開けられたフリットは秘部に自分がフェラの練習に使っていたローターがひたりと触れる感触に戸惑いを得る。そこにあてがい入れるのが本来の使い方なのは知っているが、そこに使ったことがないからだ。

双丘を指で割り開き、カーブを描くローターの裏側を擦りつける。大人しくされるがままのフリットを横目で窺えば、恐る恐るといった様子でローターに視線を注いでいた。
悪いことをしているだろうかと芽生えるが、生娘ではないのだからと今度はローターの先端をヴァギナの入り口に少し差し込む。

だが、ウルフは一端それを引き抜いて自分の口に持っていった。
頬張るように舐め吐き出されたローターの行方を目にしていたフリットは首を熱くする。先程自分が舐めていたものであるし、自分のあそこに擦りつけられたものでもある。それがウルフの口に入れられたことに胸が落ち着きを無くしていた。

そのままローターが入れられるかと思えば、先にウルフの指が膣をまさぐる。経験上、今でも十分入る気がするフリットはウルフの行動に疑問を浮かべるが、なかに入っている指が曲げられてGスポットを刺激する。

「力、抜いてろよ」
「ゃ――、そんな」

暴れるようなものではなかったが、強く擦られる刺激に耐えようと硬くなっていた。けれど、言われるがままに息を吐き出して抜こうとするフリットの従順さに、相手が自分でなくともそうなのだとしたら噛み切りたくなるなとウルフは片隅で思考する。

フリットとしては口では無理と言っていても、ウルフがそうしろと言うことはそうした方が良いという意味があると認識していた。彼の言葉なら信じても大丈夫だとそう感じているから。

しかし、下半身に我慢したくなる感覚が溜まってくる。腰を引いたが、足を引っ張られてよりウルフに晒け出す格好になってしまった。
執拗に同じ場所ばかりを指の腹が狙ってくる。流石にもう止めて欲しくてフリットはいやいやをするように首を振る。

このままでは多分汚してしまうとフリットが縋るようにウルフに目を向ければ、彼は此方の髪をひと撫でした。その手で頤もなぞるように撫でてくる。
気が緩んでしまえば、我慢も緩んでしまい、感覚だけが鮮明になる。瞬間、フリットの陰核下から透明な液体が横溢(おういつ)されていく。

「〜〜〜ッ」

全身がひくつくが、液体を飛ばす箇所と太腿が目に見えて分かるほど震撼していた。出し切ってしまっても身体は鎮まることなく、フリットは荒い呼吸のまま呆然と事実を眺めていた。

それが通常の排泄物とは異なるものであることは知識としてある。だが、そこから放出されることに対して違いは大きく感じない。
痺れる性感帯以上に羞恥的な場面をウルフに見られたことに身の置き所がなくなり、フリットは足を閉じ、背を向けるように横になろうとする。
けれど、再び大きく足を開かされてフリットは恥ずかしさで潤む顔をウルフに晒す。

「潮吹きは初めてか?」
「……訊かないで下さい」
「良い経験にはなっただろ」

出来ない女もいるし、それが分かっただけでも今後使えるプレイだ。

「なってませんよ。ウルフさん以外にこんなの許せるわけ」

そこまで言ってはたと思い、目を瞠りながら虚を突かれた顔をしているウルフを目の当たりにする。

「何でもないです。まだ終わってないなら、続けて下さい」

はぐらかした。聞かなかったことにしてくれたのか判断は曖昧だが、秘部を男の掌が下から上へと塗りつけるように撫でていく。
脇に放置されていたローターがウルフの手に戻り、彼の唾液が乾ききっていないそれが今度こそ入れられる。

「フ……ぅ」

冷たさにびくりとしてから半分まで飲み込んだが、再び引き抜かれ、また半分近く入れられる。それを何度か繰り返したところで男根に模した部分が全てなかに挿し込まれた。
ローターは男性器部分のカリとクリトリス用の小機であるカリが一体化したもので、全体のシルエットはカニの鋏に似ている。

最奥まで入れられたことで、短いカリが散々刺激を受けたばかりの粒を容赦なく先端で弄くる。汗ばんできたこともあり、意識がぼんやりし始めてきていたフリットの口元は緩み、小さいながらも嬌声が断続的に漏れていた。

ローターのスイッチを押せば、なかで異物がうねる。粘液を掻き回され、表情が一際とろみ出したフリットをウルフは一瞥する。所有したいわけじゃないんだがなと、一瞬考えたことを霧散させる言葉を胸に抱く。けれど、性感をどうにかしようと身を丸くくねらせ、快感に濡れる目元と口元は扇情的で、当たり前のことであるのにこんな顔もするんだなと初めて知ったように思う。
だからだろうか。ウルフはフリットの頬を捕らえて顔を寄せる。

「可愛いな」

全ての感覚が一度飛んだが、相手の言葉を受け取った途端に刺激が柔らかくなる。感じ方が変わったことが、言われたことが、睫毛が縁取る瞼を震わせた。

「………ゃ…」

何に対してのことなのか、フリットにも判らなくなっていた。ウルフの手が離れたローターは膣を犯したままで、手持ち部分がヴァギナの入り口で淫猥に揺れている。
機械音がどこからしているのか、股を大きく開いた自身の媚態を現実として想像すると、忙しなく恥ずかしい。

もっと顔を寄せてくるウルフに抵抗をする気は全く無く、フリットは彼の口元に視線を向けていた。けれど、不自然に動きを止めたウルフは軌道修正するようにフリットの首筋に口を寄せた。

人間の脆い部分である首への甘噛みを許していたフリットは遅れて自分の右の腿に当たっている硬いものに気付く。
擦りつけやすいように足の位置を変えれば、首から顔を上げたウルフが苦笑した。荒く呼吸しているのが精一杯のフリットは気持ちだけで首を傾げる。正直、もう絶頂に達しそうだった。

それが分かったのだろう。ウルフはローターに手を戻し、前後に動かした。中途半端なところを蠢いていた先端が、最奥に何度も突き込まれ皮膚が引きつる。湿った音が全身を卑猥で覆う。

「―――ぁ、ア」

ん、と余韻の声を漏らし、フリットは引き抜かれたローターに視線は向けずに快感を逃そうと足をきゅっと閉じ合わせてびくびくと全身を震わせる。
その反応に元々感じやすいのだろうと思うことにした。性感を憶え込まされたという一方の考えには蓋をして。

「すぐ動けないようだったら、先にシャワー借りて良いか?」

今の様子では立ってもふらつきそうであり、フリットは暫く横になっていたほうが良い。自分の方は下がこの状態だしなと、ウルフは処理を考える。

「それ、どうするつもりですか?」

呂律はしっかりしていたが、いつもよりゆっくりした口調で言われる。
フリットはまだ鎮まっていない身を起こし、シーツの上に座り込む。胸と股を手で隠すように浅く抱いて、ウルフの下半身に目を向けたまま返答を待っていた。

「抜いてくる」
「シャワー室で?」

ウルフが頷き返せば、フリットは眉を歪める。

「おい、今更関係無いだろ。お前が日頃使うところで俺がオナニーしようが何しようが」
「別に……」

それは了承と取って良いのかと、ウルフはベッドから立ち上がった。制止する声は無いので、確認のためにフリットを振り返れば、縋るような視線が向けられていた。

不特定多数の女と戯れてきたことはあるが、ここまでと終わった後でそんな視線を向けられたことはない。そういう性格の女は後々で面倒臭いからだ。それを見分けるぐらいの鼻はある。フリットは折衝が必要な時にヤるだけだろう。そこに感情を置いてはいないはずだ。
だから、この状況は不味いと背中を向けるべきであったのに。

自分と誰かを比べても両者の間に意味は成さない。
ウルフとフリットでは行為が同じでも目的や意思はかけ離れていた。生死の狭間にいれば人肌を求めたくなるものだ。慰めは哀れみではなく、支えだろう。そう思えるからこそ、フリットはウルフの女癖を間違ったものと捉えることはなかった。ウルフ自身がそうしたい時もあるのだろうが、相手のためにすることが多いのではないか。

だから、己の思惑だけのために身体を使っている自分は彼と交わることはない。もし、交われば、全て水の泡になる。
それなのに、顔を寄せられて言われた言葉が何度も胸の奥で再生される。

こんな熱の感じ方は今までになくて、どうすればいいのか分からなくなって。自分が今、どんな顔をしているのかも知らないまま去っていこうとするウルフを見上げていた。
――独りにして欲しくない。

「僕で、すればいいじゃないですか」

僕「と」と言わないあたりに、フリットも逸らそうとする意思が垣間見られた。だからだろう。ウルフも気が傾き始める。けれど、今まで踏み込んでこなかったことを思う。

「フリット、」
「気が変わらないうちに決めて下さいッ」

ある意味での誘い文句だった。女が誘っているのに乗らないのは狼のルールに反する。誘い方が下手くそだがと、一言付け加えてウルフはフリットに触れる。
押し倒されたフリットは不安な顔を目の前のウルフに向ける。

「気が変わったか?」
「いえ」
「俺もコンドーム持ってないんだが」
「……用意が悪いですね」
「お互い様だろ、それは」

けれど、それがどういうことか分かっているよなとフリットに視線を落とす。

「検査では異常はありませんでした」
「まぁ、それもだが……」

生真面目を通り越してクソ真面目だなと、ウルフは気が削がれそうになる。けれど、此方の身体の下にある女は胸を上下させているが、緊張によるものか動きは規則正しくない。口に反して、身体は分かっているようだ。

「切羽詰まってるんでな、遠慮はしねぇぞ」

そんな簡単に壊れる身体じゃないと込めてフリットは頷く。
胸上に留まっていた服を剥ぎ取られてから間を置かずして、ウルフが取り出したものがフリットの陰部に挿し入れられる。入り口でくちゅりと音をさせて、とろとろになっている膣は一気にファルスを全て飲み込んだ。

内側にあるウルフを意識してフリットのなかがひくひくと陰茎を包む。避妊具無しで繋がるのは初めてだったフリットは肉同士の絡み合いに戸惑うが、動かされる度に離れがたいとする粘膜に気持ちを委ねてしまう。

しかし、色々と思っている時間は長くなく、速度を持った陰茎に膣が激しく掻き回されて腰が浮く。シーツに膝を突いて腰を上げたウルフはフリットの腰と腿に手を持っていき支え、より密着させて深く食む。

「ャ……駄目、ンン」

口元に手の甲を添え、フリットは声を抑えようとする。それでも隙間から漏れる熱い呼吸にか細い嬌声が混じる。
高揚し欲情している女の顔に、情欲をそそられた狼は密着を激しくさせる。しかし、その顔を他の男にも見せていることを思えば、何処かが騒がしくなる。抑え込むために、ウルフはフリットの肩に牙を向けた。

「ッ、」

噛まれた痛みに眉をしかめたフリットは、それに何か意味があるのかとウルフに視線で訴えた。

「キスマーク、付けさせるんだな」
「え?」

付けられた本人は気付いていなかったようだ。その話は肉欲と快感にすり替えられて有耶無耶になり、フリットは込み上げの限界に、未だ肩口に顔を埋めているウルフの頭を抱き込む。

汗で湿った柔らかさを持つ銀髪の感触が珍しかったのか、意識が飛びそうなのにも関わらず、確かめるように少しだけ撫でられる。無意識だろうかと、ウルフはフリットの首筋を舐めた。これでは狼ではなくペットに近い気がしたが、主人を喰う愛玩では主従は成立しない。そういう間柄でもないしなと、ウルフは容赦なく突き上げた。

「はっ――ァ、ァ………んゃ」

息を詰めて吐いた口から一際高く、甘味の含まれる嬌声が耳を揺らす。きゅうきゅうと膣の内側が絶頂感に打ち震えていた。

「ぁ、うそ……ッ、まだ」

イっている最中であるのに、前後に揺すられ、フリットは全身をひくつかせたまま為す術無く追加される快感に翻弄される。

「遠慮はしねぇって、言っただろ」

荒くなった呼吸混じりに言われ、ウルフも興奮していると分かる。それだけで良いような気がして、フリットは終わらない絶頂感に身を任せた。

「―――ア………く、」

どちらかであったのかもしれないし、どちらもであったのかもしれない声。
膣から引き抜かれたファルスの先端から出される白濁が太腿などに掛かっている感覚があるが、そちらに目を向ける気力はない。しかし、腕を取られ、背中を起こされる力に首を揺らす。

ぼんやりした動きで顎を引き上げたフリットはウルフの顔を見てから体勢を確認した。坐すウルフに自分が跨がっている対面座位に、フリットは瞬く。

「すまんな。思ってたより溜まってる」

だからもう少し付き合えるかと尋ねてくる視線に頷き、フリットは腰を浮かす。角度を整えたウルフに腰を下ろせば、入り口付近での接触に粘つく音が聴覚をつつく。

絶頂感を経たことで柔らかく絡みついてくる内肉にウルフは唾液を飲み下した。
大概に区切りを付けるべきなのを理解しているのに、停められなくなっている。理解と別の部分での欲がそうする。

フリットを「そういう人間」だと決めつけているわけではない。そういう一端は持っているべきであり、汲み取れば良いだけの話だ。だから、此方の一端を差し向けることは理性で押さえ込めていた。
目に見えるものが全てではないと知っておきながら、目に付く男の痕跡と臭いが鼻につく。しかし、それらの苛立ちは元々ウルフの内側にあったものだ。

気付いたら女になっていたというのも変な話だが、実際そうであったとしか言いようがない。
迷いにも選択にも決断を下すのは本人の役目だ。正当性より自我を優先することを不当だとは考えない。フリットはどう思っているかは知らないが、自分もやっていること自体は彼女と大差が無い。

本音を述べてしまえば、嫉妬が燻っていたのだ。知らない間柄でもない存在を顔の見えない誰かが呵(さいな)む。だが、普段なら割り切る程のことでもない。
フリットだからかと、胸の内で言葉にしてみれば、案外素直に腑に落ちた。

まだ足に力が入れられないフリットは自身の中を意識する。最初のは直ぐに動かれて色々分からなかったが、じっとしてみれば圧迫してくる肉塊の形が何もかも伝わってくる。
想像が先行し、疼きにフリットは腰下を揺らめかす。

「ん、」

乱れる嬌声を聞いてみたいとも思うが、自制心で耐えようとする仕草も悪くない。
互いの接合部に触れ、尻の丸みを揉み撫でる。目の前にある乳房にウルフは唇を寄せ、舌で弧を描くように転がす。フリットの眉が歪むが、不快から来るものではなく、どうしようもない感覚への戸惑いが表れていた。

次第に自ら腰を上下させるフリットは足に何かが当たったような気がして、視認した。足に触れたのはローターだった。
あれを使っていた間は繋がるつもりではなかったことを思い起こして、フリットはひたっと冷えた感覚を得る。ウルフでなければならないのか、それとも、誰でも良いのか。後者であったならばと、怖くなったからだ。それでも身体は男を求めていた。

最初は一度だけならと汚した。けれど、そうすれば、二度やっても同じだと繰り返し。また繰り返した。
脅されたことなどないのだから、止めようと思えば止められたのだ。駆け引きの手段だったとしても、ただ単に男の味に酔いたかっただけではないのか。

それを知るのが怖くてウルフとはすべきでないと本当は判っていたのだと、この瞬間になって初めて本心に気付いた。
この男と交わるべきではないと何度か浮き上がらせた言葉が重みを増して今、自分を内側から覆っていく。

「……フリット」

此方の顔を真っ直ぐ見つめるウルフにフリットも最中だが意識を向かわせる。眼を細めたウルフは彼女の肩に触れて少し距離を空けるように押す。

「やめとくか?」

まただと思ったが、この状態での突然の言にフリットは何を言われたのか分からないとばかりに混乱に表情を動かす。その反動で、頬を流れ濡らすものがあった。

「痛いわけじゃ、ないです」
「そうじゃない。気が乗らないんだろってことだ」

生理的なものでないことを見抜かれている。

「お前は誰を見てる」

違う。と、フリットは首を小さく横に振る。
自分を今、満たしているのはウルフだとちゃんと理解している。理解しているからこそ、それだけではいけなかったと気付いてしまった。
見抜かれてはいるが、ウルフはそこに気付いていない。

声色から呆れているわけでも、責められているわけでもないと分かる。今、こうしている現状こそが掛け違った。引き返すには遅い。
それでも、これ以上の泥濘(ぬかるみ)に沈むことはないと、宥(なだ)められていた。
思考に傾いていたことは認める。しかし、見ていたわけではない。

否定の仕草をするフリットにウルフは顔を顰めそうになるが、堪え、繋がりを解いた。シーツに尻餅をついたフリットの表情は俯いていて見えない。

望んだ通りになったはずなのに、フリットの戸惑いは大きく広がっていくばかりだった。自分自身がこんなにも判らなくなったことなどないのにと思い至ったが、それは近くにいる男が、迷いに立ち会った自分を進ませようと今まで誘(いざな)ってくれていたからだ。

今は、そうではない。教えて欲しいと指導を願って、最初の内はいつも通りであったと思う。
支えがなくなり、寄りかかる場所を見失った事実を知り、迷いだけが残っていた。

どうすればこの迷いが未来に転じるのか、助言が与えられない状況下で自分で考えなければならなかった。
このまま、動きもせずに去るウルフを見送れば、自分は誰でも良いのだろうと同じ事を繰り返す。特別なものを知らずに。けれど、ウルフと続けても、結果は同じ可能性はある。

ウルフからの反応を想像するのは怖くて、フリットは指を震わすが、自分なりに決断した。
膝を立たせたまま、自ら大きく足を開く。両腿の下から手を差し入れ、ヴァギナの両端に指を添えて広げる。

俯いていた顔を上げ、フリットは恥ずかしさでどうにかなりそうな気持ちを据えたままで表情を一切動かさないウルフの顔を捉える。目を逸らすわけにはいかない。それでは決意を通せないから。

「僕は、ウルフさんと……」

唇が震えてその先が続かない。目を閉じてしまいたくなるのを堪えるので精一杯だった。
こんなふうに誘うのは自分のプライドにも反することであった。そうしても良いと思えた自身に少なからず驚きは芽生える。けれど、それが羞恥を覆すことはなく、全身の震えは制止しないどころか、閉じているべきの内壁を晒して膣まで震えているようにひくついていた。

シーツが擦られる音がする。が、それを聞くまでもなく、ウルフに視線を固定させていたフリットには全てが視界の中で動いていた。
足の間にウルフが顔を埋めてきた。そこに彼の息が掛かり、くすぐったさに足を閉じかけるが、つま先を突っ張るようにして維持する。

精彩な色を保つそこを舐めれば、フリットは酷く震える。あんな痴態を見せられては、自分の理性を繋ぎ止めていられるわけがない。
途中で匂いが変わったフリットを嗅ぎつけてみれば、目元を濡らしていた。踏み込みすぎたのだと思った。自分を優先させすぎて、フリットのことに気を回せていなかった。
一時だけでも男と女の関係になることをフリットが望んでいたわけがない。いつも通りでいてくれと約束してきたのがその証拠だ。

当人が思い当たる節があるかどうかは判らないがと、適当に言葉を投げれば首を横に振られた。それが意味するところは、誰かを霧散させる為の仕草ではなかったのだろうか。しかし、そうでなかったならば。

フリットに覆い被さるように動き、ウルフは耳元で言葉を掛ける。自分「と」したいと、フリットはそう言ったのだと通ずるものを。
ウルフはフリットの両の手を取り、互いの掌を重ね合わせ、指を絡み合わせる。すれば、フリットも手指にしっかりと緩やかな力を入れ返した。
再熱するが、繋がった場所から初めての熱が溶け出していく。





























◆後書き◆

理解出来ないよりも、理解してしまう方が余程怖いと感じることもあるのではないかと。それ故に煮え切らない場面を繰り返し入れてしまったので、かったるくなってしまっていたら申し訳ないです。

しかし、何故にパ◯パンにしようと思ったのか自分でも謎です。ウルフさん的には餓鬼だった頃を知っているってのもあって、他の男にそんなところに手を加えられていたらどう感じるものでしょうかという具合でやったんでしたっけか……(?)

接吻シーンがないのはわざとで御座いまして。口の中が人間の身体の中で一番感じる部分らしいので、今の段階ではまだ駄目ですわとお預けです。

Perversion=曲解

更新日:2013/05/18








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