◆FATAL◆
先日と同じポイントに刹那は向かっていた。
自分でも何故あんな申し出をしたのかは分からず、ロックオンにも反対されたが、ただ、もう一度確かめたかった。
報告書に書いた通り、ユニオン軍がいたことが気にかかると言えば、スメラギも通信画面越しに溜息を一つ吐き出しただけで、了承は貰えた。
再び、心配そうな顔をしていたロックオンが脳裏を過ぎるが、自分はそんなに子供のつもりもないと首を左右に振った。
しかし、彼が再び此処を訪れる確信など無かった。
いなかったら、いなかったで帰るだけである。
足場の悪い土を見下ろしながら登り、ふと顔をあげた瞬間。
「やあ。また会ったな、少年」
「なッ!?」
「おっと、危ない」
まさしくもう一度確かめたかった人物が突然目の前に現れて刹那は咄嗟に後ろに退いたが、足場が悪いことも働いてバランスを崩す。
けれど、そのまま転げ落ちる前に目の前の軍人は穏やかな表情を浮かべたまま、刹那の背中に手を回して小さな身体を支える。
刹那は驚きに目を丸くしていると、目の前の軍人、グラハムはくすりと笑うと刹那の耳元に唇を寄せた。
「これも運命かな、また君と出会えようとはね」
「ッ!」
刹那はグラハムの胸板を叩き退かし、隠し持っていた銃を突き付ける。
心臓が警戒音を鳴らし、地元の子供のふりをしている余裕は無くなってしまった。
「また物騒なものを持っているね。・・・恐い顔だ」
険しい顔をした刹那にグラハムもまた険しい顔をする。
刹那が持つ銃は確実にグラハムの心臓を狙っていた。
「貴方は何故此処に居るんです?」
それでも自分を隠し、本性は出来るだけ表に出ないように声を出す。
震えていないことが救いだ。
「そのままそっくりその質問を君に返すよ」
「・・・・・・・・・」
「答えられないかい?なら、私から答えよう・・・しかし、答える前に、失礼」
「何ッ!?」
グラハムは刹那が持つ銃を蹴り上げる。
刹那が空へ向かう銃を見上げた小さな瞬間を逃さずに刹那の手を掴み捻り上げようとするが、刹那は手を取られたまま掴んできたグラハムの腕の脇を通り、グラハムの首を腕で固める。
グラハムは逆に捻り上げられた腕を刹那の手を離すことで逃れた。
しかし、首の痛みの他に違う感触を背中に感じたグラハムは暫し疑問の旅に発つ。
「しょう・・・・・・ねん?」
「何をしている。此処で」
「君に会いに・・・来たッ」
更にきつく首を締め上げられるが、余計に背中の感触が鮮明に伝わり、首の痛みどころでは無い。
グラハムは自分の理性を振り払うように、勢い良く前屈みに腰をおり、刹那を背負い投げた。
「ぐっ」
「私とて軍人だ。そう簡単には仕留められんよ」
グラハムは逆さまに写る刹那の顔に近づき、言う。
「ところで・・・・・・一つ確かめたいんだが、君は・・・女の子かね?」
「!?」
目を見開いて驚く顔に先程の険しい顔は見受けられず、年相応の顔にグラハムは何かを諦めたように吐息を吐く。
「まぁ、その・・・君が私の首を絞めた時に胸が背中に、ね・・・」
「ッ」
刹那は咄嗟に上体を起こし、胸を隠すように両腕で自分の身体を抱き締める。
険しかった顔は驚きに。驚きの顔は今、怯えたような顔をしていた。
グラハムはそれに首を傾げ、刹那の前に膝をつき手を差し出す。
「大丈夫かい?私が何か気に障ることをしてしまったのなら、謝ろう」
暫くじっと刹那は眉尻を下げたままグラハムを盗み見るように見上げていたが、その手を取らずに視線を落とし、ポツリと言葉を落とす。
「・・・・・・いや」
グラハムの手を借りずに立ち上がった刹那であったが、突然の立ち眩みに足が竦(すく)み、再び地面へと座り込んでしまった。
「どうかしたのかい?気分でも・・・」
気に掛けた声も刹那には届いておらず、刹那はグラハムにもたれ掛かるように気を失ってしまった。
それを受け止め、グラハムは複雑な感情を抱きながらも、何処か休むことが出来そうな場所はないかと刹那を抱き上げて山場を登り始める。
都合良く、深さは無いが小さな洞窟を見つけたグラハムはそこに刹那を少し痛いだろうが、枕ほどの大きさの石に頭を乗せてやり、横たわらせる。
突然倒れた時よりも顔色は青くないことにホッとする。
既に日は暮れている。
基地に連絡しなければならないが、生憎、長居をするつもりはなかったので通信機は車に置いてきてしまっていた。
このまま刹那を基地に連れていっても良かったはずなのだが、グラハムは何故か思い留まった。
少しだけ大きな風が洞窟の中に吹く。
風のせいで砂を被ってしまっただろうかとグラハムは刹那を覗き込む。
しかし、砂を払おうとする前にうっすらと目を開けた刹那に声を掛けるという選択肢を選んだ。
「大丈夫かい?」
「・・・・・・」
刹那はぼうっとグラハムを見上げ、ぽつりと呟く。
「・・・ロックオン」
呟く名は知らない者。
しかし、それよりも刹那の表情に固まってしまう。
安心したような僅かすぎる微笑は敵意とはかけ離れていて、グラハムの虚を突く。
咄嗟に自分の口元を押さえても、グラハムはみるみる顔を赤くしていく。
「困ったな、これは」
次第にまた刹那は瞼を閉じて夢の中へと帰る。
それを見送り、グラハムは微笑と共に息を落とす。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
刹那の髪に触れる。
少しだけ砂を被ってしまっていたようだ。
「刹那ー!何処だッ、返事しろー!」
遠くから誰かを探しに来たらしい男の声にグラハムは刹那から手を放し、その頬に唇を寄せて呟く。
「刹那・・・また会おう」
聞こえていなくても良い。
これは自分に言い聞かせるだけのもの。
彼女も戦場に立つ者だとその瞳の強さを見れば分かった。
次ぎに会うのは戦場だとしても。
刹那はグラハムが去った直後に目を開ける。
上体を起こし、頬に手を当ててみる。
側にいるのがロックオンだと思っていたが、途中で違うと気付いて狸寝入りをした。
向こうには気付かれていただろうか・・・。
しかし、名前を知られてしまったな、と何処か他人事のように思う。
暫くすれば、明かりが此方に向かって来た。
「刹那!」
少しだけ焦った声に顔をあげれば、心配そうな、それでいて安心したようなロックオンの顔に出会う。
「無事か!?」
「・・・・・・だるい」
「怪我でもしてるのかッ」
「違う・・・と思う」
「思うってお前、自分の身体だろ?」
「此処が痛い」
下腹部を押さえた刹那にロックオンは首を傾げる。
「食中たりか?」
「・・・・・・・分からない」
いつもなら睨み付けてくるであろう言葉にも刹那は分からないと首を左右に振り、流石にロックオンも心配せざるおえない。
先に留美の飛行機に帰るのが最優先だと決め、刹那と並んで山を下って行くが、あまりにも刹那の足取りがふらついていたため、ロックオンは刹那を背中に背負う。
それには流石に刹那も不服そうな顔をしていたが、反抗する元気も無いらしい。
帰り着き、留美と王家の主治医に刹那を任せると、先に医務室から出てきた留美がロックオンに一言。
「初潮のようでしてよ」
それにまぬけな顔を晒してしまったロックオンを気にもとめず、留美はロックオンの横をすり抜け、振り返ってもう一言。
「私もさっき知ったばかりですから、お気になさらないで下さい」
いや、無理。
◆後書き◆
『fatal』(悲劇的な)運命を決する,一か八かの
初のにょたセっちゃんでしたv
長編でにょたもやりたいですが、ネタを試行錯誤中ですw
某所でハム女体化を希望された時はビックリでしたが、今なら書けるんじゃないかと思っている・・・(汗)
何か新キャラでサラサラヘアーな金髪な人とかと絡ませたい♪
更新日:2008/01/14
ブラウザバックお願いします