◆EXUSIAI◆
過去と重なる情景に怒りが襲いかかる。
数体のアンフから左腕に装備されたマシンガンの攻撃をエクシアはシールドを使わなくとも弾く。
旧型のアンフとでは性能が違いすぎるのだ。
だが、冷静に戦うなど刹那には出来なかった。
シールドを投げ捨て、地面に突き刺す。
もう既に息絶えてしまった人・・・子供もたくさんいる。
銃を持って戦おうとしたその小さな手はきっと、昔の自分と同じように肉刺(まめ)だらけだろう。
同じ事の繰り返し。連鎖。
それを根絶させるのが、ソレスタルビーイング。
ビームサーベルを引き抜き、アンフを斬る。
切り刻むように刃は赤い光を放ち、内燃機関を搭載しているアンフは次々と自ら爆発していく。
それは力任せに斬りつけているようでもあり、決して神のような存在ではなかった。
エクシアの名の通りの天使でも無く、むしろ悪魔を滅する能天使が陥りやすい堕天使の姿に酷似していたであろう。
全てのアンフを倒しても、刹那の心は晴れなかった。
血が滲む土はあの日と同じ。
救ったのもあの日と同じガンダムであるにも関わらず、人を救うことは出来なかった。
「俺は・・・ガンダムになれない」
アザディスタンを救えたとしても、本当の意味では救えなかったのだと、刹那は両の拳を強く握りしめる。
あの時のガンダムのように自分は救えなかった。
デュナメスに乗るロックオンはエクシアを発見し、その周りを見渡す。
「刹那・・・」
惨状はあまりにも非道かった。
外に出れば焼ける臭いは鼻を刺すだろうことは容易に想像出来るほどに辺りは荒れ果てていた。
刹那がアザディスタンに向かった後、ロックオンは与えられた部屋からある場所に向かった。
「PCを貸して欲しいとは、どのような御用件で使うおつもりですか?」
王留美に申し出たロックオンの言葉に留美はやはり良い顔をしなかった。
おそらく何に使うのか予想がついている顔だ。
「分かってて言ってるだろ」
「ええ。しかし、貴方の決意が本物かどうか、私も見極めねばなりません」
「お堅いね」
「これでも令嬢でしてよ」
軽い冗談の言い合いも此処までだと、留美は微笑を浮かべていた顔を真剣な眼差しに変える。
「紅龍、アレを」
「はい。お嬢様」
留美の側近である紅龍は一枚のディスクが入ったケースを留美に手渡す。
椅子に座っている留美は手にしたディスクを一度眺め、ロックオンの目の前に見せるように自分の頭上に持ち上げる。
「これは?」
「刹那・F・セイエイは自分がアザディスタン出身だと言いましたでしょ?ミッションに支障が出ては私も困ります。私だって申し訳ないとは思いましたが・・・ヴェーダからの許可もおりました」
「彼奴の・・・」
「全てではありません。あくまでも客観的に見た彼の個人情報。私も彼の身に何があったのかまでは知りませんが、あの国の情勢が良くなかったことは調べれば判ることです」
留美はディスクをロックオンの目の前から下ろし、自分の目線に戻す。
しかし、ディスクではなく、ロックオンを見据える。
見上げられているのにも関わらず、見下ろされているような感覚にロックオンは顎を引いてしまう。
「軽い気持ちで先程の言葉を口にしたのなら、私は貴方に対する評価を下げねばなりません。いかがしますか?」
「俺は・・・軽い気持ちなんかじゃねぇ。刹那の過去を知ったのなら、俺の過去を刹那に話す覚悟は出来てる。それが礼儀ってもんだろ」
暫しの時間、ロックオンと留美は睨み合い、留美が先に表情を崩した。
苦笑に溜息。
それには少し馬鹿にされたような雰囲気が込められており、ロックオンは顔を引きつらせた。
「・・・必要が有れば貴方にも観覧許可はおりていますし。良いでしょう、このディスクは貴方に預けますわ」
「え?預けるって・・・」
「貴方が持っていて下さい。くれぐれも無くさないように」
「はあ・・・」
留美が何故機密事項に関わるものを自分に託したのか、ロックオンは判らずに首を傾げるが、手渡されたからには頷く。
「傷つけてはいけませんよ」
「そりゃ、勿論」
ロックオンは留美の言葉をディスクのことだろうと、言葉を返したが、留美は見当違いの返事に先程より大きな溜息を吐く。
「・・・・・・分かっていませんわね・・・」
ガンダム二機、エクシアとデュナメスは駆けつけてきたフラッグ達にこの場は任せたとばかりに留美が所持する大型飛行機へと帰還する。
実際は貨物庫であろうスペースをガンダムの格納庫代わりにしようさせてもらっていた。
留美に出迎えられ、部屋で休むように進められたが、スペックの確認などもしたいと申し出たロックオンに留美は納得したように引き下がり、紅龍を引き連れて自室へと戻る。
ロックオンが二人の姿が見えなくなったところで刹那を見下ろせば、彼はロックオンをじっと見上げていた。
「何だ?」
「珍しいな。あんたがミッション後に整備するなんて」
「ま、砂漠は足場が安定しないからな。それに、理由はそれだけじゃない」
「ッ!?」
後者を言い終わらないところでロックオンは刹那の腕を強く掴んで、上に引き上げる。
爪先だけが地面と接しており、いつもより近くなったロックオンの顔に腕の痛みよりも視線を逸らすことを刹那は優先する。
「逸らすな」
けれど、ロックオンはそれを許さずに刹那の顎を掴んで無理矢理にでも此方を向かせた。
それには流石に刹那も不機嫌を露わにする。
「感情的になるなって言っただろ」
「・・・分かっていると言ったはずだ」
「分かってないから、あんな戦い方をしたんだろ!」
「お前に・・・何が分かる!」
刹那はロックオンの腹部に膝蹴りを喰らわせて、緩んだ手から逃れてロックオンと距離を取る。
本気で蹴ったわけではないので、ロックオンもよろけただけだが、警戒を露わにする刹那に肩を竦ませる。
「・・・・・・アザディスタン出身ってのは嘘だろ」
「・・・・・・」
余計に刹那は警戒の空気を纏い、ロックオンはしまったと頭を掻く。
慎重に言葉を選ばなければ今後、刹那との会話は出来そうにない。
「クルジスがお前の国だろ?」
「既にアザディスタンの一部だ。嘘は言っていない」
「それはそうだが・・・俺も他人の過去を探るのは好きじゃないんだがな」
「何が言いたい」
「お前を他人に見れないってことだよ」
表情を緩ませて優しく笑ったロックオンに刹那は目を丸くした。
年相応に首を傾げた刹那から警戒の色は消えており、ロックオンが近付いても逃げようとはしなかった。
手を持ち上げたロックオンにまた前と同じように殴られるのだろうかと思い出した瞬間に来るであろう衝撃に備えて瞼を閉じたが、来たのは温もりだった。
左頬に触れる大きな手に閉じていた瞼を持ち上げてロックオンを見上げれば、辛そうな顔をしていた。
「何故そんな顔をする・・・」
「え?・・・あぁ、悪い」
しかし、問い掛けられた疑問には答えられない。
きっと、本当のことを言ったら刹那は嫌がるだろう。
本当に上手い言葉が見つからなくて、ロックオンは黙ったまま、刹那の頬を撫で続ける。
刹那は不思議に思いながらもロックオンの手を振り払えなかった。
その理由は自分でも分からず、時折くすぐったそうに眼を細める。
「お前の国のことを知ったんだ。俺もお前に言わなきゃな」
「言わなくていい」
「いや、それでもな。フェアーじゃないだろ?」
「あんたの事を気に掛けて生きるつもりは無い」
刹那はそれを言い終えるとロックオンの手をゆっくりと払いのけた。
少しだけ名残惜しそうな刹那の様子にロックオンは苦笑しながら刹那の頭を撫でる。
「寂しいこと言うね、きかん坊」
「うるさい」
この時、ようやくロックオンは留美が言っていた「傷つけてはいけませんよ」の言葉が刹那に対してのものだったという事に気付く。
自分もまだまだ若造だということを思い知らされた気分ではあるが、刹那の機嫌が良さそうな顔を見られれば安いものかもしれない。
触った直後に手を振り払われなくなった今がとても大切だと思える。
◆後書き◆
『Exusiai』能天使
エクシアの名前の由来らしい天使の名前から拝借w
現在、天使についての00資料のページは制作中です。
更新日は元旦ということで、皆様、明けましておめでとう御座いますm(_ _)m
更新日:2008/01/01
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